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もっと強く3

***


「うぇーい、飲んでるー?」



オレンジジュースの入ったグラスを手に里穂が顔を赤らめて笑いながら肩を組んでくる。


鼻歌をうたい、上機嫌に身体を揺らしてくる。


ここで里穂に合わせると大人の矜恃が崩れると判断し、揺れに合わせて目を閉じた。


何故か私と里穂はよく酔っぱらいの真似をして、ジュースを一気飲みし感嘆の声をあげていた。



(あー、ビール飲みたい)



その苦味に最初はゲッソリしているのに、いつの間にか求めるようになる中毒性。


スカッとしない日常の中に喉を通る瞬間だけ訪れ開放感。


言語化できない叫びを泡とともに飲み込むのが理想的だが、飲まれてしまってはバツが悪い。


好きなツマミをつついて一人黄昏れる。


中年男性だけが哀愁をただよわせて飲むわけではないと現実を知った。


だがその一人の時間もまた良いと思い、楽しむようになってくるのもまた現実。


会社の人がいるだけでマイナスにも感じるお酒の不思議。


酔いとは結局、自己陶酔の世界と考えているため、境界線の外側にいる人が入り込むと覚めてしまうものだった。



ジュースを飲みながら、脳内でビール片手に好物を食べる至福のひとときを思い出す。


焼き鳥なら砂肝にぼんじり、焼き肉ならタン塩とホルモン、野菜ならきゅうりの浅漬け。


高校生のときはモモ焼き鳥にカルビ、ポテトチップスが選択肢であったはずだ。



「でも甘いものは今も変わらず好き……」


「女子は元気やなぁ」


「えっ!? 山村いたの!?」



ウットリとした呟きに、忍んでいた拓司がひょっこりと現れる。


里穂の隣に腰かけてもぐもぐとフライドポテトを頬張っていた。


全く気配を感じさせずに現れた拓司に里穂が色気のない低い声でゲンナリした様子を見せる。


酔いはどこかに飛んでいったようだ。



「そんな存在否定しんといてよ」


「山村キモい」


「いいやん、俺だってリア充したいんよ! 由利ばっかずるいわ!」



毒舌な里穂の攻撃を受けながらも食べる手を止めないあたりは強靭メンタルである。


やけにリアル充実にこだわっているようだが、こういう場に強行突破できる時点で充分強者だと考える。


彼氏彼女がいないだどうだと騒いだあの頃が懐かしい。


遠い過去のことのはずなのに、その空気に混じり込む自分への違和感を覚えた。


笑って、騒いで、駆け回る。


本来、そこに私はいない。


当時、ドラマティックなことはなかったが、退屈だと思ってた授業や、必死にしがみついた部活動も、今思えば悪くない。


後悔はたくさんあるけれど、過去として見るようになった。


客観視できなくて泣いていたはずなのに。


何歳になってもこの傷は忘れないと叫んでいたはずなのに。




笑っているみんなを見る私は傍観者。


あれだけ嫌って否定した主役たちに混ざるエキストラ。



(黒咲くんのことだけは、見え方が違う)



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