#19 音寧伊織&今羽未来&今羽華子編
音寧君は、暇に思ったらしく、部屋の隅でバイオリンを弾いていた。
バイオリンの音色なんて、名前で初めて聴いたな。
僕はもっと聴きたくて、近寄った。
すると、向こうも僕に気づいたらしく、演奏を辞めた。
え、もしかして嫌われてる……?
「別に嫌ってねーよ」
「え、何で分かったの」
「別に。お前は顔に出すぎ。『もしかして、嫌われてんのか?』って考えてただろ」
「だって急に演奏やめちゃうから」
「何だ。なら言えよ。女の子にしかキョーミないけど、楽器絡みなら別だ。これでも指揮者だからな。そこら辺のプライドはちゃんと持ってる」
うーん、やっぱりツンデレなのか。よく分からないな。
「まあ、今は弾く気分じゃないから、後でな」
「うん、分かった」
「そんなことより、今羽はどっちが先に生まれたんだ? 医学には詳しくないから分からないけど、双子でも一卵性でも、腹の中にいる子供は一人ずつしか取り出せないだろ?」
「さあね、知らない。二人で生きてきたから」
「そーだよ。華子も未来もね、ずっと二人きり。お母さんの顔なんて覚えてないよ」
「――幼い頃、捨てられたからね」
「今の時代、ほとんどの子供が教育を受けられるっていう日本の時代が来たのに。お母さん? だと思うけど、その人が言ったんだよ。『迎えに行くから、待っててね』って。一日経っても来ないから、華子達は街で歌ったり、パフォーマンスして、食いつないでたけど」
「だから、アイドルになって愛されなかった分、愛されて生きてやろうって思ったわけ。ま、あの時も今も結構楽しかったから、別にいいけどね」
「うん! 別に辛くも何ともなかったよ。二人でいれば、辛さも半減!」
「そーゆーこと」
「見かけによらず、タフだな」
「タフじゃないと、生きられないからね」
最後まで読んでくださりありがとうございます。