タッパー君
「愁子ーーーーー!!!」
後ろから走ってきた蘭に腕を掴まれる。
「蘭?どうした??」
「いやっどうしたじゃないよ!今日奨学金の説明会!!帰ろうとしてたでしょ!」
「うっわ忘れてたーーー何時からだっけ」
「もう行かないと席なくなっちゃうよ」
急ぐよっそう言って蘭と私は走りだした。
普段は入らない大きな教室に入ると、席はほとんど埋まっていた。
「やっぱり席ないなぁ」
蘭が白い目で私を見てくる。
「2人並んで座れるとこはもう無いね…」
すると近くの席に座っていた心優しい生徒が席を一つ詰めてくれた。
これを狙って言ったみたいになって少し気まずい。
すみません、ありがとうございます。申し訳なさを出しつつ言う。
席に座り前を見るとAI搭載型ロボットタッパー君がいる。嫌な予感。
「はい、では時間になったので、奨学金の説明を始めたいと思いますが、今年から皆さんも知ってるこのタッパー君が説明をしてくれます。初の試みなので、スムーズに行かない部分も出てきてしまうかもしれませんが、最後までしっかり聞いてあげてください。」
説明係の人がそう言うと教室内がざわめき始める。そりゃそうだ。
「タッパー君が説明すんの?やばくない??」
そう言う蘭は心なしか楽しそうだ。
「うちら実験台じゃんね」
変な間を置いてタッパー君はしゃべりだした。
「奨学金の説明をはじめますー2ページ目を開いてくださいー皆さんは四年生なのでー…これで奨学金の説明会を終わりますーお疲れ様でしたー」
「やっと終わった…」
そう言う蘭からの声は疲れていた。さっきまであんなに楽しそうだったのに、無理もないか。
「長かった、長すぎだよ…」
話すペースがずっと同じだからいつもの倍は時間がかかってる気がする。まだまだだなタッパー。そして実験は失敗だな。
タッパー君に対して文句を言って盛り上がっていると最寄りに着いていた。
「じゃあね愁子ーLINEする!」
蘭とは電車が反対方向なのでここでお別れだ。
おっけーじゃあねーそういって私も電車に乗った。
誰もいない家につき、ただいまーと言う自分の声が響く。外の車の音が静けさを引き立たせる。
大学に入ると同時に一人暮らしを始めた。初めは友達を呼んでいたが、最近はその気力さえも出なくて、一人の孤独な日々を送っている。
一人暮らしとかただ自由なだけかと思ってたけど、結構孤独なんだな。文章の様な独り言が漏れていた。一瞬タッパー君でさえ恋しいと思ってしまいそうだったが、思いとどまった。
ご飯を食べ、寝る準備も整った頃、蘭からLINEが届いた。
ピコンッ
『ねぇ!タッパー君のアプリがあるらしい!タッパー君が寄り添ってくれるらしいよ(笑)愁子、入れるしかないね。URL貼っとく(笑)』
タッパー君を恋しく思った事が、蘭にばれてしまったのかと思ったが、思いとどまった事を思い出して安心する。
『そんなのあるの(笑)いやでも、しばらくタッパー君見たく無いわ(笑)』
そう送った手前、少し気になってきてしまった。
やっぱり入れてみようか。暇だし、暇だから暇だから。そう言い聞かせ、アプリをダウンロードした。