#37
「……あっれ、おっかしいな。みんな希望がある顔してますね。あ、ラノベデスゲームよくある『実は死んでませんでした~』っていうオチを期待してるのですか。ああ、それはないですよ」
「早く帰りたいんですけど」
「だったら、今すぐ誰かを殺すのみですね。ほら、今は断罪が発生していないので、ここを封鎖しておきますね。荒探しされても困りますし」
「そんなことよりも、服部、何隠してんの?」
「……私、名前以外覚えていないの」
「何で早く言わなかったの?」
「間違いなく、私が疑われて話が脱線すると思ったから、言わなかったのよ」
「いくら感情が顔に出ないとしても、記憶喪失になったら、もっと取り乱すんじゃね?」
筆先さんが言う。
「確かに。名前だけは憶えていたとしても、普通は焦るよね。それ以外覚えていないだから」
風早さんが同調する。
「そうね……。それに関しては、私のリアクションが薄いから……としか説明できないわ」
「信じらんねー」
音寧君が投げやりに言った。
「別に信じなくても良いわ。それが真実であることを、頭の中に置いているだけでいいの」
自分の名前以外覚えていない、か……。
そのことを後から付け加えたかのような雰囲気はなかったけれど、何しろ完璧なポーカーフェイスの服部さんだ。他に何か隠しててもおかしくはない。
部屋に戻って、ベッドに座った。
未だかつて感じたことのない疲労感に襲われた。
深海の中に沈んでいるみたいだった。
「疲れた……」
とにかく疲れて、何も考えが回らない。
ダメだ、この状態で考えない方がいいな。
……空気、綺麗な空気を吸いたい。
そう思って、屋上に出ることにした。
「はあ、やっぱりきれいな空気だ」
僕は、ベンチに座って、目を閉じた。
聞こえるのは、木の葉がすれる音だけだ。
「ああ、眠い」
一段落したら、凄まじい眠気が襲ってきた。
「ここでひと眠りしよう」
最後まで読んでくださりありがとうございます。