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星が降る夜、一つ学園の中に閉じ込められて  作者: アーヤ
チャプター2 始まるわけのない絶望
26/69

#3

「まあ、そういうことだから。もういいわよ。そこの階段から、あなたたちの部屋に行けるわ。ああ、名前を言い忘れていたわね。さっき破裂したのがピエロン。で、あたしはイブ=ダイヤモンド。イブでいいわ。じゃ、おやすみ」


「おやすみって、嘘でしょ……」


 みんな重い足取りだった。僕はまた一番最後に階段を登った。

 階段の先は廊下で、みんな自分のネームプレートが貼られている部屋を探していた。


「あ、ここか」


 僕の部屋は階段を上がって、左側の一番奥。部屋はすごく良かった。ロフトの上にベッドが置かれていて、ヘッドホンに小さなテレビ、あと高そうなスピーカー。机には最新型のPCが置かれている。


「ああ、疲れた」


 シャワーを浴びた後、ベッドに大の字になって天井を見つめた。

 普通の人生を送って来たのに、何でこんなことに巻き込まれるんだろう。


 そう思いながら、ハンガーにかけている制服のスラックスのポケットを漁った。

 何も入ってなかった。もしこれが夢なら、ナイフとかが入っていて、それで自分の首を切ったら、目が覚める……とかのオチがあるのに。


「やっぱり本物なんだ……」


 それにしても、あの子がいるなんて。あのパーカの子。名前は……星乃夜空だ。向こうは気づいていないみたいだけど、中学の同級生なんだよね。高校に入学するタイミングで、アメリカの名門大学に飛び級で入学したから、すっかり忘れていたけど。


 三年の時に同じクラスになったけど、あんまり人と話すようなタイプじゃない子だったな。男子は話しかけまくっていた。逆に女子からは妬まれていた。それを気にするような素振りもなく、普通に学校に来ていた。でも、クラスでは孤立していた。


「考えごと?」


「え?」


 テレビにイブが映っていた。


「僕の声、聞こえるの?」


「うん、で、何か考えてたの?」


「そうだよ。人と関わるのって難しいなって話」


「それ、ちょっと違うでしょ。夜空ちゃんのことでしょ? 考えてたの」


 バレた⁉


「……バレたらしょうがない。そうだよ」


「やっぱり? あの子カワイイよね」


「かわいいからこそ、妬まれやすいんだよね」


「そうかもね~。そのうちみ~んなに復讐したりして」


「復讐なんかしないよ。だって、意味ないでしょ」


 ドアノブに手を載せたまま、星乃さんがそう言った。


「えっと、東条……聖奈君だよね」


「え、うん。忘れてなかった」


「うん、今まであってきた人の名前と顔は全部覚えてるよ。ああ、正確に言えば覚えてるというか、覚えちゃうの方が正しいか。まあ、人の名前なんて、信頼できる人以外全員忘れるけどね。で、私はこれを届けに来た」


 そう言って、小さなものを僕に投げた。


「おぉ、ナイスキャッチ」


 彼女が投げたボタンを見つめた。「黎明」の頭文字「L」の筆記体が彫られたボタン。

 でも、これは僕のじゃない。去年のクラスで、唯一仲の良かった子がアメリカに行く時にもらったボタンだ。


『ココ息苦しいんだよね。だから、もっと広いところ見てくるね。じゃあね! 聖奈!』


 あの子は一人だったから、僕だけが彼女を忘れないようにできるんだ。


「じゃあね」


 そう言って、ドアを閉めた。


「覚えちゃう、か。それも大変だね。それに、君は信頼されてるみたいだね」


 信頼……。僕は……誰かに信頼されるほど、立派な人間じゃないんだけどな。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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