第11話:不思議な服《アーマー》
迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を入手。
強面のギルドマスターのアドバイスで、防具を買いに来た。
そんな中、いきなり新しいスキル【鑑定】を会得。
不思議なデザインの服を【鑑定】したら、なにやら表示が出てきた。
◇
――――◇――――
《鑑定結果》
□名前:古代の着衣
□分類:防具
□所有者:未定
□ランク:A
□物理耐性:B
□特殊耐性:A
□固有
├炎・氷耐性60%カット
├状態異常90%カット
├装備者ダメージ自動回復《中》
└着衣ダメージ自動回復《中》
※機能を正常稼働させる為には《鑑定》後、所有者登録が必須
――――◇――――
これは何だろう?
自分のステータス画面にも、少し似ている。
というか名称の、古代の着衣って、なんだろう?
服なのか鎧なのか、どっちなんだろう。
とりあえず他の物にも【鑑定】を使って、比較してみよう。
まずは、あの金属鎧がいいかな?
280,000ルピーと高額で、この店の商品の中で、もかなり高い部類だ。
――――◇――――
《鑑定結果》
□名前:金属鎧
□分類:防具
□所有者:未定
□ランク:D
□物理耐性:D
□特殊耐性:―
□固有―
――――◇――――
ん?
いや、まって。
こんな頑丈で、高価な金属鎧が《物理耐性:D》だって?
他の金属鎧と革鎧にも、こっそり鑑定してみる。
でも他のも、だいたい同じ感じ。
最高値では《物理耐性:D》しかない。
あと《固有》がある防具は一つもない。
つまり、さっきの不思議なデザインの服だけが、異常なのだろう?
とりあえずジャンクコーナーに戻ってみる。
値段を再確認。
値札はたった1,000ルピー。
さっきの金属鎧の、百分の一以下の値段しかない。
でも鑑定によると、性能は桁違いだ。
どういう意味だろうか?
あっ、そうか。
この『※機能を正常稼働させる為には《鑑定》後の所有者登録が必須』が理由なのかな?
鑑定が使えない人にとっては、防御効果を引き出せない感じかなのかな?
――――そんな時、後ろにまた気配がある。
「おい、オヌシ」
「ひっ⁉」
いきなり背後に立っていたのは、初老のオジイさん。
気配がなかったけど、いったいいつの間に?
思わずビックして振り返る。
「その服が、気に入ったか?」
「えっ? はい、とても気になります……」
もしかしたら店の人かな?
さっきの子と同じ店のエピロンをしている。
「この店はワシの爺さんの代から、やっておる。だが、その服を気にいったのは、オヌシが初めてじゃぞ」
「えっ……そうなんですか?」
「どうする? 買うか?」
「あっ、はい! 買わせていただきます!」
そんな伝統と由来がある服だったのか。
改めて気になる。
購入を決意する。
「おーい、ランカ! 会計をしてやれ!」
「はーい、おじいちゃん! って、あんたはさっきのボロボロの服の子⁉」
やってきたのは、さっきの女の子。
辛口なショートカットの子だ。
そうか、この二人は実の家族だったのか。
「ん? それに、その変なデザインの服を買うの? 本当に冒険者やる気あるの?」
「えっ、はい。今日は、とりあえず、これを普段着として買っていきます。防具は、もう少しお金を貯めてから、また買いに来ます」
「ふーん、そういうことね。そう言って私の顔を見に来る気でしょ?」
「ち、違います……たしかにキミは可愛いけど、そんな、つもりは……」
「えっ……可愛い……私が……?」
「あっ、はい。とても可愛いと思います。聖経典に書かれている、天使のように可愛いです」
「ちょ、ちょっと……なに、言っているのよ……もう」
ランカという子は、顔を赤くしている。
どうしたのだろうか?
