第7話:冒険者ギルド
迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を手にした。
念願だったレベルアップが可能になり、スキルも手に入れた。
長い時間を不思議な空間から、元の迷宮都市の広場に戻って来た。
チャレンジ指令に従って、厳格な司祭様に会いに来て、無事に冒険を続ける許可をもらえた。
◇
司祭様の部屋を出た直後、新しいチャレンジが来た。
ピロ~ン♪
☆《チャレンジ:下町の冒険者ギルドに行ってみよう。行ってみますか?》
□YES
□NO
次は冒険者ギルドに行くチャレンジか。
しかも下町の冒険者ギルドか。
あそこはオレのことを馬鹿にしてくる人が多いから、気まずい。
でも流れ的に、勇気を出していくしかなさそうだな。
「よし……□YES!」
ここで勇気を出さないと、今までの自分を変えることはできない。
YESを選択して、冒険者ギルドに向かう。
下町の冒険者ギルドは、この孤児院の近くにある。
卒院生が最初に通うギルドであり、オレも七歳の時から行っていた。
つまり孤児院で、オレのことを馬鹿にしていた同期も多いのだ。
「ふう、着いたぞ。中に入るか」
念のために剣の鞘は、布で隠していく。
前回のこともあるし、中で騒ぎを起こしたくないのだ。
勇気を出して、建物の中に入っていく。
中は一般的な作り。
入口の正面にカウンターがあって、受付嬢が座っている。
横の壁には掲示板があり、色んな依頼が張られていた。
あと奥には椅子が並んでいて、冒険者たちが雑談していた。
冒険者たちの待機場所だ。
「よう、ガリチビ! 生きていたのかよ!」
「相変わらず辛気臭いな!」
入ってすぐ冒険者たちに、馬鹿にされてしまう。
だが無視して先に進んでいく。
まずは壁の掲示板に向かっていく。
E~Aまでの冒険者ランクに合わせて、色んな難易度の依頼が張ってある。
ちなみにこの大陸の冒険者ランクは、次のように分類されている。
――――◇――――
冒険者ランク(レベルは冒険者協会が公表している大よその目安)
Sランク:レベル81~ :大陸にも数人しかいない
Aランク=レベル61~80:各迷宮都市に6人しかいない
Bランク=レベル41~60:迷宮都市に60人しかいない
Cランク=レベル31~40:各迷宮都市に600人しかいない
Dランク=レベル11~30:平凡な冒険が一生かけて到達できるレベルの限界
Eランク=レベル1~10:初心者~才能がない者が到達できる限界
――――◇――――
こんな感じだ。
迷宮探索は大陸各地に、何か所かる。
その中でも迷宮都市ガルドには中規模クラス。
約10万人の市民が住んでいて、冒険者は数千人とも言われている。
その中でも冒険者と呼ばれるのは、Dランク以上。
Eランクは新人と半人前。
ランクが低い冒険者は。難易度の低い依頼しか受けられない。
ちなみにオレは万年ランクEだ。
「さて、冒険者ギルドに来たものの、どの依頼にしようかな……」
今のオレはソロでEランク。
受諾できる任務か、かなり限られている。
ピロ~ン♪
☆《チャレンジ:下町の冒険者ギルドの依頼『初心者向け迷宮の子鬼討伐』にチャレンジしよう?》
□YES
□NO
ん?
またすごいタイミングで出てきたぞ。
やっぱりオレ見張られているのかな。
まぁ、でも有り難い。
掲示板を確認してみよう。
えーと、あった。
これか『初心者向け迷宮の子鬼討伐』は。
なるほど初心者の迷宮に行って、増えすぎた子鬼を間引きしてくればいいのか?
報酬は一匹当たり30ルピーで、上限数はなし。
期間も無しか。
あまり人気がない依頼だ。
かなり安いし、費用対効果も低いのであろう。
「よし、これにしよう!」
だが今のオレは金が目的ではない。
大事なのは冒険者として一人前に成長していくこと。
そのために天の声のクエストを、順番にクリアしていくことだ。
依頼の紙を持って、受付のお姉さんに渡す。
「はい、どうもです……って、ハリトさん、ですか⁉ はぁ……」
うっ……あからさまに嫌な顔をされしまった。
でもこれには理由がある。
「ハリトさん、いつも言っていますが、アナタはソロで迷宮に潜るのは、感心しません。司祭様からも、私キツく言われているんですよ!」
このお姉さんは何年か前から、ここで受付の仕事をしている。
だからオレのことは何でも知っている。
綺麗な人だけど、ちょっと厳しい口調の人なのだ。
「はい、それなんですが。司祭様からは許可を貰ってきました。これ、サイン書類です」
部屋を出る前にもらった、司祭様の紙を出す。
受付のお姉さんに見せて、確認してもらう。
「なるほど……これは、どうやら本物のようですね。でも個人的に私は反対です。この子鬼討伐の依頼も、初心者育成とはいえ危険はあります。それよりもハリト君でも出来そうな、こっちのゴミ掃除の依頼はどうですか?」
「心配ありがとうございます。でも、オレは、こっちの方でお願いします。無理はしないで、危険を感じたら逃げてきます。だからお願いします、お姉さん!」
「ふう……仕方がないでね。仕事なので受けない訳にはいかないので、一応は受諾しておきます。でもハリト君の腕だと子鬼でも1、2匹が精一杯だと思います。くれぐれも欲を出さないように!」
「は、はい。分かりました。では行ってきます!」
なんとか依頼を受けることができた。
よし、これで迷宮に行けるぞ。
だがギルドを出る前に、他の冒険者にまた絡まれる。
「おい! みんな、聞け。ガリチビの奴、子鬼退治に行くらしいぜ!」
「あっはっは……マジか! 何匹、倒してくるか、皆で賭けようぜ!」
「それならオレは一匹だ!」
「オレは二匹に賭けるぜ!」
「じゃあ、オレは0匹だ!」
「「「がっはっはは……」」」
みんなでオレのことを笑いものにしている。
オレの存在など、暇つぶし程度にしか思っていないのだ。
だが今のオレは聞く耳を持たない
(よし……いくぞ! 楽しみだな!)
