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星が降る夜、一つ学園の中に閉じ込められて  作者: アーヤ
チャプター3 血族の絶望
63/69

#39

 図書室にはやっぱり吉野さんがいた。

 でも、あの漫画三人組は今はいないみたいだ。


「あ、目が覚めたんですね」


「うん」


 僕が答えると、吉野さんはすぐに目を伏せて、読んでいた。


「吉野さんは何読んでるの?」


「ふぇ⁉」


「わっ、びっくりした」


「あ、すみません。私に話しかけるとは思わなくて。えっと『バスカヴィル家の犬』です」


 ああ、シャーロック・ホームズの。

 吉野さんはそう言って、中身を見せた。


「全部英語だね」


「はい。私、海外のお話は原作の言葉で読むのが好きなんです」


「へえ、すごいな。僕は日本語訳しか読んだことないや」


「ほとんどの人はそうですね。でも、その本が書かれた国の様子を知るには、その国と同じ言葉でそのままの描写で読み解くのが一番ですから。それに、あなたこそ“作家の星”でしょう? 日本語の自由さにはあなたが一番よく分かっているのでは? アメリカやイギリスから見て、日本語も外国語なのですから」


「そうだね。確かに僕の書いた物語を英語にするのは難しいと思うな。色々な技法を使ってるし、わざと正しい文法を崩したこともある。それを違う言葉にすると、雰囲気が壊れるかも」


「そういうことです。分かっていただけたようですね。東条さんこそ、ここに来たということは何か本を読み来たのでしょう。何を読むのですか?」


「まだ決まってないんだ。そんなに考えずにここに来たから」


「そうですか。では、これはどうですか?」


 そう言って、何冊か積み上げられていたものの一つを僕に差し出した。


「これは?」


「さあ? 作者は書かれていません。でも、表紙に傷がついていたので、印字が擦り切れて消えただけだと思いますが」


 やっぱり話す時もハキハキと言ってるなあ。司書って本の場所とかよく聞かれるだろうし、受け答えもはっきりとなったものになっていくのかも。


「……私に顔に何かついてますか? 私の顔はツギハギみたいに、どこにでもいるような普通な顔ですから、見つめるのなら星乃さんや今羽さんたちの方が良いと思いますよ」


「あ、ごめん。受け答えがはっきりしてるなあと思って」


「なるほど。――あの、やっぱり少し話してくれませんか? 私、人と話すことが苦手なので、いつも学校で空振りしてるんです。直さないといけないとは思いますが、本と違って人間は思っていることを全て言葉にしてくれないので」


「いいよ。じゃあ、話そう」


「ありがとうございます。この敬語は気にしないでください」


「分かった。ねえ、吉野さんはどんな本読む?」


「何でも読みますよ。……でも、恋愛ものは理解できません。作品自体はいいですけれど、好きになる理由がイマイチ分からないです」


「僕も偏りはないけど、異世界ものは読まないなあ。何でだろう」


「私もです。テンプレ化してるので」

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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