第30話:大鬼王《オーガ・キング》
トラウマの部屋に来たら、突然魔物が地面から出現。
“大鬼王”と呼ばれる上級迷宮にいる危険な魔物だった。
そして“大鬼王”の顔には、見覚えがある痣が。
あのオレの突き落とした大鬼が進化して、目の前に出現したのだ。
◇
魔物の進化には、色んな説がある。
今のところ多くの冒険者を倒した魔物が、更に上級な魔物の進化する説が有力。
だが魔物は生態系そのものが、謎が多い。
何故なら魔物は閉鎖された迷宮の中に、自然と湧き出る存在。
そして死ぬと粒子となって、迷宮に消えていく謎が多い存在なのだ。
とにかく魔物の進化については、謎が解明されない部分が多い。
――――だがオレは直感で分かった。
この“大鬼王”は間違い。
あの時の大鬼は進化したものだと、何故か“分かった”のだ。
『グァオオオオ!』
一方で“大鬼王”にも反応がある。
オレの全身を眺めながら、不敵な笑みを浮かべていた。
まるで好敵手と再会したかのような、不敵な反応だ。
「ハリト君! 今、助けにいきます!」
向こう岸のマリアが、吊り橋を渡って来ようする。
「待って、マリア! 今、そこを渡るのは危険だ! この“大鬼王”は普通じゃない!」
だがオレは手で制する。
何故なら前回の戦いの時も、この大鬼は先に吊り橋を破壊した。
オレを逃がさないように、こいつは先制攻撃をしかけてきたのだ。
つまりこの個体は、知性を有した大鬼。
無防備になる吊り橋を、マリアが渡るのは危険すぎるのだ。
「で、でも、ハリト君一人じゃ、“大鬼王”は……」
「ああ、そうだね。難しいかもしれない」
“大鬼王”の危険度はランクB以上。
ランクBの冒険者が四人以上で、ようやく討伐が可能な危険な強さ。
つまりメインレベル10代でランクEなオレが、単独で撃破できる可能性は低いのだ。
「でも、大丈夫、マリア。ここは……コイツだけは、オレ一人にやらせて欲しいんだ!」
この“大鬼王”は並々ならぬ因縁がある。
例えるなら『前回の自分ハリトを殺した相手』。
だからこそ今の自分が、越えなければいけない宿敵なのだ。
「ハリト君……はい、分かりました。私はこっちで待機しています。ですがハリト君が危険になったら、無謀でも助けにいきますから!」
「ありがとう、マリア。そこで見ていてちょうだい。オレの……覚悟を!」
決意は決まった。
“大鬼王”にオレは剣を向ける。
『グラァララ』
相手も武器を向けてくる。
今回の武器は巨大な蛮刀だ。
鋭さもあるが重量が普通ではない。
今のオレの筋力とスキルでは、間違いなく防御は不可能。
完全に回避するか、完璧に受け流す必要がるのだ。
「さて、待たせたね……いくよ!」
『グルグル!』
オレたちは剣先を向け合い、牽制しあう。
互いの武器は片手剣同士。
剣術同士の戦いになるのだ。
『ガァアアアア!』
先に動いたのは“大鬼王”。
蛮刀を振りかぶって、斬り込んできた。
「くっ⁉ その巨体で、その速さかよ⁉」
予想以上の斬り込みだった。
「くそ! 【集中回避】!」
回避系のスキルを発動。
真横に飛び跳ねて回避する。
ドッ、ジャシャーーン!
直後、迷宮の地面が吹き飛ぶ。
凄まじい威力の蛮刀で、吹き飛んだのだ。
「今だ! 【強斬】!」
相手は地面を攻撃して、硬直している。
オレは片手剣の攻撃スキルを発動。
無防備な大鬼王の横に、斬り込んでいく。
『ガァアアア!』
だが大鬼王は反応する。
棍棒のような握り拳で、オレに反撃してきたのだ。
「なっ⁉ 剣を素手で⁉」
バッ、ガギーーーン!
