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星が降る夜、一つ学園の中に閉じ込められて  作者: アーヤ
チャプター2 始まるわけのない絶望
27/69

#4

「君の友達……。あー、妃和泉(きさき いずみ)だっけ」


「知ってるの⁉」


「まあね、一通り調べてるから。君が高校に入学してきた後から。ああ、もちろん他の子もね」


 ……もうこんなに驚くべきことが続いているんだ。もう、何も驚けなかった。


「芸能人だよね」


「そうだよ」


「アメリカに行ったんだよね。ここ(日本)が嫌で」


 僕は、和泉のことを思い出した。


『妃和泉です』


 名前を言った瞬間、静まり返っていた教室がどよめいた。最近、よくニュースにもなってる「期待のルーキーアイドル」って噂の子だ。モデルとかしてるんだっけ。


『体が弱いので、体育には出席できませんが、よろしくお願いします』


 隣に座った妃さんは、僕の方を見た。


「よろしくね」


「うん、こちらこそ」


 そして、次の日には学校中の男子生徒の声が廊下から聞こえた。、彼女を見に教室へ来ていた。


「ほんとに妃和泉なのか?」


「ほんとだって!」


 妃さんは、男子たちが来る前にお弁当を持ってどこかに行った。

 ずっと注目されるのも大変だろうな。


「誰もいない屋上へ行こうかな」


 こんなに人がいると、お弁当も食べにくいし。僕に注目している人はいないけど、でもやっぱり人がたくさんいると怖い。


 屋上にいると、歌声が聞こえた。

 珍しいな。屋上に誰かいるなんて。


 そう思って、少しだけドアを開けて、屋上を覗いてみた。


「あ……」


 そこには、華麗に舞いながら歌う妃さんがいた。

 テレビでは、白鳥みたいに可憐だった彼女も、やっぱり努力してるんだな。


「ごほっごほっ!」


 せき込んだ彼女を見て、昨日の「体が弱い」という発言を思い出した。


「大丈夫⁉」


 近寄って、背中をさすった。


「ありがとう。だいじょーぶだよ。それとさ、もしかして聴いてた?」


「ごめん」


「アイドルだから、別にいいよ。歌うのは好きだしね」


 でも、そう言って笑った彼女はどことなく悲しそうだった。


「体が弱いから、人一倍レッスンしないといけないんだ。無理は禁物だけどね。でも、そんな言葉で抑えたくないんだ。この気持ち」


 そう言って、色あせたベンチに座った。


「隣、座っていい?」


「うん、いいよ。“気持ち”って言っても、私の体に埋まってるのは人工心臓だけどね」


「そうなの?」


「うん。だから、みんなと違って鼓動の音、聴こえないよ」


「え、ほんと?」


 気になって、何となく妃さんの胸に手を近づけると、手を払われた。


「こらこら。忘れてるかもしれないけど、わたしアイドルだよ」


「あ! ごめん!」


 好奇心の方が強くて、すっかり忘れてた。


「まあ、いいけどね。そんなことより、もしクラスのみんなに……みんなの『普通』と違うことを言えばどうなるかな?」


 普通? 普通……。普通って、多少の誤差はあれど、一貫性はあって崩せないよね。

 それがみんなの普通。普通から離れたら、軽蔑や羨望、嫉妬の対象になる。


「きっと独りになるんじゃないかな」


「君も他のみんなの仲間に入る?」


「ううん。入らないよ。だって、みんなの普通って真実と違うことの方がずっと多いから。まあ、数学の問題とかと違って、答えなんてないんだろうね。でも、答えを作ってそれを広めないと、統率が取れないよね。世の中のルールなんて、たいていそういうものだと思うよ」


「……ルールよりも、個人の方が大切だと思うんだけどな。今は……個性を大切にしようって言ってるのに。その個性を守るためのカミングアウトをしたら、独りになるんだよね」


 彼女の声は真剣だった。でも、どこか虚ろな感じもした。


「ねえ、君は個性を殺してみんなといるか、個性を大切にして独りになるか。どっちがいい?」


「独りになる方かな……。だって、孤独なときって、近くに誰かがいてもどうせ孤独でしょ。なら、どっからも攻撃されない独りの方が良いと思うよ」


「攻撃……。ねえ、言える時が来たら、君にだけ言っていい? ずっと隠したこと。誰かに言わないと、もう耐えられないから」


「……いいよ。こんな僕でも、君の役に立てるか分からないけど」


「ううん。君はみんなと違うから。今からお仕事だから、もう行くね。じゃあね」

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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