第32話:戦いの後
強敵の大鬼王を、何とか倒すことが出来た。
「ハリト君! 大丈夫ですか⁉」
戦いに終わり、つり橋を渡りマリアが駆け寄ってきた。
「うん、ありがとう。とりあえず怪我なないかな?」
大鬼王からの直撃を、オレは一撃も食らわなかった。
いや……厳密に言えば、一撃も食らうことが出来なかったのだ。
何しろ強固な迷宮の地面すら、切り裂く破壊力。
防御系のスキルを持たないオレは、一撃でも食らったら即死。
全力で回避と受け流しをしていたのだ。
「でも見ていた私は、本当に心臓が止まる思いだったんですよ、ハリト君!」
「いやー、ごめん。オレのわがままを聞いてくれて、ありがとうマリア」
あの大鬼王だけは、どうしてもオレ一人の力で倒したかった。
だからマリアの補助魔法を、最初に断っていたのだ。
「いえ、謝らないでください。正直なところ、あの大鬼王が相手だと、私は足手まといでした。むしろ、つり橋の反対にいて、邪魔にならなったかかと思います」
たしかにマリアの指摘も正しい。
何しろ大鬼王は異常な強さ。
マリアを守りながらオレは、戦える自信はなかった。
「さて、そろそろ、戻ろうか?」
「そうですね」
問題も魔物は、無事に討伐できた。
あとはギルドマスターに経緯を離して、今回の依頼は完了だ。
「ん?」
戻ろうとした時。
大鬼王が消えた後に、何かが残っていた。
素材だろうか?
「これは……蛮刀か」
素材として残っていたのは、巨大な蛮刀。
大鬼王が使っていた武器だ。
他にも少し変わった形の魔石もあった。
「魔物の武器が素材として、残るのは珍しいですね?」
「そうだね。とりあえず収納しておくね」
収納魔法で蛮刀と魔石を、回収しておく。
調べるのは後からにしよう。
何しろ今は疲れてヘトヘト。
早く安心できる地上に、戻りたいのだ。
◇
それから少し時間が経つ。
オレたちは無事に、冒険者ギルドに帰還。
ギルドマスターのライザックさんに、今回のことを報告する。
「……という訳で、最深部に大鬼王がいました。たぶん、行方不明の人たちは、あいつにヤられたのだと思います」
「ふう……そうか。わざわざ有難うな。それにしても初級迷宮に、危険のBの大鬼王がいたのか……どうなっているのやら」
ライザックさんが首を傾げるもの無理はない。
普通、大鬼王は上級迷宮以上にしか出没しない。
ギルドマスターとしての経験上でも、そんな奇妙な話は聞いたことがないという。
「とりあえず、あの迷宮は今後も、監視と調査が必要だな」
「そうですね。オレも協力します」
また初心者が行方不明になったら大変。
経験者として協力を申し出る。
「それにしてもハリト。まさか単騎で大鬼王を倒せるとは、本当に驚きだな?」
「いやー、たまたまです。戦闘スタイルの相性も良かったので」
予知眼のことは、まだ誰にも言っていない。
少し落ち着いてから、マリアには「話すつもりだ。
「相変わらず謙虚だな、ハリトは。もはや、この冒険者ギルドの中でも、上位に入る強さなのによ」
「あっはっはっは……そう言われても正直なところ、実感はないです」
つい先日まではメインレベル1だった。
だから上位と言われても、実感がないのだ。
今でも初級冒険者として謙虚にしていきたい。
「なるほどな、たしかに謙虚さは大切さだな。よし、とりあえず今日はここまで。依頼の報酬は、受付で貰っておいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「あと三日後に、ここに来てくれ。吉報があるかもしれない」
「吉報? はい、分かりました」
ライザックさんは意味深な笑みを、浮かべていた。
どんな吉報なんだろう。
楽しみだ。
「ありがとうございました!」
用事は終わった。
深く頭を下げて感謝を捧げる。
さて、部屋を出ていこう。
――――だがオレが顔を上げた、その時だった。
!!!
強烈な殺気を感じる。
「……【大戦斧】!」
ライザックさんが斧を抜いて、攻撃スキルを発動してきたのだ。
(くっ……【予知眼】! 【紙一重】!)
オレも即座にスキルを発動。
予知眼で、ライザックさんの動きを先読み。
新しい回避スキルで、紙一重で横に回避を試みる。
ビュン!
