#3
「まあ、そういうことだから。もういいわよ。そこの階段から、あなたたちの部屋に行けるわ。ああ、名前を言い忘れていたわね。さっき破裂したのがピエロン。で、あたしはイブ=ダイヤモンド。イブでいいわ。じゃ、おやすみ」
「おやすみって、嘘でしょ……」
みんな重い足取りだった。僕はまた一番最後に階段を登った。
階段の先は廊下で、みんな自分のネームプレートが貼られている部屋を探していた。
「あ、ここか」
僕の部屋は階段を上がって、左側の一番奥。部屋はすごく良かった。ロフトの上にベッドが置かれていて、ヘッドホンに小さなテレビ、あと高そうなスピーカー。机には最新型のPCが置かれている。
「ああ、疲れた」
シャワーを浴びた後、ベッドに大の字になって天井を見つめた。
普通の人生を送って来たのに、何でこんなことに巻き込まれるんだろう。
そう思いながら、ハンガーにかけている制服のスラックスのポケットを漁った。
何も入ってなかった。もしこれが夢なら、ナイフとかが入っていて、それで自分の首を切ったら、目が覚める……とかのオチがあるのに。
「やっぱり本物なんだ……」
それにしても、あの子がいるなんて。あのパーカの子。名前は……星乃夜空だ。向こうは気づいていないみたいだけど、中学の同級生なんだよね。高校に入学するタイミングで、アメリカの名門大学に飛び級で入学したから、すっかり忘れていたけど。
三年の時に同じクラスになったけど、あんまり人と話すようなタイプじゃない子だったな。男子は話しかけまくっていた。逆に女子からは妬まれていた。それを気にするような素振りもなく、普通に学校に来ていた。でも、クラスでは孤立していた。
「考えごと?」
「え?」
テレビにイブが映っていた。
「僕の声、聞こえるの?」
「うん、で、何か考えてたの?」
「そうだよ。人と関わるのって難しいなって話」
「それ、ちょっと違うでしょ。夜空ちゃんのことでしょ? 考えてたの」
バレた⁉
「……バレたらしょうがない。そうだよ」
「やっぱり? あの子カワイイよね」
「かわいいからこそ、妬まれやすいんだよね」
「そうかもね~。そのうちみ~んなに復讐したりして」
「復讐なんかしないよ。だって、意味ないでしょ」
ドアノブに手を載せたまま、星乃さんがそう言った。
「えっと、東条……聖奈君だよね」
「え、うん。忘れてなかった」
「うん、今まであってきた人の名前と顔は全部覚えてるよ。ああ、正確に言えば覚えてるというか、覚えちゃうの方が正しいか。まあ、人の名前なんて、信頼できる人以外全員忘れるけどね。で、私はこれを届けに来た」
そう言って、小さなものを僕に投げた。
「おぉ、ナイスキャッチ」
彼女が投げたボタンを見つめた。「黎明」の頭文字「L」の筆記体が彫られたボタン。
でも、これは僕のじゃない。去年のクラスで、唯一仲の良かった子がアメリカに行く時にもらったボタンだ。
『ココ息苦しいんだよね。だから、もっと広いところ見てくるね。じゃあね! 聖奈!』
あの子は一人だったから、僕だけが彼女を忘れないようにできるんだ。
「じゃあね」
そう言って、ドアを閉めた。
「覚えちゃう、か。それも大変だね。それに、君は信頼されてるみたいだね」
信頼……。僕は……誰かに信頼されるほど、立派な人間じゃないんだけどな。
最後まで読んでくださりありがとうございます。




