#40
「……東条さんって、両親いますか?」
「えっ、あ、うん。いるよ」
どうしてそんなこと聞くんだろう。
「私が司書をしているのは、家系の影響なのです。聞いたことありませんか? 幕府の書物の管理をしていた吉野文蔵の話」
「聞いたことはあるよ」
「平安時代から続く名家で、仕事は書物を管理すること。でも、今は電子書籍も多くなって、本離れも進んでるっていう理由で今ではすっかり没落名家。それに、幕府の書物を部下が燃やしてしまって、危うく打ち首になるところをギリギリで逃れられて、その後は家族と一緒にひっそりと他の家の書物の管理をしていたとか。文蔵に直接関係する失態はその一回で、管理する腕は一級だったけど、幕府に見つからないように報酬は少ししかもらっていなくて、おかげで生前はかなり貧乏だったらしいです」
「へ、へえ……」
「それで、私はその末裔です。私もすごく貧乏です。血は争えませんね。という話をしてみたかったんです。聞いてくださりありがとうございます。それと、急に重い話をしてしまってすみません。でも、これでも幸せなんですよ。とあるサイトで、高校生の書き手と知り合ったんです。彼の作品は私にとって、光でした。私は司書ですから、単なる読み手のアドバイスとして色々と送っていました。最近は、あまり更新されないので、少し寂しいですけどね」
そう言って、吉野さんは図書室から出て行った。
「ああ、その本はどこかの国のおとぎ話です」
吉野さんが言っていた高校生の書き手って、僕のことだ。
僕の書いた物語は、彼女の光になっていた……。吉野さんからもらった本を見つめて、少しニヤけてしまった。
「光になった……。嬉しいな」
いや、ダメダメ! こんなところで、満足してるわけにはいかないんだ。
もっと上に、もっと高みに上り詰めるんだから。
最後まで読んでくださりありがとうございます。