携帯電話3
「あ、それって目に留まるようになればいいってことだよな?」
「すでに目は夢中……」
「は?」
「はっ!? なんでもございません!」
慌てて頭を下げて、話を元に戻す。
「これ、参考にならない?」
黒咲くんが上着のポケットから取り出したのは、七色の透き通る丸い石だった。
あの時、過去へと戻った私が黒咲くんに再会し、プレゼントしたものだった。
なんの石かは初めて見るものだったのでわからなかったが、暗くなりつつある世界でも淡く光を放っていた。
「この石、あの時の……」
「これキレイだよなぁ。 すごいんだぞ? 夜でも見えるくらい光るんだ」
空に掲げると、黄昏た日を浴びて石の中で炎が揺らめくように赤く輝いた。
見れば見るほど不思議な石である。
なぜ、そんなものを持っていたのか、覚えが全くなかった。
「まるで星を掴んだかのようで気に入ってるんだ」
「星……」
その一言に私は内側から星が溢れ出すのを体感する。
あの流星群が私をここに連れてきたのだとしたら、その石は星の奇跡かもしれない。
そしてその石の輝きは夜でも幻想世界をみせてくる。
ふたご町に落ちた奇跡で、希望の星だった。
私は手を伸ばし、石ごと黒咲くんの手を両手で包み込んだ。
「それだよ、それ! 黒咲くんすごい!!」
「えっ?」
「願いを込めて星を投げるんだよ! 流れ星ならぬ投げ星!」
黒咲くんと見た流星群。
あなたの笑顔は一番星。
星に見守られて私たちは時をかけ、巡り会えた。
私はその奇跡の光景を再現したかった。
「みんなで投げたらそれこそ流星群みたいできっとキレイだよ!!」
「光る星を投げる……」
黒咲くんの漆黒の瞳に光が走る。
キラキラ、まるで星空のようだった。
「うん、いいなそれ。 絶対キレイだ」
あなたの好きを、私は希望に変えたい。
黒咲くんに絶望が来ないように星に願いを込めて、私は未来を回避したいと祈っていた。
「でしょ? ロマンティックで素敵! 星のことなら黒咲くんだね!」
私のはしゃぎ過ぎな様子に黒咲くんは少し頬を赤くして、やわらかく微笑む。
「考えたのは時森だろ?」
「違うよ? 黒咲くんが言ってくれたから生まれたんだよ?」
私は腕を大きく広げて、希望を表現する。
私だけの力じゃない。
黒咲くんの想いがあったから事が動いたんだ。
一人で出来ないことも、想いが重なり力を合わせれば夢物語なんかで終わらないんだ。
「バラバラじゃ出てこなかった! 黒咲くんは私に力をくれたんだよ! ありがとう!」
どうか、自分を卑下しないで。
黒咲くんは一生懸命でとてもすごい人なのだから。
あなたが壊れる未来なんて、私は認めない。
その笑顔は未来へと繋いでみせる。
「……うん。ありがとう、時森。何回言っても足りないや」
「楽しもうね!」
黒咲くんは七色の石を握りしめて、口角をあげ決意する。
石の輝きが反射して、黒咲くんの瞳に波が生まれた。
「石を光らせる方法、探してみる。だから待ってて?」
「うん、待ってる」
(黒咲くんが笑ってる。その笑顔がとても嬉しい。やっぱり黒咲くんは私の好きな人。星のように光る笑顔が大好きなんだ)
本当に順調で、楽しくて、幸せで。
黒咲くんが笑うたびに酔いしれていた。
あなたの笑顔を曇らせたくないのに、希望は時に晴れから曇りに変わってく。
やがて雨になって、晴れることなくあなたは時を止めてしまったんだ。




