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First Love3

降りた先は低い屋根の並ぶ住宅街で、少し歩けば山に繋がる郊外の未開発地域。


都会と自然の狭間にある人の少ない集落だった。


全く考えなしに来てしまったが、歩いてたどり着いた辺りを一望できる丘。


特別な夜だからか、なんだかんだで人がいる。


さすがに黒パンプスの女ひとりはいなかったが、意外と無心で丘を登れるものだと驚いてしまった。



(体力ないくせにこういう時だけは歩ける謎)



空を見ると星が輝いており、チラチラと流れ星が見えていた。



(みんな流星群見に来てるんだなー。でもやっぱり女一人で見に来てるのはちょっと恥ずかしいかも)



男性一人か、または大学生くらいの集団しかいない。


ポツンと立っているスーツジャケットを羽織った3センチヒールの独身女は私だけだ。


これが女の孤独というもの。


慣れたものだ。


未来予想図は結婚して子ども二人、ローンで家を買って仲睦まじく……なんていう昭和の好景気みたいだったはず。


好景気を知ることのなかった世代の私にはそれこそおとぎ話で、美味しい味かを問いたくなるものだった。



(穴場でもないかなー?)



あたたかさを求めたはずが冷えていく。


トホホと私は腰を曲げて草を踏み、その場から離れた。



「あ、こっちは人いない」



もう少し高いところへと登り、人目を避けるように歩いていくと小さな穴場スポットを発見する。


柵のない少し足場の悪い場所だが、そこから見えたものは世界を一変させるものだった。


下には住宅の明かり、上には星空、夜に駆けるは見飽きることのない光の競走。



(こんな満天の星空、こっち来て見るのはじめてだなぁ)



スマートフォンを点滅させると、時間は見頃を迎えたことを表示していた。



「見に来てよかった」



これは酔いしれたくなる光景だ。


誰にも縛られない、溶け込みそうになる幻想的なものだった。



「黒咲くんも、見たかっただろうな」



大人が子どもに言う亡くなった人の例え。


黒咲くんも星になったんだ。


もう、いない。


実感なんてないくせに、死を想うと涙が溢れた。


ボヤけた視界をそのままに私は流星群を見る。


小さい光がどんどん大きくなって、輪郭がはっきりと見えるようになっていった。



「わ、すごい! こんな近くに見えるものなんだ……」



だが夢から覚めるのも早いのが現実。


身に迫る危険にロマンティックなことを考えられるほど、思春期な脳は残っていなかった。



「……え? 近……」



真っ白な閃光が私を飲み込んだ。





「な、なんだったの?」



瞼を閉じても眩しかったそれが消えたのを感じると、ゆっくりと目を開く。


そこは流星群の空は同じでも、柵があり下に見える光景は全く異なるものだった。


それでも知っているセピア色になっていた記憶の景色。



「え、ここって……」


「時森?」


「えっ!?」



急に背後から呼ばれて心臓が跳ねる。


声を聞いただけで、まるで全身から涙が溢れそうな熱い情が込み上げる。


私は髪を乱す勢いで振り返った。




カーディガンを羽織り、ネクタイをゆるめた制服姿。



まだあどけなさの残る端正な顔に、やや長めの前髪をした夜に溶ける男の子がそこにいた。



「なんで時森がここにいるの?」



振り返るとそこには黒咲くんがいた。


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