科学者の星(1)
今日は理科のテストが返却される日。
家に帰ってからも、単元で出てくる実験を全部もう一回やってみて、細かくまとめたし、自信ある。
「氷室」
先生が眠そうに僕の名字を呼ぶ。
「頑張ったな、百点だ」
みんなが冷やかした。
「さっすが、氷室教授の息子!」
……いつものことだった。小学生の頃からの。
最初は嬉しかった。父さんと同じ、父さんの子供。みんなは冷やかすたび、そう言ってくれるから、離れていても親子だって。そう、思えた。
でも、ある日本当にそれでいいのかって思った。僕には「父さんの子供」っていう肩書きしかなかった。僕だけの称号も認識も何もなかった。どこに行っても、必ず「父さん」がついてきた。だから、僕はどこにもいないのかもしれない。
「冷やかすなよ~」
困ったように笑いながら座った。
右を見ると、手をついて、つまらなそうに黒板を見ている宵崎さんがいた。
小学校から同じで、彼女も全科目トップの成績の子だ。
「ねえ、宵崎さんは何点だったの?」
「九十九点」
そう言いながら、僕の顔の前に答案用紙を突き付けた。
「あ、ごめん」
「謝らなくていい。私が満点じゃなかったのは、自分のせいだし。それに氷室君は、惜しくも九十九点の女子に、自慢するようなタイプじゃない」
でも、顔はすごく無愛想なんだけど……。
「私が文句言いたいのは、点数についてじゃない。あんた、本当に今のままでいいわけ? このまま、どこに行っても氷室キョージュがついて来るけど?」
「ダメなのは知ってるけど、でも、どうしようもないからね。それに、僕は父さん嫌いじゃない。むしろ尊敬してるから」
「ふ~ん。どうしようもないからって、研究を諦めるわけ? どうにか打開しようとして、エジソンは自分の着ていたシャツのボタンに使われていた絹糸をフィラメントにして、人々は光を手に入れたでしょ。もし、あそこで諦めていたら、人間が長時間、光を使えることもなかったかもしれない……!」
そう言って、宵崎さんは僕を見てこう言った。
「ほんとに、それでいいの?」
僕は何も言えずにいた。
そして、彼女の「それでいいの?」という言葉が一日中頭の中をぐるぐると回っていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。