Beginner2
「え?」
申し出に黒咲くんは目を丸くする。
それもそのはず。
私はこの手のことに消極的で、避けていたからだ。
故郷のことは考えていない。
ただ若さに甘えることなく一生懸命がんばる黒咲くんを近くで応援したかった。
力になりたいと欲が出た。
「私に手伝えることってあるかな?」
「でも時森、勉強が……」
「大丈夫! 私はちゃーんと合格するから!」
未来でちゃんと合格して上京しているという不明確な根拠で私は不敵に微笑む。
遠巻き高校生だった私が突然接近してくることが面白かったのか、黒咲くんは緩やかに口角をあげた。
「ならお願いしようかな」
「まっかせなさーい!」
デタラメな見栄で私はひたすらに笑った。
中身はアラサーでも見た目は高校生。
ちょっとくらい若ぶって、お節介するくらい許されるはずだ。
それに私は黒咲くんの自殺という未来を回避したい。
引きずり続けた初恋は、何もしなかった後悔に繋がっていた。
拗らせた大きな原因は言い訳ばかりのノーアクション。
私は黒咲くんに告白して、この初恋にケジメをつけたい。
未来で生きて黒咲くんが幸せになってくれればそれでいい。
夢でも現実でも、なんでもよかった。
社会で否定され続けた私だからこそ、自殺という自己否定に追い詰められた黒咲くんを守りたかった。
好きだったのは眩しい一番星のような笑顔だったのだから。
私は気合いを入れて黒咲くんに向き合った。
「何を手伝えばいいかな?」
「そうだなぁ。力仕事が大半だし、女子に出来る仕事かぁ」
(急に言われて思いつくことでもないか。私に出来ること……)
「飾りつけとか、広報ならできるかも!」
「え?」
「いつも屋台出して、年越しに小石を川に投げるよね?」
ふたご町の星祭りとは神社に屋台を出す。
そして年越しの瞬間に、神社の横に流れる川に小石を投げるというものだ。
小石を投げるのは、「ふたご町流星群」と願いを込めて新年を迎えることが目的らしい。
ふたご座流星群といったところだろうか。
なんともロマンティックなようで子どもの遊びみたいな行事である。
何年か前に参加して以来だが、変化がないのは分かりきっていた。
「毎年同じじゃ飽きちゃうし。みんなに来てもらう方法、考えてみてもいいかな?」
「いいけど、大変じゃないか? それに復興会の人が了承してくれるか……」
「だって黒咲くんがこんなに頑張ってるのに何もしないなんて嫌だもん!」
「え?」
「……え?」
お互い目を合わせて無言になる。
徐々に発言を自覚して爆発した。
(私、いま何を口にした!?)
「ぴゃああああっ!! なんでもない! 今の忘れて! ただ星祭りを盛り上げたいだけだから!!」
全速力で走り出し、夜空を背景に腕を広げて黒咲くんに振り返る。
「この町は育った町、大事な場所だから!」
(これでいいのかな? なんかめちゃくちゃなこと言ってるけど! ……本心に違いはないけれど)
黒咲くんはしばらく驚いた様子だったが、星が流れるようにキラキラと笑った。
「ありがと、時森」
その輝きに目を奪われる。
私が好きだった黒咲くんの笑顔。
何年経っても忘れられなかった根強いトキメキ。
つられるように私も満面の笑みを浮かべた。
「星祭り、一緒に盛り上げよう!」
「うんっ!」
こんなにも熱くてこそばゆくて、だけど癖になる幸福をずっと忘れていた。
何かに向き合って、誰かのために全力になる喜びが懐かしくて、愛おしかった。