#8
「ねえ、夜空ちゃんは何が好き? あ、ゲーム以外で」
「ん~? マジック……かな」
「マジックできるんだ」
「大がかりなのはしたことないけど、カードとかテーブルマジックならね」
「ふうん」
「そっちは?」
「自分でも分かんないんだよね。自分から何かにはまったことないからさ」
「ふうん」
階段を上がろうとすると、上からイブが下りてきた。
「おやおや、お二人おそろいですか。聖奈君はともかく、夜空ちゃんはいつも通りかぁいいですね~。顔が出ない実況者とかゲーマーじゃなくて、アイドルでもモデルでも何でもできそうなのに、その容姿を生かさないとは残念です」
そう言ったイブは両手を顔に当てて、恍惚の表情を浮かべていた。
関節が球体だからか、なぜか怖く感じる。
「何でそんなにかわいいものに執着するの?」
「そりゃ、鉄の塊のロボットでも、女の子ですから」
「じゃあ、カッコイイ男子は? ときめかないの?」
夜空ちゃんがそう言った瞬間、イブは真顔になった。
「ああ、いいえ。女の子ですが、私が萌えるのは『かわいい』ものだけですから。カッコいいものは萌える対象になりません」
「ふうん」
「それと、お二人も他の方を探しているみたいですね。ふふ」
そう言って、階段を下りて行った。
僕たちは階段を上がると、給湯室の前にあるベンチに、金髪の子が座っていた。今度はイヤホン付けてる。
「あ、お前フード外したら、めっちゃ美人なんだな」
「どーも。君の名前は?」
「音寧伊織。“指揮者の星”だ。指揮者も音楽もどーでもよくて、モテればそれでいいんだけどな。そこの黒髪。お前の名前も一応聞いとこ」
「東条聖奈だよ」
「何で指揮者になったの?」
「金があって、名前も売れとけばモテるじゃん? あ、楽器もそれ理由で習得した」
「すご」
「あ、でも女の子ならいいってわけじゃない」
「絶対詐欺に遭うタイプだね。じゃあね~。伊織君」
そう言って、夜空ちゃんは逃げるように彼から離れて行った。
「やっぱり『美人』って言われるの慣れないな」
自覚がないのかな。それとも、興味がない?
「トレーニングルームにも誰かいるね」
「あ、ほんとだ」
「入ってみよ」
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