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突然の襲撃

砦を襲撃した翌日、日が高い位置に昇っている時間帯に目を覚ました俺は、さっそく今日から積極的にスナイパーライフルを使用して探索を続けようと拠点を出た。


まずゴブリンの砦の方向に足を進め、昨夜の襲撃に対してゴブリンたちがどういう反応を示しているのか見に行くことに決めた。


体感で正午を大分過ぎたころに、砦近くの川沿いまで移動してきた俺は、いつもより遭遇するゴブリンの数が少ないことに気付き始めていた。


昨日の襲撃で数を減らした影響が、早くも表れていることに気分を良くした俺だったが、探索を続けているうちに、事態はそう単純ではないことに気付き始めた。


というのも、ゴブリンが姿を現さなくなったことを引き換えに、通常よりもウルフと遭遇する頻度が増えてきたからだ。


俺はゴブリンたちの様子を正確に判断するため、気持ち急ぎながら砦に向かい移動を始めた。


そこで確認できたのは、俺がゴブリンの集落に与えた影響は、俺が想定していた以上のものだったということだ。


砦にいたゴブリンたちは、昨日の砦への襲撃に大きな危機感を抱いたのか、自分たちのテリトリーを維持することよりも、砦の防衛により多くの人数を割いていたのだ。


そして、ゴブリンの現状を直感的に理解したウルフたちが、維持できなくなったゴブリンの活動域に、頻繁に侵入するようになっているようだった。


自分を取り巻く現状が、砦へ襲撃する前よりも悪くなっていることに、俺は頭を抱えた。


そして、その場で今後どうすべきかうんうんと悩んでいると、突然俺の後ろから、藪をかき分ける音が聞こえた。


その音を聞いた俺は、半ば直感的に自らの体を横に放り出した。


体を放り出したすぐ後に、俺のいた場所へウルフがその牙をむき出しにしながら跳びかかっていたのを確認した。


地面を回転しその不意打ちを回避しながら、すぐに腰のリボルバーを引き抜いた俺は、自分の位置と周囲の状況に目を走らせた。


ウルフが跳びかかったすぐそばの木に、スナイパーライフルが立てかけられている。そして、いつの間にか俺の周囲を取り囲むように、5匹のウルフが敵意をむき出しにしながら俺を睨みつけていた。


自分を取り囲む最悪の状況に、俺の心臓はバクバクと音を鳴らし、頬に冷や汗が伝う。


挫けそうになる心を奮い立たせ、俺はウルフたちに先制を仕掛けた。


俺を不意打ちしたウルフにリボルバーの銃口を向けるなり発砲した。発射された銃弾がウルフの顔に命中するのを視界に入れつつ、崩れ落ちるウルフのそばにあるライフルまで全力で足を進ませる。


リボルバーの発砲音に気をとられていたウルフたちを横目に、スナイパーライフルの銃身を手に取った俺は、その場を一気に駆け出した。


一拍間をおいて、動き出したウルフたちは俺の背を追いかけ始めた。


音で追いかけられ始めたのを確認した俺は、自分の視界の左隅の藪の中から、おそらく伏兵だと思われるウルフが跳びかかってきたのを察知した。


俺は咄嗟に、左腕に持っていたスナイパーライフルの銃身をウルフの頭に打ち付けた。腕を振ったことで倒れこみそうになる身体を無理やり立て直し、マップ機能を表示して、インベントリの欄からスタングレネードを取り出す。


2度目の不意打ちの時にどこかに落としたらしいリボルバーを持っていたはずの右手に、スタングレネードが現れる。


そしてそれを後ろに投げようとしたとき、一番近い位置にいたウルフが俺に跳びかかってきた。


口を開け跳びかかってきたウルフの攻撃を、俺は再度スナイパーライフルの銃身で受けようと腕を動かしたが、ウルフとの間合いが近すぎて、その噛みつきを左腕に受けてしまった。


腕を襲う刺すような痛みに顔をしかめながら、俺はお構いなしに右腕を振りかぶってスタングレネードを放り投げ、投げ終えた右腕で目を覆った。


辺りを真っ白に染め上げ、つんざくような音を鳴り響かせたスタングレネードは、ウルフたちの聴覚と視覚を一時的に奪うことに成功した。


その音をまじかに浴びた俺は、もうろうとする意識のまま、腰からサバイバルナイフを取り出し、視覚と聴覚を潰されながらも俺の腕にかみついているウルフの首元にその刀身を刺しこんだ。


