#35
「わぁ、すごい! もう解いちゃったんだ!」
イブが歓喜の声を上げた。
「うん」
「一言で言えば、どんなトリックだった?」
「糸が切れたトリックかな」
「あの、二人で話を進めないでください」
「ねえ、イブ。今からそのトリック再現していい?」
「うん、いいよっ!」
「じゃあ、皆来て」
給湯室に来て、夜空ちゃんは棚の中央に置かれていた、残り少ない砂糖が入っている袋を出来るだけ薄くなるように置いて、釣り糸とダンベルを持ってきた。
「伊織君、給湯室に入って。あ、この釣り糸とダンベルも持ってて」」
「ああ、いいけど」
音寧君が給湯室に入って、鍵を閉めたのを確認した後、僕たちはその裏にあるトレーニングルームに入った。
「ほら、みんな見てて」
そう言って、給湯室とつながっている通気口の真下にダンベルと一つ置いた。
「伊織君、聞こえる?」
「ああ、聞こえるけど」
「じゃ、棚の奥にある通気口から、釣り糸を垂らしてくれる?」
「分かった」
十秒ほど待っていると、ゆっくりと糸が垂れてきた。
「これでいいか?」
「うん、もう片方の端はちゃんと持っててね」
「分かった」
そう言いながら、釣り糸とダンベルの真ん中の細い部分を結ぶ。
かなりきつく結んだみたいで、夜空ちゃんの手は真っ赤になっていた。
「じゃあ、伊織君もその釣り糸をダンベルに結んで。あ、抜けないようにしっかり結んでね」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
一分ほど待っていると、音寧君の声が聞こえた。
「結べたぞ」
「じゃあ、ダンベルを通気口になるべく近づけて、砂糖の袋をその前に置いて」
「出来たぞ」
「うん、じゃあ、ちょっと待ってて。あ、ドア側に体寄せて、動かないでね。普通に死ぬかも」
「はぁ⁉」
音寧君の声を全く気にせず、夜空ちゃんは釣り糸がピンと張るように結んだダンベルを遠ざけた。
「……なるほど」
服部さんは分かったようだ。
「さあ、みんなも給湯室に行って、見てごらん♪」
僕たちがみんなついたことを確認した。
「みんな来たぞ」
「OK! じゃあ、とくとご覧あれ~」
そう言った瞬間、ダンベルがドアの方に向かって落ちてきた。
「これで、ちょうど東雲の頭に当たったと」
「――そういうこと!」
ハサミをペンのようにクルクルと回しながら、夜空ちゃんが歩いてきた。
「ピンと張った釣り糸を切れば、高い所にあるダンベルは下に落ちる。伊織君や彩斗君みたいに身長が高い子は重いケガにはならない。けど、駆君みたいに身長が低いこの場合は重力もプラスされてより重い衝撃になる。だから、犯人は駆君を殺したんだと思うよ」
「なるほど! じゃあ、その後の話し合いは断罪室で~」
一階に戻ってくると、未来さんが口を開いた。
「今のトリック、確かに筋は通ってる。実際にみんなも見たし。だけど、糸を切っただけで落ちることに関しては出来すぎていると思うけど」
「そう! そこが今回の肝なんだよ! 未来ちゃんの言った通り、確かに出来すぎているから、百パーセント落ちるとは限らない。でも、ダンベルの下が斜めになっているとしたら?」
最後まで読んでくださりありがとうございます。