部活
9月。
夏休みが終わり、休日気分の抜けきらない生徒たちが、ダルそうに授業を受けている、1年3組の教室。
「演劇部?」
「えぇ」
授業の合間の休み時間。
2学期に入り席替えをしたことで、少し席が離れてしまったが、樹木の前の席の女子がいないのを良いことに、じゅんはそこに陣取っていた。
「演劇に少し興味があって……」
どうやら樹木は、演劇部に入部しようとしているらしい。
1学期中は自分と同じ帰宅部だったため、放課後残っていろんな話をした。
自分の趣味が裁縫で、テディベアをたくさん作っていること。
樹木の趣味が読書で、よく図書館に行くこと。
けれど、樹木が演劇に興味があることなど、そんな話題が出ることはなく、今の今まで知らなかった。
「演劇部に入ってみたかったのだけれど、人と接するのが苦手だったから……」
どうして教えてくれなかったんだよ――
喉の奥から胸のあたりにかけて、なんとも言えないモヤモヤした黒いものが引っかかっていた。
樹木には、演劇好きなことをじゅんに教える義理はない。
じゅんもそれは、頭では分かっているが、「どうして…?」という気持ちが消えることはなかった。
「でも、じゅんとひろみのおかげで、少し……できそうな気がしてきたの」
樹木が、自分以外の人間と親しくしようと努力していることは、良いことだ。
いろんな人と接して、女友達もたくさん作って、そうすれば、樹木はもっともっと楽しく学生生活を送ることができるだろう。
じゅんもそれを望んでいた。
「すごく中途半端な時期だけど、演劇部に見学に行ってみるわ」
けれど、この黒い気持ちは何なんだろう?
部活に入ってほしくないんだろうか……?
どうして?部活に入っていないのが、自分だけだから?
「そっか」
ひろみはいろんな運動部から勧誘されて、助っ人としていろんな部に出ているし、生徒会役員になって放課後は忙しそうである。
そこにきて、樹木も部活を始めるとなると、暇なのは自分だけ。
もちろん、趣味のテディベア作りは好きで熱中している。
男らしい体つきを維持するための筋トレだって、趣味みたいなものだ。
今まで樹木と過ごしていた放課後を、自分の趣味に充てる時間にしたら良いだけの話だった。
時間なんていくらでもつぶれる。
やりたいことは、細かく上げるとたくさんあるのだ。
だけど――
「じゅん、ありがとう――」
「何が?」
「不愛想だった私に、話しかけてくれて」
そう言って、キレイな笑顔を見せてくれた。
なんでだろう?
樹木の笑顔が見たかった。
だから、こうやって毎日話しかけているし、楽しい話題を出す努力もした。
今、彼女は笑顔を見せてくれる。
オレのおかげだと言って――。
でも、なんだかあまりうれしくない。
彼女のこと全部知ったつもりでいた。
だけど全部じゃなかった。
演劇が好きなんて、知らなかった。
なんでか、心がザワザワする――
「うん。部活、がんばれよ」
自分の心の奥を探るなんて、効率の良い生き方ではない。
だから、考えることをやめて心に蓋をした。