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携帯電話

2010年12月17日、金曜日。



クリスマスイブまで残り7日、年末まで14日。


私と黒咲くんは休み時間に、机を挟んで話を弾ませていた。


誰と向き合って話す行為にトキメキが消えない。


誰かの目を見て話すのは、思っていたよりハードルが高かったが、自分が年上という自己暗示が恐怖をかき消していた。


なにより、見つめ合うは黒咲くんというおいしい展開で私は平然を装ってダバダバ涎を垂らしていた。



「今日、夜に復興会の人たちで話し合いがあるらしい。親父が皆さんに動画とかホームページのこと話してみるって」



これでようやく計画が動き出す。


みんなで何かをするワクワクさに震えた。


こんな損得なしで、上下もないで出来るのは学生の特権だろう。


大人になればボランティアでも上下が出て、お偉いさんが居座っているものなのだから。



「これで土日にがっつりやって、月曜日に発信出来たらばんばんざいだね」


「……ありがとな、本当に。 めちゃくちゃ助かってる」


「ふへっ……へへへ。なんのこれしき、お易い御用ですわ」



よこしまな思いがとまらない。


顔がデロデロになって、溶けてしまう。


今なら変身だけの技が使えそうだ。



「時森ってそんなキャラだっけ?」


(やばい、ド変態の顔が出てくる)


「楽しいだけだよぅ! 黒咲くんが頑張ってるから感化されただけ!」


(よし、パーフェクトアンサー!)



その言葉に黒咲くんは目を丸くしたあと、照れくさそうにマシュマロのような笑顔を浮かべた。



「それが一番嬉しい。本当にありがとう」


「ぴゃあっ!?」



そんな笑顔で喜んでもらえて、感謝されるとは心臓に悪い。


もう少しその笑顔は私にとってのキラースマイルということを知ってほしい。


でもそれは告白するようなものなので、口が裂けても言えなかった。



「出た、時森の叫び」


「あーはっはっ、言わないで……」



告白はしたい。


私の未練は黒咲くんに告白出来ず、ずっとその想いを抱え拗らせたこと。


黒咲くんのことを何も知らずに死を選ぶ未来が訪れる現実だ。


私が告白してどうするより、黒咲くんの生きる道を模索したかった。


この時の改変で告白が許されるならば、それは最後でいい。


私の未練を断つことより、黒咲くんの幸せを願う。


社会にがんじがらめになり、真っ暗な世界に再び星を灯してくれたのは今ここにいる黒咲くんだったから。


守りたい。ただそれだけだった。



「夜、連絡する。それじゃ」



立ち上がって黒咲くんは自席へと戻っていく。


その後ろ姿にヘラっとしながら肘をついて頬を支えた。


さすがにヘラヘラしてばかりなので、自分のことをヘラ女と呼んでもいいかもしれない。


誤解を招きそうな造語である。



(なんかほっこりするなぁ。黒咲くんとこんなふうに話せるなんて……)



「へへっ、キュンですな」


「キュンキュン? なんだか芽々、女の子やってるねー」



そこに里穂がミーハー心に頬を染めて楽しみながら近づいてきた。


私は友達がそばにいる喜びにも嬉しくなり、笑顔の沼化現象が起きていた。


ずっと、私は誰かと軽口に話したかったんだ。



「いい顔してんじゃん。ちょっとかわいくて羨ましいぞ」


「かわいい? ちゃんと女の子出来てる?」


「え、女の子じゃないの?」


「いつでも女の子だよー!」



飛びつくように里穂の腕に抱きついて頬擦りをした。


柔らかさとふわりとした感覚に癒されていた。



「芽々が甘えん坊になったー!?」



一方の里穂は抱きつく喜びが薄いようで、少しお姉さん目線で可愛がってくれるのだった。


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