#9
「あれ、お前たちも何かするのか?」
スケッチブックとシャーペンを持って、座っている子が言った。
両目の色がちょっと違う。綺麗な目……。
「え、あ、違うよ。みんなの名前知りたくて、探してるだけ」
「ふうん。で、あの紫髪はそこのアーケードゲームに興味津々だけど」
「え⁉」
僕の後ろにいた夜空ちゃんは、気づかないうちに部屋の隅に置かれていた筐体をじっと見ていた。
「ガチのゲーマーなのな」
「そうらしいね」
「で、俺の名前だろ。俺の名前は絵藤彩斗。イラスト描いてる」
僕の名前を言った時、シャーペンを落として慌てて拾った。
「あ!」
その時、スケッチブックが落ちてしまった。
「……これって、夜空ちゃん?」
「呼んだ?」
アーケードゲームに夢中だった夜空ちゃんが戻ってきた。
拾ったスケッチブックには、夜空ちゃんに似てるロングの子がびっしり描かれていた。
それも、色んな季節の服着てる。
「あ、彩斗君。私、星乃夜空。私に似てるけど、私じゃないね」
「当たり前だ! だって、お前を描いたんじゃないから」
「ふうん。じゃあ、理想の子とか?」
「それも違う。こいつは俺が忘れないために描いてるの。つまり、適当にそれっぽい属性入れてるわけじゃない。本当にいた奴。分かった? まあ、確かに。お前!」
そう言って、勢いよく立ち上がって夜空ちゃんの目の前に立った。
「お前はアイツに似てる。『アイツが生まれ変わったんじゃないか?』ってくらい。俺が言えることはそれだけ。ほら、もう行った行った!」
両手で押されて、さっきからずっとランニングマシーンで走ってるこの前に来た。
「ん? お、新しいヤツか! 俺は、東雲駆。あ、名前の通り、サッカー選手! 大抵は知ってるぜ」
「あれ、でも遠征のために海外へ、ってニュース見たけど」
「ああ、そのことなんだけど」
「遠征先でデカい地震が起こったみたいで、緊急で帰って来たんだ。俺って忘れっぽいから、そんなことすっかり忘れてたんだ。そんで、ここで走ったら思い出した」
「じゃあ、駆君にとっては走ることが記憶を探るためのトリガー……」
「難しいことは分からんけど、そういうことだな!」
「でも、世界的に有名な選手に比べたら、小柄だよね」
僕がそう言うと、胸をドンと叩いて見せた。
「そうだな! 選手どころか、俺のクラスの女子よりも小柄だぜ。でも、身長っていうハンデは、そいつの実力があればなくなると思ってる! だから、俺はそこまで上り詰めるから、今は確かに大変だけどもっと強くなったら、身長なんて関係なくなるぜ」
「そうなんだ。頑張ってね」
「もちろん! じゃあな~」
「スポーツマンの熱血! って感じだね」
「うん」
二人で並んで話していると、給湯室からシアン色の髪の子が出てきた。手にはミルクティーの入ったグラスを持ってる。
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