表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/85

You were...

走る。


ただあなたを想って走る。


星と月だけが光る夜、サラサラと音を立てて流れる川を見つめ、黒咲くんは立っていた。


暗くてその横顔がどんな表情を浮かべているのかわからない。


それでも怖がっている余裕なんてなくて、私は夢中になって黒咲くんに叫んだ。



「黒咲くんっ!!」



振り向いた黒咲くんが動揺して砂利を踏む。



「時森っ!? え、なんでっ……」


「何でじゃないよ! 電話出てくれなかったら心配するよ!!」


「あ……ごめん。全然、ケータイ見てなかった……」



焦る私に対して、黒咲くんが後ずさるものだから声を荒らげてしまう。


ズボンのポケットからケータイを取り出して着信履歴を確認する。


小さくため息をついて、黒咲くんはケータイの明かりに青白く照らされていた。



「仕方ないよ。でも心配した。このまま黒咲くんが……」



また絶望に向かっていくと思うと怖かった。


未来に訪れる絶望が消えてくれない。


私は黒咲くんがどんな風に命を絶ったのかも、最後に何を思ったのかも、何も知らない。


今、目の前で生きているあなたしか知らないから。


それがどんなに人工的に照らされた顔だとしても、笑っているように見えた。



「優しいんだな、時森」


「そういうわけでは……」


「中学のときのジャージで来てくれるなんて、めちゃくちゃ心配してくれてたんだなって!!」



自分の格好に気づき、私は顔を隠す。



「待って! これは、そのっ!」


(ぴゃあー!! 恥ずかしい!! しぬ!!)



よりによって昔の芋ジャー姿を見られてしまうとは不覚である。


いや、この小さな町なのだから見られたことはあるにしろ気持ちのオンオフがある。


さらに家スタイルということもあり、前髪はヘアピンでガッチリとめていた。


中身がアラサー女だろうと、好きな人にこんな姿を見られてダメージを受けないはずがない。


こういうのは段階をふむもので、私はまだ初心者としてかわいく見られたいが先行してしまった。


パッパッと前髪をとめるピンを外して整え、ヘラっと笑った。


黒咲くんの目を細め、緩く微笑む姿に頬が紅潮した。




「なんか、時森は一生懸命でいいな。見てて元気が出るっていうか」


「えっ、あ、いや! 一生懸命なのは黒咲くんだよ! 私はただ応援してるだけっていうか……」



少し、下心でしか動いてない自分が嫌になった。


所詮、私はよく見られたいがための八方美人。


女子の言葉や態度は本当だけど、全てが善意ではないのでモヤモヤとした。



「笑っててほしいだけというかぁ……」


「……オレ、笑えてない? なんで? なんでそう思ったの?」


「あ……」



言葉を間違えた。


そう気づいたときにはもう遅く、黒咲くんの困惑して焦る様子が伺えた。


私は触れてはいけないことに触れてしまったのだと察し、言葉を詰まらせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