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書籍化作者もすなる一話ガチャといふものを、私もしてみむとてするなり。 ~へふかポイムトこそすべてなれば~

作者: かずゐ

「まずジャンル:ハイファンタジーは鉄板だからそのまま!」


 ホーム画面から《新規小説作成》をクリックして、手慣れた動きで入力画面を《本文》から《フリーメモ》に切り替えた。


「今回のあらすじは、そうだな……【十歳になると誰もがスキルを手に入れられる世界で《誤字訂正》という外れスキルを手に入れてしまった主人公のナラフシ。

 ろくな職にもつけず冒険者になるも、雑用係として貢献していたSランク冒険者パーティーからも理不尽に追放されてしまう。

 『どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ! あんなスキルに恵まれただけでどうせろくに努力もしていないに決まっている奴らがSランクになれて俺がこんなクソ雑魚ステータスなのは間違っている!』

 そう叫びながらステータスウィンドウを殴りつけた時、外れスキルと思われていた《誤字訂正》が実は《誤字を正しく直す》のではなく《自分にとって誤りである全てを自分にとって正しいように書き換える》とんでもスキルだったことが明らかになる!

 『ふぅ、やれやれ。どうやらこの俺が愚か者共に《真実》ってものを身をもって分からせてやらないといけないらしいな』

 こうして《誤字訂正》スキルによりこの間違った世界を正しい《真実》の世界へと訂正し、自分の真の価値を分からせていったナラフシはやがて全世界を統べる存在として数多くの美妃に囲まれる覇王となる《真実》へと至る。

 一方ナラフシの真の価値を理解していなかった愚か者共は、訂正された《真実》の世界で当然の結果として追放直後から急速に落ちぶれていく。

 どんな誤りも許さない《真実》の英雄譚が今、始まる!】……っと。こんな感じでいいだろう」


 《フリーメモ》にあらすじを書き終えて、全文をコピーして画面を《本文》に切り替えた。


「タイトルは……【外れスキル《誤字訂正》が実は最強だと知った俺は、この間違った世界を正しい《真実》の姿に訂正する ~やれやれ、まさか俺が世界の王だったとはな~】でいくか」


 先に《作品タイトル》を書いてから、ようやく《小説本文》の入力を始めた。


「で、本文だけど……あらすじやタイトルに頭を使った後だからあんまり長々と書きたくないんだよな。

 あらすじにも書いたことだし、どうせ一話ガチャだし、色々とステータスウィンドウの内容を考えるのも面倒だし、追放されて意気消沈なところまで書けばいいか。

 続きが読みたいなら読者が評価ポイント入れればいいだけの話なんだからな!」


 笑いながら本文を入力する一話ガチャ作者に熱意は無い。

 受けが悪ければ切り捨てることが前提の作品にしっかりと熱意を込められる作者などそう多くないのだから当然だ。


「……最後にSランク冒険者パーティーから追放された主人公のナラフシが悔しそうにギルドを去るシーンを書けば……はい本文完成! 俺様速筆!」


 速筆を自称する程度には時間をかけずに、大した文章量でもない本文を書き上げて、やはり手慣れた動きで文章を保存してから《投稿》をクリックした。


「一話ガチャなんだから当然短編! ランキングや検索で人目につきやすさが段違いだからな!」


 悲しいことだが未完結の作品など珍しくはないのだから、短編詐欺だと批判される恐れのないよう初めから連載として投稿すればよいものを、変わらず手慣れた動きで短編を選択して画面を先へと進めた。


「おっと、今回は転生ものじゃないんだった。けどジャンルはもちろん異世界ハイファンタジー!」


 時に手慣れているからこそのミスを交えながらも、次々に画面を進めた。

 手入力が必要な箇所はほとんど無い。あらすじは先に書いたものを貼り付けるだけで、キーワードはテンプレばかりの履歴で難なく揃えられた。


「後書きも履歴を出せれば楽なのに」


 予測変換ですぐに出てくるほど使いまわした後書きを書き終えて、ついに最終確認画面まで進めた。


「はい投稿!」


 そして作者は手慣れすぎた動きで確認ボタンをクリックした。




 ――いつもの見慣れた《投稿》の確認ボタンとは違うと気付かずに。




 直後に派手な色合いが目に痛い画面が表示されたことで、作者はようやくいつもとは違うことに気付いた。


「おいおい何だよこれ!? PCバグったか!?」


 それでもまだこれが現実の範疇にある出来事だと勘違いしている作者をよそに、画面には見たこともないのになぜか読めてしまう奇妙な文字が表示され始めた。


{数多の世界を生み出してはその未来を閉ざしてきた者よ。其方には自らの生み出した世界を主人公として巡ってもらおう}


「何だこれ? 新手のウィルスか?」


 そう言いながらも作者の少し期待するような笑みを浮かべていた。

 作者が書いてきた一話ガチャは全てがなろうテンプレ。最強チートで無双しハーレムを作る主人公になれると聞いて断る理由など、この時の作者には思いつかなかった。


{もちろん世界は其方が生み出したところまで、本文により明確にされた分までしか存在しない}


「……はぁ!? 何だよそれふざけんなよ!!」


 作者は一種の異世界転移と言うべき話を信じたわけではないが、それでも納得できないのか声を荒げた。

 無理もない。ざまぁもチートも無双もハーレムも成り上がりも何もないところまでしかない世界に転移して何になるというのか。むしろざまぁされ要員の悪役にバカにされるだけ損だ。


「クソっ、ムカつくな……なあ!?」


 苛立ちで乱暴に頭を掻いた作者はそこでようやく気付いた。自分の身体が薄くなっていることに。


「まさか本当に!? いや待て! 待ってくれ!!」


 本当の話らしいと気付いてしまえば後は無様なものだった。

 頭の中には存在する栄光や快楽。そんな未来は他ならぬ作者自身が書いていないのだから存在しない。

 何も無い、とは少し違う。得る道があったはずの何もかもが、そこまで書いていないというシンプルな理由で得られない。それは最初から何も無いより耐え難い苦痛だ。

 それが自分のせいとなればなおのこと。


{安堵せよ。どのような世界を巡ろうとも其方が命を落とすことはない}


「そこじゃないんだよ! いいから待てってば!」


 叫ぶ間にも作者の身体は透けて見えるほど薄くなっていた。


「書くよ! 書かせてくれよ! 第一章まで! いや完結まで! だから待ってくれ!! 時間を――」


{一話ガチャとは言いえて妙なり。せめてマシな第一話の世界を巡れるよう祈るがいい}


 ガチャガチャを回すような軽い音が無慈悲に響いた後、作者の姿は消えていた。

※仮に評価していただけても続きは書きません。

 続きが無い、未来が無い、終わりが無いことが

 登場する《作者》への一番のざまぁなので。


ちなみに本作のジャンルは何にするのが正しいんですかね?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 三〇なずなさんかな? [一言] 最近では一話ガチャならぬ短編ガチャが流行っていますねぇ。 好評であれば連載します的なあとがきを添えて。 ジャンルはホラーじゃないですかね。
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