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ポニーテールとシュシュ4

(好きな人の前で悪口は言いたくないってところかな)



実際は口の悪い麻理子も、恋する姿は愛らしかった。


誰かを好きになる気持ちに性格は関係ない。


そこにあるのは誰かを肯定するものなのだから。


だから切なくて、粉雪のように淡い。


触れれば溶けてしまう繊細なものだった。



もし高校生より強いものがあるとしたら、それは人に見られることへの抵抗感が薄れていくことだろう。


人目を気にしなくなっていく。


高校生のときには出来なかった一人カラオケも、一人ラーメンも、一人カフェも、一人ファーストフードも、一人プラネタリウムも、一人ゲームセンターも。


ついには一人流星群まで実現してしまった。


周りを気にして俯いていた私はいなくなっていた。


だから私は怖くないと暗示をかけることが出来るんだ。


嫌いな人には出来ないくせに、好きな人の前ではいくらでもマイナスな女優になれる。


卑下するのに慣れてしまったから。



「黒咲くん。私ね、高校卒業したらここを離れるんだ」


「え?」



突然の語りに黒咲くんは目を丸くする。


私はケロッと笑いながらトコトコと田んぼを尻目に歩き出す。




「私、誰かに見られてるこの閉塞感が嫌いだった。どこで何をしても誰かが私を話題に笑っている」



足を止めて、黒咲くんと麻理子に振り返る。


瞳に映るのは、私をみる二人の姿だった。



「見られるのが大嫌いだった」


「あんた何言ってるの?」



麻理子の言葉に私は薄らと微笑んで、綺麗を装う。


綺麗なくらいに、真っ直ぐに歪んでいた。




「でも町じたいは嫌いじゃなかった。 風が気持ちいいこと、方言で喋れること。くだらない遊びがしやすいこと。……星がきれいなこと」



嘘と本音が混じり合う。


どれが私の言葉かなんてわからなかった。



「大嫌いだったはずなのに、好きなものもあったんだよ」



泣きそうになる想いに鍵をかける。


青春時代に見た景色はどんどんセピア色になる。


色を思い出せない、消えるようで消えない過去の思い出となっていく。


今、たしかにここで生きているのに。


世界に夢を見ない私が生きて、みんなに希望を魅せた黒咲くんは未来にいない。


生きるべき人が生きていない未来。


そんな未来を覆せるチャンスがあるならしがみつきたくなるものだ。


何度やり直したいと願ったって過去はやり直せない。


やり直したいと思える過去がある。


それでいいじゃないかと諦められない私がいる。


黒咲くんが、大好きな人が今、目の前で生きているから。


拗らせていようがなんだろうが、私は私の初恋を失いたくなかった。




「この気持ち、叫んでから出ていくのもアリだったかなっていまは思ってる」



何も言わずに背を向けた故郷。


黒咲くんのいない故郷を私は知らない。



「嫌いと言って、嫌いなままにしちゃってたから」



好きと言えずに、好きなままにしちゃってたから。



「大嫌いより、嫌いくらいがよかったなって」



大好きより、好きだったくらいがよかったって。



「……酷い言い方」



私の声に麻理子が毒を吐く。


けれども少し上から目線でニヤッとする麻理子らしい表情だった。




「嫌いじゃないよ。 ぶつけてなんぼなことってあるから」



県外に出て短大を卒業して、私が知らない人と結婚して、未来の彼女は幸せに笑っているだろうか。


それとも私みたいに諦めと同居しているのだろうか。


時代を象徴するかのように麻理子のポニーテールが風に揺れて、シュシュが色を添えていた。




「めめりんって変人だったんだね」


「変人……」



毒舌でもなんでもいい。


麻理子は上から目線でも、心では見下していない。


見下されてると思ってたのはこちらの都合だった。


少しいじらしい程度のかわいい女の子だった。





「よーし、じゃあぶちまけるからちゃんとかわいく撮ってよねー!」


「うん! 行こ、黒咲くん」


「……うん」



黒咲くんは淡く微笑んで、はしゃぎ出す私たちの後を歩いていた。


そう、私は自分勝手だった。


黒咲くんの闇が見えていなかった。


蝕む闇は、あなたを死に追いやるほど深かったことを忘れていたのだった。


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