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携帯電話4

***



それから黒咲くんと別れ、夜。


私は小学生の部屋のような時の止まった部屋でパソコンと向き合い、黙々と動画制作に励んでいた。


未来でちらりとみたショート動画の要領で上手いこと繋げてストーリーを構築する。


前髪をヘアピンでがっつり止め、髪を結び胡座をかきながらズボラで作業モードに入っていた。



「ふふ、意外とパソコンで動画制作出来んじゃ~ん」



これぞ作り終えたときの達成感と、誇らしさ。


最高の出来だと自負する高揚感。


作りたては興奮していて、盲目というものだ。



「麻理子様、ちゃんと感動くれたし。さすが女王様」



華がある人はやることが違うと鼻息を荒くした。


少なくとも私には華のあるアイドルだった。


満足して麻理子にメールでデータを送ると、ベッドにダイブした。


ガラケーを開くといつの間にかメールを受信していたようだ。


マナーモードにしていて気づかなかった。


開くとそれは大好きな黒咲くんからであった。


それだけで私はスキップして世界一周が出来てしまうふわふわした幸せを味わっていた。



(えーっと?)



だがメール文をみて、硬直し、急速に冷えていく。


短い文章に、黒咲くんの悲鳴を見た。



「……なんで?」

  


『ごめん。反対意見が多くてダメだった』



謝るしかできない黒咲くんの葛藤が顔を出していた。



「意味わかんない! お金だってほとんどかけないのに!」



たまらず私は黒咲くんに電話した。


だが黒咲くんは出てくれない。


着うただけが切なく流れた。


会いたくて、心が震えた。



「黒咲くん……」



通じない電話で歌を聞きながら私は気づいてしまう。


(あ、そうか。ここもそうなんだ)



社会人として生きた経験から、私はその壁を知っていた。


一人では壊すことの出来ない分厚く高い壁。


体当たりをして傷だらけになって、上から見下ろされる感覚だ。



「古い慣習。それが黒咲くんの壁だ」



昔からこうやってきた。


やり方を変えると不満が出て大変。


変えるのにもお金がかかる。


誰が責任とれるのか。



それは悪意のない若者を沈める励ましの言葉。



『これからは若者が時代を作るんだ』


『若者が頑張る時なんだ』


『自分たちは夢中で前を見て時代を築いた』


『君たちも頑張ってくれたまえ』



時代の違いが私たちを縛る。


現実の厳しさが私たちを打ちのめす。


誰も悪意なんてないから、誰にも嘆きを叫べないんだ。



(正直、どこにでもある話。辛いけど、黒咲くんが自殺することに繋がるのは何?)



こんな暗い気持ちはいやだ。


しかし黒咲くんの自殺には決定打とはならない気がする。



(何が降り積もって、絶望したの? その笑顔が曇ってしまう闇はなんなの?)



「知りたい。私は黒咲くんに幸せな未来を手にしてほしい」



ベッドから折り、立ち上がって前を見据えた。


黒咲くんは間違いなく、必要な人だから。


未来で笑っているべき人だから。


ただそれだけの想いが私を突き動かす。


長年拗らせた想いは、ずっと黒咲くんに向けられていたのだから。


私はケータイ片手に部屋を飛び出して行った。


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