モデルの星(2)
信号を待っていると、誰かが俺を呼んだ。
「あ、あの、えっと、写真撮っていいですか?」
見るからに根暗そうな子だ。
「……えっと」
誰か連れがいるんだろうと思って、同じ制服を着ている人がいないか見てみると、少し離れたところでクスクスと笑っている女子がいた。メイク濃くて、怖いな。
ああ、どうせ「写真を撮ってこい」って脅されてるんだろうな。
「ねえ、そのスマホ、君の?」
「違います。あそこにいる人が『自分の代わりに』って」
そういう人って、純粋なファンじゃないことが多いんだよね。「有名人と写真を撮った」っていうだけの自己顕示のための、道具にするのがほとんどって感じ。すぐにSNSにアップしたりとか。
「ふうん。まあ、写真くらいならいいよ。あ、ちょっと待って」
メモ帳を取り出して、こう書いた。「ヒキョーモノ。これはコイツが書けって言ったんじゃない。みっともないから、さっさとやめてあげたら? メイクも濃いけど、君たちそんなかわいくないよ」ってね。
「ヒキョーモノ」だけでも良かったけど、そんなことしたら、この子のいじめがひどくなりそうだし。まあ、バカは自分で自覚するまでバカを振りまくからちょうどいいでしょ。
「あ、いいよ。写真撮って」
この子は俺の写真を撮った。この子に押し付けるんじゃなくて、自分で行けよ。
「そのスマホ貸して」
「え、あ、はい」
「えっと、そうだな。サインもくれたって言っといて。これで良くなるといいねぇ」
「え、はぁ?」
そう言って、俺は横断歩道を歩いた。
後ろで、あのメイクの濃い女子たちの驚いたような、怒り狂ったような声が聞こえた。
「ちょっと!」
肩を掴まれて、しょうがなく止まった。
「……思ったより足速いんだね」
「アンタ調子乗ってんじゃないでしょーねえ!」
「ううん、乗ってないよ。あのさ、俺はお前たちみたいに、人をいじめて時間潰すほど、暇じゃねーの。じゃ」
「最低!」
別に最低でもいいよ。俺はアイドルみたいな清純派じゃないから。どんな奴にも同じように愛を振りまく人間じゃない。
「お兄ちゃん!」
「――ッ⁉」
声の聞こえた方を振り向くと、頭に衝撃が走った。
倒れ込んで、うっすらと見えた人間は、子供みたいに小さくて、黒いローブを着た人だった。
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