指揮者の星(2)
次の日、公演が終わって、俺は片づけをしていた。
誰もいない所に一人。この静かさが一番好き。
俺は耳がいいから、ずっとヘッドホンを使っているけど、それでもみんなの悪口、影口全部聞こえる。
だから、誰の声もしないこの静かさが一番気に入ってる。
俺、結構何でもできるんだよな。ガキの頃に、父さんのおせっかいで楽器は一通りできるようになったし、口うるさい母さんのおかげで勉強もできるし。姉さんは俺に処世術を。兄ちゃんは人とケンカしたらいいのかを。
でも、みんな「愛」はくれなかったな。“指揮者の星”として、世界中に名前が届いてからは。だから、女好きになったんだろうな。幸い、楽器もできて、高身長で、顔も良い俺だから、俺に唯一愛をくれる存在だから。まあ、例外もその女の中にいるんだけど。
あいつが……かわいくないわけないんだよな。でも、俺よりも愛をたくさんもらって生きてきた奴だから、嫉妬してるだけかもしれない。
「あーあ、かっこわりぃな。これじゃ、兄ちゃんが天国で腹抱えて笑ってるわ」
……あーあ。いい人って、すぐ死ぬんだよなあ。何でだろ。悪人を長く生かせて、善人の命を短くして、バランスとってんのか? じゃあ、そうした神様はバカだな。善人の命短くしたら、この世に残ってるやつ全員。……いつか悪人になるっつーの。
その時、ステージの証明が落ちた。
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