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誰が為に偶像となる1

***



村の全景が見える場所に、麻理子が立つ。


画面越しの麻理子は少し大人びた表情で、不安定で、そこに立っていることに違和感のある姿だった。




「あたし、自分はすごいかわいいって思ってたんだよね。みんなかわいいかわいい言ってくれるし。 昔からお姫様だなんだ言われて自信あった」



風がふき、ポニーテールでまとめた長い髪が揺れる。


静かな風の音と、草が触れ合う音だけが効果音になっていた。



「でもテレビで同い年のアイドルを観るようになって、あたしはここまでなんだって悟った。


小さな世界の小さな町で、人の少ない学校でかわいいって言われる程度で、アイドルのドキュメンタリーにさえならないんだなって」



笑っているのにその毒は強烈で、折れやすい。



「アイドルって、頑張ってるだけで映画になるじゃん? ドキュメンタリーって言って、それだけでたくさんの人に勇気を与える。


同い年で、あたしだって頑張ってるはずなのになんでドラマやドキュメンタリーにならないのかなーって」



むなしい。


満たされない。


スポットライトは不平等だ。


スポットライトの当たる努力と当たらない努力になんの違いがあるのだろう?


否定したいわけじゃないのに、努力が可視化されて、批判さえも身にまとい、人工の光を浴びる。


成功も挫折も、賞賛も批判も、全てがドラマになって目に見えるものになる。


あなたの存在がたくさんの人に爪痕を残す。


小さな田舎の片隅で、どれだけ笑って泣いても、ドキュメンタリーになっても視聴者はいない。



「あたしはあまりこの町が好きじゃない」



努力が報われない世界。


夢のない世界。


努力は必ず報われるなんていう上から目線はクソ喰らえだ。


アイドルの努力と何が違う?


過呼吸になれば、涙をこらえてステージに立てば田舎の片隅でもスポットライトは浴びるの?


華やかな世界の努力は、足もとに泥があるというだけで世界設定の感動があるんだ。


何者でもないちっぽけな女子高生の毒吐きは惨めですか?


この満たされない想いから解放されたい。



【なんでもいいから私を見てよ!】


【この想いを、誰が責められる?】



偶像であろうと、崇拝されたい想いを捨てられない。


だってあたしは、スターになれない。


その虚しさはきっと、一生捨てられないから。


涙を流して、報われたとき、努力というコトバで暴力を正当化できると叫ぶあたしは、最低ですか?


努力って、素晴らしいことのはずなのに。


暴力に感じるのはどうしてですか?



「でもここはあたしをアイドルにしてくれた人がいる。あたしなんかに憧れたって言ってくれる同級生がいる」



これも、誰かにとっては暴力。


田舎の片隅にいる箱庭のアイドルもまた、誰かにとっての叫びになる。



「そしてあたしを星の女王様にまで持ち上げてくれた」



ならばあたしは【偶像】になろう。



「単純に嬉しいよね。あたしを語ってくれる人がいるんだ」



努力が形になって、女王として君臨する。


念願のドキュメンタリーだ。


この涙さえ、感動も批判も、すべてが価値となる。


お金という可視化された価値になる。



「なのにそれだけで満足できないあたしってわがままだなって」



これ以上、登れないはずのあたしに巡った奇跡。


お金という価値にはならないけれど、誰かにとっての女王になることに意味があると信じたい。



「せめてこの日くらいは女王様になりたい。 みんなに絶対を魅せられるなら、お姫様をやめて女王様になるよ」



小さな島国の、田舎の片隅に君臨した女王様。


これが石を投げるためのアイドル。


あたしにポニーテールは必要ない。


シュシュなんかで飾りつけなくていい。


被るべきは、偶像のための王冠だ。



「さぁ、あなたは石ころに何を願う?」



【ふたご町 星祭りに女王は女の子の星になる】


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