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4.条件

「……まだ伝えていない。何しろ今は、2か月後に迫った結婚式の準備が大変だから……」


「そうですわね。8大公爵家の我がミルバーン家と、貴方様のテイラー家の結婚式は、王族のそれに勝るとも劣らない規模になりますもの。今さら中止などと言うことになったら、どれほどの混乱を引き起こすことか」


「そうだ。中止などできないし、するつもりもない」


「まあ、身勝手な方。2歳からの婚約者にこのような仕打ちを受けた私に、何食わぬ顔で祭壇への道を歩けとおっしゃるの?」


「それが公爵令嬢としての君の義務だろう」


 侍女のエリスが扇を手渡してくれました。私はそれを開き、口元を隠しました。ええ、顔を隠したかったのです。

 16年も婚約していた相手がこれほど駄目な男だったとは! 苦笑が漏れて仕方がありません。


「そうですわね。たしかに、私は物心ついた時から、バーナード様にどこまでも従うようにと教えられて育ちましたわ。どのようなことがあっても公爵夫人としての矜持を持ち続けるように、と」


「ならば夫が愛人を作ることくらい目をつむれるだろう」


「ええまあ、そうですわね。まさか私を産まず女として別荘に閉じこめよう──などと計画していらっしゃるとは思いませんでしたけれど」


「それは……僕はアーティを愛しているから、君のことは抱けない。君は君で莫大な財産の相続人なのだから、いくらでも愛人を作って好きに生きればいい。貴族社会ではよくあることだ」


 私は扇に隠れて苦笑しました。よくあることとはいえ、結婚前からこのような立場に追い込まれて悔しくない女がいると思うのでしょうか。

 ええ、私だって悔しいです。16年もこんな馬鹿の婚約者だったのかと思うと。


「わかりましたわ」


 私はぱちんと扇を閉じました。


「結婚前に知ることが出来て、却ってよかったかもしれません。私とて公爵令嬢ですから、家と家との繋がりが最も大切ですわ。ですが少しでも私にすまないとお思いなら。いくつか希望を聞いて頂きたいの」


「希望?」


 バーナード様が眉を上げました。公爵家の嫡男ですから、普段はその動作ひとつで人を威圧できるのでしょうが、私には通用しません。


「ええ。まずひとつ目、アーティさんのことをテイラー家、そして我がミルバーン家に伝えるのは、私にやらせてくださいませ。二つ目、平民のアーティさんが養子に入る先は、我がミルバーン家で探します。そして三つ目、アーティさんの淑女教育ですが……私にやらせてくださいませ」


「アーティの教育を君に? そんなことできるわけがないだろう、彼女の身に何かあったら……」


「あら、それこそ侮辱ですわ。昨今では減っておりますけれど、愛人教育は屋敷の女主人の義務……公爵家の令嬢は、そのように教育されて育ちます。主人の愛人がダンサーだろうがオペラ歌手だろうが農民だろうが馬糞係だろうが、公爵家の愛人として恥ずかしくないよう教育するのは私の役目です」


「し、しかし……」


「バーナード様はアーティさんが農民のままでよいとおっしゃるの? 私が知った限りは、もう彼女を隠している必要はないと言っているのですよ。愛人として堂々と屋敷に迎え入れてくださいませ。それとも平民のアーティさんには、淑女教育など耐えられないとお考えなのかしら」


 バーナード様は黙り込み、何かを考えているようです。私はアーティという娘を見てにっこり微笑みました。

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