「おい、ランカ。じゃれ合ってないで、早く会計してやれ!」
「わ、分かったわよ、おじいちゃん。それじゃ、1,000ルピーよ、それ」
「はい、確認してください」
「たしかに。せっかくだから着ていく?」
「あっ、はい」
お言葉に甘えて、更衣室を借りる
前のボロボロの服を脱いで、新しい服を着てみる。
うん、サイズもちょうどいい感じ。
予想以上に動きやすい。
「へー、こうして見ると、悪くないかもね? ところで、このボロボロの服、どうする? よかったら処分しておくけど?」
「あっ、はい。お願いいたします。あっ、でもちょっと待ってください」
処分される前に、古い方の服を手に取る。
「今まで本当にありがとうございました。色んな窮地を助けてもらって、お蔭でここまで生き残ることが出来ました。一緒に過ごした時間は決して忘れないから、安らかに眠ってください」
この服は長年付き添ってきた相棒。
感謝を述べて、最後の別れを告げる。
今までの苦難の日々の想いでが、胸の中に込み上げてきた。
「ちょ、ちょっと、あんた、捨てる服に、感謝なんかしているの、いつも?」
「え? うん。変で、ごめんね」
「いえ、悪くはないと思うわよ。服や防具を大切にする人に、悪い奴はいないからね。私は嫌いじゃないわよ」
「そっか……そうだね」
「あんた名前は?」
「えっ?」
「名前を聞いているのよ! 私はランカ。ここの店の娘よ!」
「あっ、そういうことか。オレはハリト。そこの孤児院の出身で、駆け出しの冒険者です」
「ふーん、ハリトね。覚えておいてあげる。また買い物の時は、うちを使うのよ、絶対に?」
「うん、分かった。ありがとう、ランカ!」
とても良い雰囲気の店。
迷宮でお金を貯めて、また必要品を買いに来たくなった。
無事に買い物も出来たので、店から出ていくことにした。
そんな時、さっきの同期組の連中にばったり会う。
「ぷっぷ……おい、見ろよ! ガリチビの奴! 防具じゃなくて、服を買っているぜ!」
「まじウケる! あんな防御力がゼロの服で、どうやって魔物と戦う気だよ、アイツ!」
「だよなー! あっはっはっは……」
また同期組から馬鹿にされてしまう。
だが今のオレの耳には入ってこない。
何故なら早く、この服の性能を起動してみたかったのだ。
「ここでいいかな?」
少し離れたところで立ち止まる。
周りには誰もいない。
服に向かって《鑑定》を唱えて、さっきのステータス画面を表示させる。
《□所有者:未定》の所をタッチ。
ピローン♪
☆《【古代の着衣】の所有者:ハリトを登録完了》
おお、登録できたっぽい。
もう一度、服に向かって【鑑定】を発動。
表示を確認してみる。
――――◇――――
《鑑定結果》
□名前:古代の着衣
□分類:防具
□所有者:ハリト
□ランク:A
□物理耐性:B
□特殊耐性:A
□固有
├炎・氷耐性60%カット
├状態異常90%カット
├装備者ダメージ自動回復《中》
└着衣ダメージ自動回復《中》
※機能:稼働中
――――◇――――
おお、ちゃんと所有者の所が、オレの名前になっている!
しかも機能も稼働中になっているぞ。
よし、ちょっと試してみようかな?
もう一度、周りを確認
よし、誰もいないな。
自分の片手剣で軽く、服を刺してみる。
ガッ、キーーン!
おお、鋭い刃先が弾かれた。
本当に高防御力の服だったんだ。
「これは凄いぞ……こんなに軽くて動きやすいのに、……ここまでの防御力があるなんて、夢のようだ……」
防御力の高い金属鎧は、超重量で機動力が激減する。
しかもスタミナ消費が激しく、剣の動きも制限されてしまう。
だがこの《古代の着衣》は短所がない。
むしろメリットしかないのだ。
「早く実戦で試してみたいな、どんな感じなのか……」
そんな時だった。
ピローン♪
また天の声の音がする。
☆《チャレンジ:新しい防具を試すために明日、下町の冒険者ギルドに行って、中級迷宮の依頼を受けてみよう。行ってみますか?》
□YES
□NO
おお、相変わらずタイムリーなチャレンジだ。
本当に監視されているとしか思えない。
ん?
でも、まてこれ。
「『中級迷宮の依頼』……いや、さすがに、ランクEのオレには無謀でしょ⁉」
でも、なんとなく挑戦しないと駄目な気がする。
どうしよう……。