#25
その夜、僕はまた和泉の夢を見た。
――あの日も、街を見ながら、弁当を食べていた。
僕は、彼女の隣にいたんだ。もうすっかり一緒に食べるのが定着して、秘密の場所でよく話していた。
勉強のこととか、お互いの趣味のこと、アイドルのことも話してくれた。
「何か苦しそうだね」
僕はチラッと見た彼女を見て、そう言ってしまった。
何でだろう……。
「え?」
「ごめん。何となくそう思ったから」
僕がそう言うと、彼女は泣き始めた。
声をあげずに、俯いて……。
「えっ⁉ ああ、ごめん、ごめんね。『許して』なんて言わないから、泣かないで、ね?」
ハンカチを差し出してそう言うと、今度は声を出して、大声で泣いた。
防波堤が全壊した、津波みたいに泣いていた。
「うわぁぁああん! 一人なんて、もう嫌だ――」
その時、僕は知ったんだ。彼女一人で、解決できない問題を抱えていたってことを。
その後、彼女は泣き止んで、こう言った。
「――やっぱり言えない。言いたくない! 言ったら、多分君もいなくなっちゃうから」
「言わなくていいよ」
僕は立ち上がって、彼女の前に立った。
「この世界は、本音を隠さないと生きていけないけど、それって世界中にいる全員が対象じゃないよ。言いたくないのが本心なんでしょ? ……って、僕が言っても、説得力ないよね。僕と君じゃあ、世界が違うから」
「ううん、やっぱりボクと一緒だね」
「あれ、一人称が変わった……」
「ボク、男だから。でもね、ボクはかわいいものが好き。この制服もアイドルもかわいいから、女の子のフリしてるんだよ。ほら、女の子の方がかわいい服多いでしょ? ……ごめんね、ボクやっぱり変だよね。こんなボクと一緒にいたくないよね。じゃあね、もう近づかないから」
「――待って! 別に構わないよ。ねえ、逃げる必要ないよ。君の過去の経験から、君は『逃げないといけない』って思っているけれど、でも、それがこの世界の全人類に当てはまるわけないから」
「変なのに、僕から逃げないの?」
「逃げないよ」
「あー、君ってあの子に似てる。だから、初めて会った時話しかけたんだ。ごめんね、君の言うとおりだ。ボク、いるんだ。君みたいに僕から逃げなかった子。あの子のことも、君のことも、信じないとね。あ、ねえ、今度の土曜日にその子と会うんだけど、一緒に会わない? ずっと一人だから、話し相手が欲しいと思うんだ。どう?」
「えっと、別にいいよ。その日は何もないしね」
「うん! じゃあ、十時に駅でね! これから、土曜日まで仕事で学校には来れないけど、じゃあね!」
「頑張れ」
最後まで読んでくださりありがとうございます。