オレの斬撃は、大鬼王の素手にはじき返されてしまう。
キーーーン。
衝撃で手が痺れてしまう。
後方に下がり距離を取る。
『ガァルッルル……』
対する大鬼王も構えを取っている。
蛮刀を地面から引き抜き、こちらを警戒していた。
「ハリト君、大丈夫ですか⁉」
「ああ、大丈夫だ。マリア。手が少し痺れただけだ」
心配してくれていたマリアに、大丈夫だと合図する。
「ふう……でも、正直なところ、予想以上の強さだな、アイツの攻撃力は……」
今の攻防で分かった。
大鬼王は、やはり普通の強さではない。
まずは攻撃力が高すぎる。
頑丈なはずの迷宮の地面を、蛮刀を斬り裂いたのだ。
高性能の“古代の着衣”でも直撃した、無事では済まない。
「それにあの表皮……防御力も普通ではないな……」
先ほどオレが全力で【強斬】を放った。
だが素手で弾かれてしまったのだ。
まるで巨大な岩に叩きつけたような感触。
おそらくは全身も同じように固いのであろう。
「ふう……弱点は顔だろうが、あの巨体だと、攻め込むのも危険だな……」
大鬼王の全長は四メートル以上。
顔を狙うには接近する必要がある。
だが接近したら蛮刀と、相手の岩のように打撃の間合いに、入る必要がある。
かなり危険だ。
「それなら、使うしかなないか、ここで!」
大鬼王に視線を向けながら、自分のステータス画面を表示。
戦闘に必要なスキルを上げていく。
ピローン♪
☆《ハリトの剣技(片手剣)レベル4→6のレベルアップ》
☆《ハリトの回避(受け流し)レベル4→5のレベルアップ》
攻撃と回避系のスキルのレベルアップをする。
お蔭でかなりスキルを消費した。
これ以上の剣技の方は上げられない。
だが今は惜しんでいる時ではない。
目の前の宿敵を倒すために、全ての力を出し尽くすのだ。
『グァアアアア!』
大鬼王が動き出す。
先ほどと同じように、蛮刀を構えている。
斬撃を繰り出してくるつもりなのだ。
『ガァアアアア!』
“大鬼王”の動きが急に早くなる。
蛮刀を振りかぶって、斬り込んできたのだ。
「くっ⁉ 先ほどよりも速い⁉」
予想以上の斬り込みだった。
「だが、ギリギリ見えるぞ! はぁあ……【受け崩し】!」
今度は受け流し系のスキルを発動。
相手の蛮刀の斬撃を、自分の剣で受け流す。
ジャリリリ、キーーーン!
ギリギリのところで大鬼王の攻撃を、受け流しせた。
相手の体勢は崩れている。
「今だぁああ! 【強斬】ぅう!」
カウンター気味に剣技を発動。
『ガァアアア!』
だが大鬼王は反応する。
棍棒のような握り拳で、また反撃してきたのだ。
「ぐっ⁉ だがぁあああ!」
バッ、ズッシャァアア!
だが今回は弾かれなかった。
オレの斬撃は、大鬼王の素手を切り裂いていく。
『グッ⁉ ギャァアアアア!』
痛みで大鬼王は暴れ回る。
蛮刀を強引に引き抜き、振り回されてくる。
「くっ⁉ はっ!」
オレは後方に下がって、距離を取る。
相手の隙を伺う。
「ふう……よし!」
そして心の中でガッツポーズをする。
何故なら今度はオレの方が、有利になったからだ。
「よし……このまま冷静に相手の攻撃を受け流して、カウンター攻撃をしていけば……何とかなるぞ」
パワーでは未だに相手が上。
だがスピードと剣技では、オレの方が上回った。
後は混乱しないで、ヒット&アウェーで戦っていけば、必ず大鬼王を倒せる。
「お見事です、ハリト君!」
遠目に見ているマリアも、確信していた。
このままでいけば勝利はマリ違いないことを。
――――だが、その時だった。
大鬼王に異変が起きる。
『グルルウウァアア!』
咆哮した直後、全身が赤く光り出したのだ。
そしてオレは自分の目を疑う。
「え……大きくなった……⁉」
なんと大鬼王の巨体が、更に一回り大きくなっていたのだ。
しかも左腕のダメージも、完全に塞がっている。
「ま、まさか……こいつ、戦いながら進化していくのか⁉」
先ほどのまでの勝利への確信は、絶望へと変わっていこうとしていた。