何故なら心が燃えていたから。
レベルアップが出来るようになってから、初めての迷宮に魂が荒ぶっていたのだ。
◇
冒険者ギルドを出たオレは、目的の迷宮の入り口に着いた。
「初心者向けの迷宮か……懐かしいな……」
迷宮都市ガルドには、至る所に迷宮の入り口がある。
一番有名なのは、街の中心にある巨大な塔。
中は異空間になっていた、広大な迷宮が百層になっていた。
でもCランク以上じゃないと、入ることも出来ない。
だからそれ以下ランクの者たちは、街の至ることにある難易度別の迷宮に潜る。
まさに迷宮都市。
いや……正確に説明すると、『発見された迷宮の周りに、都市が出来てきた』といった感じだ。
とにかく迷宮都市の各所には、色んな迷宮が点在しているのだ。
「おや? 他の冒険者は……いないな?」
そんな中でも目の前にあるのは、超初心向けの迷宮。
推奨レベルは1以上で4未満。
だから多くの者は14歳を越えたら、ここには潜らない。
半人前と子どもしか行かない迷宮。
ハッキリ言って、この迷宮に入ること自体が、この街では恥ずかしいことなのだ。
「よし、行くとするか!」
だがオレはワクワクしながら潜っていく。
今までにないくらいに高揚していた。
薄暗い迷宮の中を進んできながら、自分の準備を再確認していく。
「よし、武器は片手剣を装備して。戦闘スタイルはヒット&アウェーでいこう」
盾や鎧は高くて買えない。
だから今はボロボロの布の服に、例の片手剣だけの装備。
防御的にはかなり弱い装備。
だから足を止めないスタイルでいく。
「あっ……スキルの振り分けは、どうしよう?」
ステータス画面を確認する。
――――《ステータス》――――
□名前:ハリト(♂16歳)
□職業:剣士
□メインレベル6
□スキルポイント:12
□スキル
・剣技(片手剣)レベル2
├斬撃
└飛斬
・回避(受け流し)レベル2
├見切り
└受け崩し
□隠密レベル0
□固有
・《観察眼》
・■■■■■■■■■■
UP! 身長160センチ
――――◇――――
うん、12ポイントもスキルポイントが残っている。
予定では隠密をレベル2にして、剣技と回避をレベル3に上げるつもり。
でも、もう少し後にしよう。
とりあえず今のメインレベルとスキルレベルを、魔物相手に確認しておきたいのだ。
ん?
『ガォオオオ!』
おっ、子鬼を発見。
全部で二匹か。
薄汚れた小剣と革鎧を装備している。
うっ……防具に関してはオレよりも豪華だな。
『ガォオオオ!』
おっと、いきなり襲いかかってきた。
相変わらず問答無用だな。
「でも……遅い! 斬撃!」
剣技(片手剣)の攻撃スキルを発動。
カウンターで切り返す。
『ウギャァアア!』
おお、一撃で倒せた。
前の短剣では何回も攻撃しなと、倒せなかった子鬼を一刀両断。
これは凄い。
改めてメインレベル6の身体能力と、剣技(片手剣)レベル2の強さ。
あと斬撃の威力を体感できた。
『ガォオオオ!』
おっと、二匹目が襲ってきた。
でも動きは遅く見える。
余裕で回避。
これもメインレベル6の力と、回避(受け流し)レベル2の恩恵だ。
【見切り】のスキルは使うまでもない。
よし反撃して倒そう。
『ウギャァアア!』
よし、こっちも倒せた。
これで二匹の討伐か。
シュー……
子鬼の死体が迷宮に吸収されていく。
詳しくは知らないが、これが大陸中の迷宮のシステムらしい。
死んだ魔物は土に還る。
あと日にちが経つと、また地面から湧き出てくるのだ。
「えーと、あった。子鬼の魔石だ」
そして迷宮では死んだ魔物跡に、魔石が必ず残る。
魔石は大小さまざまな種類が存在。
人々は魔道具の動力源になったり、魔力の回復に使ったり用途は多岐にわたる。
そのため魔石を冒険者ギルドで、買い取ってくれるのだ。
「よし、こんなに短時間で、子鬼の魔石を二個もゲットか……嬉しいな」
前は一匹倒すだけでも一苦労だった。
確実に強くなっていること実感。
モチベーションが上がってくる。
『ガォオオオ!』
おっ、子鬼の声が、向こうから聞こえてきた。
距離はそんなに遠くない。
「片手剣は問題ない。体力もまだいける。よし、二回戦いくぞ!」
自分の状況を確認。
子鬼に向かっていく。
あっ、そうだ。
今度はこちらから奇襲をしけてみよう。
そのためには何かスキルを上げた方がいいかな?