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星が降る夜、一つ学園の中に閉じ込められて  作者: アーヤ
チャプター1 目覚める前の日常
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司書の星(1)

「文ちゃん! こっちの修繕もお願い!」


「は~い!」


 図書館以外の本でもそうだけれど、本はセロハンテープで修繕してはいけない。テープの色が変わっちゃうから。破れた表紙の修繕を全部終わってから、先輩司書の元へ行った。


「ごめんなさいねえ」


「いえいえ、大丈夫です! 私、本が好きですから!」


 ……本が好きだから。困ったらいつもこう言っていた。まるで、頑張るための呪文のように。


「文ちゃんも大変ね。司書って、薄給の割に過酷よねえ。そうだ、お母様はどう? 元気にしているかしら?」


 ……お母さん。


『文、ごめんなさいね』


 そう言って、お母さんは亡くなった。最後まで、自分のことを嘆いたりせずに私に謝った。


「はい。おかげさまで元気にしています」


 お母さんは亡くなった、なんて言わない。そんなの惨めだもの。

 落ちぶれた名家の子孫が、まだ名を挙げることはなかった。


「そう、それならよかったわ。これからもよろしく言っといてね」


「はい!」


 こんな私は、とある一冊の本に救われた。最初は、本が大嫌いだった。お父さんが死んだのも、お母さんが苦労したのも、私は他の同年代の子供よりも不自由な生活をしたのも、大量の本や紙のせいだから。だから、本なんて大嫌い。


 でも、何となくで立ち寄った本屋で見た一冊の本。タイトルだけでペンネームが書かれていない。誰が書いた物語なのか分からない本に惹かれて、そのまま表紙買いした。


 その本を読んで、人生が変わった。全部で三百ページくらいのヒューマンドラマ。感情が分からない主人公の女の子が、隣の席の男子によって、感情を取り戻すっていう話。


 救われた。最後に男子は事故で亡くなる。その直前に、「ありがとう」と言って、女の子は泣き崩れて終わるんだ。感情が無いから、泣かなかった“強く見える”女の子。感謝を伝える前に亡くなった。


 私はフィクションが嫌いだ。でも、この本だけは違った。でも、私は幼い頃見ていた夢が、どれだけ残酷だったのか知った。


 誰も助けてくれないし、誰も現実を知ろうとしない。

 そんな世界がノンフィクションの世界。


 私はお母さんが苦労しているから、感情を見せなくなった。だから、人の感情に鈍くなって、いつも空振りしている。主人公のあの子みたいに、誰かが私を助けてくれないかな。感情的にも、悲観的にもならないで、私の話をただ聞いてくれる人が。


 その本を読んで以来、私はお守りのようにその本を持っている。ずっと読んで、土砂降りの雨の日に表紙が濡れたら乾かしたり、ページが破れたりしても、図書委員だった私は図書室に行って、修繕していた。


 そんなことを想いながら、私はたくさん積まれている本の修繕を終わらせた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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