書道家の星(1)
「筆先さん、ちょっといいかしら?」
「何ですか、せんせー」
そう言って、体育館まで連れてかれた。
白い布と、青いバケツに入った墨汁、筆が置いてある。
「何ですか、これ?」
「この横断幕に書いてほしいの。『目指せ! 阿姨野高校 甲子園出場!』って」
「ダサッ! え、マジでそれ書くの?」
「お願い!」
「まあ、いつも世話なってるし、それくらいならいいですよ」
「よろしくね」
「はいはい」
あたしは、カバンを置いて、靴下を脱ぎ、筆を持ち、墨汁につけた。
そして、手本の書体を覚えて、一気に筆を動かす。
「よし、出来た」
「出来ましたよー!」
「ありがとー!」
「はいはい」
体育館から出ると、野球部の人がいて、バカでかい声で礼を言われた。
「別にいいよ、このあたしが書いてあげたんだから、絶対に勝ちなよね~」
「はい‼」
「だからうるっさいって」
「すみません‼」
あー、ダメだこりゃ。
「じゃあね~」
書道なんて古臭くて、全然使うとこないのに、何で日本ではそれを教えるんだろ。
「ま、あたしはそれが特技なんだけど」
でも、これ使えるのって大会だけだよね。後はどっかのパフォーマンスとか。
大会はともかく、テレビとかでパフォーマンスしたら、あたしか学校に金入るしいっか。
古いとか新しいとか関係なく「それができる人」が少ない場合は、重宝されるんだよね。
そう思いながら、パンケーキ屋に入った。
写真にとって、SNSにアップすると、すぐに反応が来た。
「おいしそ」
あたし、反応は見ないから、意味ないけどね。
友達でもない人のコメとかどーでもいいし。
「おいしいし、満足満足♪」
金を払って、外に出ると、どこからか祭囃子が聞こえた。
クソ寒いのに祭りとか、時期ズレすぎじゃね?
「せっかくなら、音の聞こえる方向に行ってみるか」
面白そうだし。
そう思って、太鼓の音が聞こえる方へ歩いた。
「おっ、どんどん近くなってる」
「ギャルの姉ちゃん、どこ行くの?」
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