#27
外に出ると、ピュウッと風が吹いた。
「寒っ!」
和泉がインターホンに話しかける。
すると、門がギィッと開いた。
「どうぞ、開いているわよ」
「ありがとう!」
「じゃあ、入ろ~!」
僕は最後に入って、周りを見ていた。
薔薇の庭園に大きな屋敷……。『不思議の国のアリス』に出てくる薔薇の国の女王のいる城みたいだ。屋敷に入ると、玄関にモカ色の髪をサイドテールにして、黒いリボンをつけている女の子が立っていた。
玄関の周りは、たくさんの椅子やソファに百センチくらいのビスクドールが座っていた。
「久しぶり!」
「お久しぶりです、和泉。皆様、初めまして、わたくしがここの屋敷の持ち主、冥王瑞希と申します」
「相変わらず、瑞希は堅いね。みんな同い年なんだから。そんなに堅苦しい敬語使わなくてもいいのに~」
「……そうですね。でも、和泉、あなたは少しマイペースすぎます。覚えていますか? 十一歳の林間学校で、あなただけ二日目のオリエンテーションから抜け出して、山を歩き回っていたでしょう?」
うわー、そんな小さい頃からマイペースなんだ……。
「あー、そういやそんなこともあったね。それで、山の中で迷子になってたボクを見つけてくれたよね」
「ええ、そうですわ。泣くでもなく、反省するわけでもなく、あなたは『瑞希が白馬の王子様みたいにボクを助けに来てくれたー!』と」
「うん、だって、あの頃の瑞希の髪は短かったからね。それで、余計王子様みたいに見えちゃって」
「全く……。コンパスや地図を持って行かないからそうなるのです」
えぇ、そこなんだ……。
「それでは、こちらへどうぞ」
通されたのは、たくさんの本と衣装が置かれた部屋。
「これ、全部衣装に関する本?」
「そうです。そこの机にはレースや色の見本もありますよ」
「ふうん……。これ集めるとするなら、何円くらいかかるんだろ」
そして、部屋の真ん中にあるショーケースの中に衣装が入っていた。
瑞希さんはショーケースの裏に行って、鍵を開け、冬風君に衣装を二着渡した。
「隣の部屋で試着してみてください」
「でも、採寸はしたでしょ?」
「私は見たいのです。私の衣装を着ているお二人を。もちろん、手直しもします」
「ふうん、まあ別にいいけど」
二人と瑞希さんは試着するために隣の部屋に行った。
「瑞希、リビングの紅茶飲んでいーい?」
「ふふっ、良いですよ」
「ありがと! じゃ、行こう」
「うん」
瑞希の後ろを歩いていると、ピアノ音が聞こえた。えっと、この曲はたぶん「くるみ割り人形」の「行進曲」だっけ。
「ねえ、ここって瑞希さん以外に誰かいるの?」
「いないよ。瑞希は一人暮らし」
「じゃあ、このピアノって……」
「ああ、リビングの中にアップライトピアノのオルゴールがあるんだよ。ほら、えっと、よく家に置いてあるような四角い形の。瑞希はね、手先が器用でよくああ夕の作ってたんだ。それに、瑞希のお兄ちゃんはボクや凛達が所属してるプロダクションの社長だから、色々助けてもらってるんだって。まあ、食料のだけみたいだけどね」
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