鋭い戦斧を、何とか回避に成功。
ふう……危なかった。
「まさか、もう、コレを回避されちまうとはな……」
「あっ、ごめんなさい。咄嗟に回避しちゃいました」
「いや、謝ることじゃねぇ。むしろオレは嬉しいぜ! これで胸を張って申請できるからな! じゃあ、また三日後に、ここに来い、ハリト!」
「あっ、はい。失礼します」
改めて挨拶をして、ギルドマスターの部屋を出ていく。
今も心臓がドキドキしている。
でも高揚感もある。
何故なら前回は反応すら出来なかった、ライザックさんの攻撃。
今はギリギリだけど回避が出来たのだ。
「嬉しそうですね? やっぱりハリト君も“強さ”に憧れる、男の人なんですね」
「えっ? そうかな……いや、そうだね。強くなりたいね、やっぱり!」
冒険者には、自分と仲間を守る力が必須。
だからオレも強くなりたい。
仲間を守っていくために。
◇
その後は受付で、お姉さんに依頼の報酬を受ける。
冒険者ギルドを出て一度、マリアを別れる。
互いの常宿に戻って後で、いつもの酒場に集合することにした。
オレは自分の常宿に戻ってきた。
冒険の後片付け。
武器や防具の手入れを、部屋でしていく
「あっ、そうだ。あの蛮刀も確認しておこう」
大鬼王の素材のことを、思い出す。
部屋の床の上に、収納から出す。
「うーん、こうして見ると、やっぱり巨大すぎるな。オレには使えないから、どうしよう?」
蛮刀は普通の大きさはない。
ライザックさんのような筋力でも、使えない巨大さ。
人族が使う存在ではないのだ。
たぶんランカの武具屋でも、これは買い取ってもらえないだろう。
「まぁ、とりあえず鑑定してみよう」
鑑定でどんな感じか確認してみる。
――――◇――――
《鑑定結果》
□名前:反転者の証
□分類:特殊素材
□ランク:SS
□固有:【融合】他の《反転者の証》と融合させることが可能。
――――◇――――
えっ?
なんだ、これ?
なんと蛮刀は武器じゃなかった。
分類が“特殊素材”となっている。
それにランクSS。
マリアの聖女の欠片よりも更に上位だ。
「それに、この【融合】ってなんだろう? それに《反転者の証》って?」
よく分からない単語が盛りだくさん。
他の《反転者の証》を見つけないと、意味がないのかな?
どういう形をしているのかな。
この蛮刀と同じように、剣の形をしているのかな?
――――何気なく自分の腰の剣に、手を触れた時だった。
ピコーン♪
突然、天の声が聞こえてきた。
☆《ハリトの《反転者の証》と【融合】させて強化しますか?》
□YES
□NO
えっ?
これは、どういうこと?
オレの剣が《反転者の証》だったの⁉
あの不思議な空間で手にした、この剣が《反転者の証》の一つだったのか?
とりあえず強化と書いてあるから、□YESを選択してみよう。
ビューーン!
蛮刀がオレの剣の中に、吸い込まれていく。
収納に似たような不思議な現象だ。
ピコーン♪
《ハリトの《反転者の証》が一段階、解放されました。固有が解放されました》
――――そして更に天の声が追加される。
ピロ~ン♪
☆《チャレンジ『《断崖の迷宮》の依頼』を完了しました》
☆《チャレンジ『《反転者の証》の解放』を完了しました》
☆《チャレンジ『固有の解放』を完了しました》
☆《【《反転者の証》争奪戦】が開幕しました》
☆《特別経験値が付与されました》
☆《魔物討伐の経験値が付与されました》
☆《ネームド魔物の討伐の特別経験値が付与されました》
☆《ハリトのメインレベルが9上昇しました》
☆《スキルポイントを37ゲットしました》
☆《『ハリトの恩恵』でメンバー『マリア』メインレベルが6上昇しました》
☆《『マリア』はスキルポイントを25ゲットしました》
え?
ええええ⁉
なんか、すごく一気にレベルアップしたぞ⁉
今までにないくらいの桁違いのレベルアップと、スキルポイントだ。
それに【《反転者の証》争奪戦】とか“ネームド魔物”とか、また分からない単語が盛りだくさん。
どうしよう、これは。