第10話:防具屋さん
迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を入手。
念願だったレベルアップが可能になり、スキルも手に入れた。
司祭様から冒険を続ける許可を得て、初心迷宮の子鬼討伐に成功。
強面のギルドマスターにもアドバイスをもらう。
◇
冒険者ギルド建物の裏通り。
新たな天の声が出てきた。
☆《チャレンジ:《萬屋本店》に行って買い物してみよう》
店はギルドマスターに紹介された防具と雑貨店だ。
YESを選択して、商店に向かって歩いていく。
「防具か……早く欲しいな」
歩きながら、自分の身体を確認。
今は薄汚れたボロボロの服を着ている。
防御力はほぼゼロ。
冒険者としてはあり得ることだ。
「でも防具類は高いから、買えるのがあるかな……」
今の所持金は14,100ルピー以上。
貧乏なオレにとっては、かなりの大金だ。
でも全部は防具には使えない。
何しろこの迷宮都市では、一日100ルピーくらいの生活費が必要。
今後の生活費や、探索準備金を残しておく必要があるのだ。
つまり防具には10,000ルピーくらいしか使えない。
そう考えると、ちょっと不安だ。
「でも、悩んでいても仕方がない。ダメ元で当たって砕けろだ!」
とにかく中古屋さんに向かう。
何かあったら、店の人に相談すればいいのだ。
◇
店に到着。
古めの建物だけど、けっこう大きい。
よしく、いくぞ。
勇気をもって店内に入る。
「うわー、すごい……」
中に入って、思わず声をもらす。
店内は凄い光景だった。
金属鎧、チェーンメイル、革鎧、盾、兜。
色んな防具類が、所狭しと陳列されていた。
貧乏だったオレは今まで、こうした店には入ったことがない。
初めての光景に、思わず胸が高まる。
通路に立ちつくし、陳列に目を奪われてしまう。
「えー、ごほん。そこ通っていいかしら?」
「あっ、ごめんさい!」
あっ、やばい。
女の子が通るのを、オレは邪魔していたようだ。
急いで横にずれる。
「ところでキミは防具を買いに来たの? お金はちゃんとある?」
「えっ、はい。一応は……」
この子は店の従業員だったらしい。
歳はオレと同じくらいで、仕事着のエプロン姿。
ショートカットで可愛い子。
でも少し気が強よそうな女の子だ。
「へー、その恰好で? ちなみにウチの店は、あんまり安くないけど大丈夫?」
「あっ、この格好は……ごめんさい。」
ボロボロの服を指摘されてしまった。
たしかに穴だらけで、買い物客としては相応しくない。
女の子はかなり怪しげな表情で、オレのことを見てくる。
「ちなみに予算は、いくら?」
「えーと、10,000ルピーくらいで」
「あんたの戦闘スタイルは?」
「えーと、機動力重視で、ヒット&アウェーな感じかな?」
「ふーん。武器は、その剣? 剣士なの?」
「え? うん、まあ、まだランクEだけど……」
「防具にランクは関係ないわ。ふう、わかったわ。ついて来て。えーと、その予算と、キミの戦闘スタイルだと、この辺かな?」
ため息をつきながらも、女の子は案内してくれた。
軽量タイプの革鎧が並んだコーナーだ。
「おお、なるほど。これならオレにもピッタリかも!」
この子は口が悪いけど、プロの防具屋さんだった。
ちゃんとオレの体型を目測。
戦闘スタイルと予算で、瞬時にマッチングしてくれたのだ。
「ありがとうございます! 助かりました!」
優柔不断なオレとしては、本当に有り難い。
それにしても色んな種類の革鎧があるな。
どれにしようか目移りがする。
ん?
