指揮者の星(1)
「あれ、伊織は?」
「さあ?」
「あいつなら、女の子とどっか行ったぞ」
「また⁉ 探してくる!」
「バイバ~イ」
「伊織君、練習抜けてきちゃっていいの?」
「いいよいいよ。だって、君のためだからな」
「え~、うれしい~♡」
青髪をサイドテールにしてて、俺好みの可愛い服着てる。
俺は何も言ってないから、きっと調べたんだろうなあ。そういうとこ、かわいいなあ。
「伊織戻って来なさい!」
「あ、ヤベッ! ごめん、もう帰るな!」
「え~、もっと話したかったなあ」
あ、また爪を口に当てた。噛むんじゃなくて、当てるだけ。
この子の癖って変わってるな。
「また今度な!」
「うん、バイバ~イ」
あの子と別れた瞬間、すぐにどなった。
「何で何回も抜け出すの!」
「だって、つまんねーから」
「女を追いかけるんじゃなくて、楽譜を追いかけろ!」
「うっせえわ! お前の声がなあ、セミの鳴き声に聞こえるんだよぉ!」
「はぁ⁉」
「全く。なんでお前はそんなにかわいくないわけ?」
「うぅ、ひどぉい」
そう言って、泣き出した。
「わぁ、ごめんって。言いすぎだから。泣くなって、周りの人が俺のこと見てるから!」
「かわいくなるようになるから、それでいい?」
「ああ、それでいいから。泣くな!」
「ウソ泣きなのに引っかかってやんの」
「騙された! やっぱりかわいくねえなあ!」
「伊織が悪いんだよ。指揮がないと、演奏なんてできないんだからね! ほら、行くよ」
「かわいくねえやつ!」
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