#26
「おはよう!」
「あ、おはよう」
朝からテンション高いなあ。
「じゃ、行こう! 近くにその子のお兄ちゃんの車を停めてるんだ~。あ、それとね、ボク呼び捨てでいいよ。敬称付けって変な感じするし」
「そういうことなら別にいいよ。えっと、和泉でいいの?」
「うん!」
そう言って、僕の手を引いて走り出した。
「あ、あれぇ? 何で、凛と奏がいるの?」
「社長は急な仕事で来れないって」
「僕たちは、美月ちゃんの衣装を取りに来たんだよ」
「そういうこと」
「ふーん。あ、すご! リムジンだぁ~! ボク、初めて見た!」
和泉がぴょんぴょん跳ねながら、リムジンの中を覗こうとしていた。
「和泉、そんなに飛んだら、危ないんじゃない……?」
「和泉は相変わらず元気だね。それで、あんたが東条?」
「うん、東条聖奈君だよ。えっと、何で知ってるの?」
「ボクが昨日電話で話したんだよ」
「和泉が『ボク』って言ってるってことは、あんたも知ってるんだ」
「あ、一応は……」
「うん、ボクの二人目の友達!」
「あっそ。俺は冬風凛」
「僕は夏樹奏。よろしくね!」
「う、うん」
アイドルのオーラに圧倒されそうだ。同い年なのに。
「ちょっと三人。何ぼうっとしてんの。ほら行くよ」
「リムジンの中って初めて見るから、ワクワクするなあ~!」
和泉に背中を押されて入ったけれど、やっぱり緊張するなあ。
「あんたもお人好しだよねえ」
車が動き始めると同時に、冬風君が言った。
「のんびり屋でマイペースで自由奔放な和泉について行くなんて、お人好しだね」
「あはは……。それについてはよく言われるよ……」
本当に「そんなに愛嬌振りまいてたら、自分を愛せなくなっちゃうぞ」って、お母さんによく言われてたな。
「で、二人は会ったことないでしょ? 美月に」
「無いよ。だって、ずっと高原で療養してるんでしょ?」
え、そうなんだ。
「うん、風邪とかインフルが流行する時期になれば、絶対に体調崩して、ずっと寝てるんだもん。それでも、一人で歌とかダンスの練習はしてるんだって。かわいいくせして、美月は負けず嫌いだからね。今は体調を崩さないようにレッスンは控えて、衣装作りに専念してるみたい。でも、衣装作りの腕はピカイチだから」
「ふうん。まあ、そういうところに細かいあんたが言ってるんなら、そうなんだろうね」
「そーゆーこと♪ それじゃ、まだまだ到着には時間あるし、ボクはもう寝るねえ」
「じゃ、俺も」
そうして、僕以外のみんなは寝てしまった。僕は緊張しちゃって、一睡もできなかったけれど、どんどん山中に入っていることは分かった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。