そんな革鎧コーナーの奥に、何かを見つける。
大量の服が、木箱に積まれていた。
「あのー、これは?」
「それはジャンク品よ」
「ジャンク品?」
「ええ、もう古すぎて、防具としても衣類としても、商品価値が低いものよ」
「ああ、なるほど。だから、こんなに安いんですね!」
ジャンク品は、かなり激安の値札が付いている。
これなら自分でも気がねなく買えそうだ。
「でも、防具として機能は低いわ。命を張る冒険者なら、防具の重要さは分かるでしょ?」
「あっ、そうですね。でも、ちょっと見てもいいですか? 普段着用に?」
「そうね。そのボロボロの服よりは、マシだから。じゃあ、決まったら、声かけてね」
「あっ、はい。色いとありがとうございます!」
女の子は、別のコーナーに行ってしまった。
口はちょっとキツイけど、本当にいい子だったな。
「さて、ジャンク品の中から、普段着を探そうな……ん?」
そんな時だった。
後ろから誰かの声が、聞こえてきた。
知っている声だ。
まずい、これは。
「ん? おい、見て見ろよ! ガリチビが、こんな所にいたぞ!」
「あっ、本当だ! アイツ、最近調子に乗っているらしいぜ!」
店内の通路を通りかかったのは、孤児院の同期組の連中。
先日とは別のグループ。
でも彼らもオレのことを、いつもイジメてきた人たちだ。
「あと、見て見ろよ! あんなジャンク品なんて漁っているぞ!」
「ぷっぷー、ウケる! ゴミ虫には、ゴミ箱がお似合いだな!」
「良かったら、オレのお下がりの、下着でも、恵んでやろうか⁉」
「「「あっはっはっは……」」」
またオレのことを蔑すんでいく。
ある程度言ったら気が済んだようだ。
そのまま別のコーナーに行ってしまう。
「ふう……気持ちを切り替えて、探そう……ん?」
そんな時だった。
一着の服に目が止まる。
「これは……何だろう? 普通の古い服に見えるけど……でも、なんか違和感が……あるような?」
気になったのは、不思議なデザインの服。
かなり年代物なのだろう。
上下がセットになっているけど、値段が極端に安い。
「何だろう……これは……?」
手に持ってみる。
素材は普通の繊維のような気がする。
でも、やっぱり変な感じがする。
なんだろう、この違和感は?
その時だった。
☆《ピローン♪ 新しいスキルを会得しました》
えっ?
新しいスキル?
店内で、いきなりでビックした。
でも何だろう、ステータス画面を確認してみよう。
――――《ステータス》――――
□名前:ハリト(♂16歳)
□職業:剣士
□メインレベル8
□スキルポイント:19
□スキル
・剣技(片手剣)レベル2
├斬撃
└飛斬
・回避(受け流し)レベル2
├見切り
└受け崩し
□隠密レベル1
└忍び足
・空間収納レベル1
└収納リスト
□固有
・《観察眼》
└New!鑑定眼レベル0
・■■■■■■■■■■
□身長172センチ
――――◇――――
ん?
《鑑定眼レベル0》というのが追加されているぞ。
しかも《固有》の《観察眼》から発生しているスキルだ。
そういえば固有から発生したのは、これが初めて。
どういうことなんだろう?
とりあえずタッチして、説明を見て見よう。
☆《鑑定眼:見た物の価値を、可視化して確認できる。内容や有効距離などは、レベルアップで増えていくよ》
ん?
『見た物の価値を、可視化して確認できる』か。
どういう意味だろう。
とりあえずレベル1に上げて、使ってみよう。
☆《ピローン♪ 鑑定眼レベル0→1になりました》
よし、上がったぞ。
まずは身近な物を見て見よう。
そうだ。
さっきの不思議なデザインの服に、使ってみよう。
えーと、視線を向けて、また声に出せばいいかな?
「この服を【鑑定】!」
ピコーン♪
おっ、また音が流れた。
成功したのかな。
ん?
あと服の所に、あの透明な文字が出てきたぞ。
読んでみよう。
――――◇――――
《鑑定結果》
□名前:古代の着衣
□分類:防具
□所有者:未定
□ランク:A
□物理耐性:B
□特殊耐性:A
□固有
├炎・氷耐性60%カット
├状態異常90%カット
├装備者ダメージ自動回復《中》
└着衣ダメージ自動回復《中》
※機能を正常稼働させる為には《鑑定》後、所有者登録が必須
――――◇――――
えっ……?
んっ?
服の何かのデータが出てきたぞ
なんだ、これは……?