かめなちゃんのおふとん
池の堀公園は、その名前の通り、大きな池が公園の真ん中にあって、そのまわりに散歩道やジョギングコースなどがある、とてもにぎやかな公園でした。真ん中の池には、魚はもちろん、ほかにも水辺に暮らす、さまざまな生き物たちでいっぱいです。今日もジョギングする人間たちを、ものめずらしそうにみんな見ています。
カメのかめなちゃんも、そんな一匹でした。いつもは公園の岸辺にあがって、人間たちをのんびりながめてすごしているのですが、なんだか今日は様子がおかしいです。そわそわ、きょろきょろ、なにかを探すように人間たちを見ています。と、そこに、かめなちゃんのともだちのシラサギくんが飛んできました。
「やぁ、かめなちゃん。今日はどうしたの? そんなにそわそわして」
「あ、シラサギくん。うん、わたし、探しものをしていたのよ」
「探しもの? いったいなにを探していたのさ?」
「あのね、『おふとん』っていうのを探していたの」
シラサギくんは、大きく羽を広げてのびをしました。
「『おふとん』かぁ、聞いたことないなぁ。なんなの、それ?」
シラサギくんに聞かれて、かめなちゃんはこまったように答えました。
「あのね、わからないの」
「えっ、わからないの? わからなかったら、探しようがないじゃないか」
おどろくシラサギくんに、かめなちゃんはこうらから首をグーッとのばして、ジョギングしている人間たちを見つめました。
「あのね、きのう、いつものようにここで、人間さんたちのお話を聞いていたの。そしたら毎朝走っているおじいちゃんが、『こういう寒い日は、ジョギングなんかせずに、あたたかいおふとんにくるまっていたいですね』っていってたの」
「へぇ、『あたたかいおふとん』かぁ。くるまるってことは、ぼくの羽みたいなものなのかな?」
シラサギくんは、じまんの白い羽をふわりと広げて、それからパタパタとふるわせました。
「もしかしたらそうかも。シラサギくん、その羽にくるまってたら、あたたかい?」
「うん、まぁ、あたたかいっていえば、あたたかいけど、でもやっぱり寒いし、人間たちには羽なんてないから、ちがうんじゃないかな」
シラサギくんが長い首をかしげました。かめなちゃんは、人間たちをよく見ようと、小さな目をじっとこらしました。
「そのおじいちゃんのおともだちのおばあさんがね、やっぱりいってたの。『寒い日におふとんにくるまってるのは、なによりのぜいたくですからね』って。わたし、とっても寒がりだから、その『おふとん』っていうのに、一度でいいからくるまりたいなって思って……」
「それで今日は、人間たちをじっと見てたってわけかぁ」
シラサギくんはなるほどと思ったのか、長い首を上下にふりました。
「でも、人間たちを見てても、その『おふとん』がなんなのかわかんないと思うよ。みんなジョギングにいそがしいみたいだしさ。それより池にいる、ほかの仲間たちに聞いてみたらどうだろう?」
シラサギくんにいわれて、かめなちゃんが首をグーッとのばしました。シラサギくんを見あげて、それから小さくうなずきました。
「うん、そうだよね、みんなだったらなにか知ってるかもしれないわ。ありがとうシラサギくん」
「いいってことさ。ぼくもともだちの鳥たちに聞いてみるから、かめなちゃんもみんなに聞いてみてね」
そういうと、シラサギくんはバサバサッと飛びさっていきました。
「それじゃあわたしも、聞いてみようっと」
最初にかめなちゃんが聞きにいったのは、池でいつも泳いでいるコイたちでした。橋の下で、人間たちにパンくずをもらって、ごきげんのコイたちにさっそくたずねます。
「こんにちは、ねぇ、コイさんたちは、『おふとん』って知ってる? 寒い日にそれにくるまると、とってもぜいたくなんだって」
「やぁ、かめなちゃん。『おふとん』だって? うーん、知らないなぁ。ぼくたちにとってのぜいたくは、人間さんたちがくれるパンだもん。『おふとん』がどんなにいいものでも、やっぱりパンのほうがおいしいよ」
そういうと、コイたちは再び橋の下へ泳いでいきます。かめなちゃんもコイたちといっしょに、パンくずをおなかいっぱい食べるのでした。
今度は池でスイーッと泳ぐカルガモたちに聞いてみます。
「こんにちは、カルガモさんたちは『おふとん』って知ってるかしら? 寒い日にくるまるものみたいなの。それで、とってもあったかいんだって」
「かめなちゃん、こんにちは。うーん、『おふとん』かぁ、聞いたことないなあ。ぼくたちはほら、羽毛でもこもこしてるから、寒くてもへっちゃらなんだ。……でも、あったかいなら、ぼくたちもその『おふとん』にくるまりたいなぁ」
カルガモたちは、水の上をスイーッ、スイーッと泳いでいきました。かめなちゃんもカルガモたちといっしょに、水の上を泳いで遊びました。
けっきょくかめなちゃんは、池のなかまたちに聞いても、『おふとん』がなんなのかわかりませんでした。つかれていつもの、小さな岩の上にあがってこうらをお日さまに当てました。
「はぁ、いっぱい動いて、つかれちゃったよ。今日はゆっくりおひるねしよう」
かめなちゃんは、こうらをかわかしながら、うつらうつらするのでした。そのとき、おひさまから声が聞こえてきたのです。
「かめなちゃん、あたたかいだろう? これが『おふとん』なんだよ。さ、ゆっくりおやすみ」
かめなちゃんは、あたたかな夢の中へくるまれていくのでした。