作家の星(1)
「へっくしゅ! 今日も寒いわねえ」
「うん、そうだね」
そう言いながら、ココアを入れて椅子に座る。
お父さんもお母さんも、いつものように本を読んでいた。
僕は普通の一軒家に住んでいるけど、家の構造はちょっと変わっている。リビングはカーテンがある南側以外全部備え付けの本棚で囲まれている。本棚にはラノベや文芸などお母さんたちが幼い頃から読んできたたくさんの本が並んでいる。二人が出会ったのも、お父さんがバイトしていた本屋でらしい。
「あ、聖奈。本はどう?」
「完成したら、また読ませてくれよ」
「うん。あともうちょっと」
「さあ、朝ご飯の準備しようかな」
テレビニュースはちょうど次の話題へ移った。
『続いてのトピックは、何と! “ゲーマーの星”と言われているテオさんのチームが、またロサンゼルスのゲーム大会で優勝しました! 賞金はなんと三億円! すごいですねぇ~!』
『こんなに若いのにすごいですよね。好きこそものの上手なれってやつでしょうか』
『はい、それでは優勝した瞬間のVTRをどうぞ』
大きなモニターをじっと見ている黒いパーカを着た女の子の後ろに、男性が立っている。
そして、モニターに「WIN」の文字が出た瞬間、三人は甲高いハイタッチをした。
次に、優勝チームへのインタビューへ変わった。
『それでは、改めて自己紹介をお願いします』
『テオで~す』
「ふうん、賞金三億ね~。今はこんなに若い子がたくさんお金を持てる時代なのね」
キッチンでフレンチトーストを作りながら、お母さんが言った。
「まあ、この子は俺みたいな普通じゃないからな」
「“ゲーマーの星”なんだよね」
「ああ、今は総資産数十億って話もあるな」
「お金はある方が良いけど、さすがにそんなにいらないわね」
『テオさんは明日の夕方に日本へ帰国します』
中学生になってから、僕の中学校は「授業参観」がなかったから二人は知らないけれど、僕はあの子と同級生だった。本名の星乃夜空。でも、僕は一般人。彼女は学年トップクラスの人気があったから話したこともない。でも、一回だけ学校内の掃除で同じ班になったことがあるけれど、その時も何も話さなかったな。というか、話せることもなかった。思ったよりも寡黙な子だったな。
それと、真偽は不明だがこんな噂も聞いたことある。「小さい頃に生き別れた兄」を探しているとか。そのお兄さんもゲーム好きで、ゲームの大会をよくテレビで見ていたから、ゲーマーになって、テレビに映れるようにゲームの腕を磨いたとか。とにかく、彼女にまつわる数多の噂には“ゲーム”が共通している事しか知らない。
「はい、出来たわよ」
「いただきまーす」
「ねえ、何で二人とも本が好きなの?」
「そうねえ……。現実で体験できないことが想像できるからかしら」
「俺もそうだな。最初は活字が大嫌いだったけど、中二の頃に読んだラノベでハマって、今は読むようになったんだけどな」
へえ……。ラノベか。僕が初めて読んだ話って何だっけ。
「ごちそうさま」
「あら、部屋に戻るの?」
「うん。最後まで書き上げたいから」
そう言って、僕はお皿を水に浸して上に上がった。そして、自分の部屋に入って椅子に座る。僕は、積み上げられた原稿用紙をじっと見た。
実は最後まで書き終わっているんだ。で、これを提出する。そのあと校閲が入るんだよね。
「……暇だなあ」
そう言って、PCを立ち上げる。検索サイトを使って、「雪」という管理人が書いているおすすめのネット小説の紹介ブログを見た。ブログでよくコメントを残したりして関わるけど、どこかの図書館で司書として働いている女性みたい。
「あ、僕の作品だ」
今日紹介されていたのは、僕の最新作、ヒューマンドラマだった。僕、本名もペンネームも使ってないけど、こうやって買ってくれる人がいるって言うのは嬉しいな。
最後まで読んでくださりありがとうございます。