右手に伝う生暖かい血の感触をどこか他人事のように感じながら、左腕にかみついたまま果てたウルフの体を振り払う。


そして、左腕の痛みとじかに受けた爆音によって途絶えそうになる意識を必死につなぎながら、方向感覚も定まらないまま我武者羅に走り続けた。


しかし、走っている最中に俺の体は限界を迎え、その場に身を放り出した。


俺は走り続けて火照った体に、頬へ感じる地面の冷たさを心地よく思いながら俺は自らの意識を手放した。





どこか薄ぼんやりとした意識のまま目を覚ました俺は、自分が力尽きた森の中にいるのではないことに気付いた。


背に感じる柔らかな感触から、ベッドか何かに横たわっていることを理解して、俺は誰かに助けられたのだと直感した。


それと同時に、自分の今の状況を確認しようと起き上がろうと試みた。しかし、左腕に走った痛みと体中の節々に感じる痛みでその行為は中断された。


どうやら限界を超えて体を酷使したことで、全身の筋肉を痛めてしまったようで、仕方なく俺は体を横たえたまま周囲に目を走らせた。


俺はどうやら納屋のようなところで寝かせられているらしく、周囲には何の動物のものか分からない皮を使った外套や弓、鉈など狩りで使いそうな道具が所狭しと置いてあった。


周囲の様子を一通り伺った俺は、今度は自分の体の状況を確認し始めた。ウルフに噛まれた左腕には包帯らしきものが巻き付けられていた。そして、防弾チョッキや靴などは脱がせてあり、黒のインナーのシャツと迷彩柄のズボンだけを着用しているようだった。


自分の持っていた武器類が見当たらないことに気付いた俺は、再度周囲に目を向け、それらを探した。


結局見つかったのは、鉈などとごっちゃに置かれたナイフ類と外套の近くに立てかけられている防弾チョッキと靴だけだった。


スナイパーライフルが見当たらないことを不安に覚えた俺だったが、その思考は薄暗い納屋内に差し込んだドアからの光によって中断された。


誰かが入ってきたことを感じ取り、ドアのほうへ首を振り向けた俺は、その手に水の入った桶と清潔そうな布を持った妙齢の女性と目が合った。


その女性は、肩辺りまで伸ばした赤茶色の髪を持ち、その双眸は小麦色に輝いていて、目尻は少し吊り上がっていた。頬には少しそばかすがあり、顔のパーツは全体的にシャープでその目も相まって猫のような印象を受けた。また、女性にしては比較的身長が高く、体つきはしなやかだが、出るとこは出ていてスタイルは良く、どこか野性的な雰囲気を感じさせる女性だった。


その女性は、俺が起きていたことに少し目を見開いていたが、すぐに気を取り直すと声をかけてきた。


「起きたのか。体の様子はどうだい」


突然声を掛けられ少しうろたえた俺だったが、久しぶりに聞いた他人の声にどこか安堵しつつ、その問いに答えた。


「まだ動かすことは難しいですが、傷口はふさがっているようです」


俺の返事を聞いた彼女は、鋭い容貌からは想像できないほど人懐っこい笑みを浮かべて言葉を返した。


「そうかい、それなら良かった。あたしはアネモネ。森であんたが倒れているのを見つけてここまで運んで来たんだ」


それを聞いて、誰かと協力して俺をここまで運んできてくれたのだと当たりをつけ、俺は言葉を返した。


「助けていただいてありがとうございました。俺は日向聖吾と言います。今度俺を運ぶのを手伝っていただいた方にもお礼を言わせてください」


その言葉を聞いた彼女は、少し訝しげな顔をしながら、途端に心配そうな表情を浮かべて言葉を発した。


「もしかして頭もケガしてしまっていたのかい。あたしはあんたを1人でここに運んだんだけど」


それを聞いた俺は、驚きながら問い返した。


「おひとりで、ですか」


「そうだよ。あたしは他の魔法はからっきしだけど、身体強化魔法には少し自信があるんだ」


少し誇らしげな様子でそう言葉を返す彼女を横目に、俺はこの世界にはやはり魔法が存在することを確信した。また、今になって自分が異世界の言語を理解できていることに気付いた。

気になることは山ほどあったが、今は返事をすることを優先した。


「すいません。今目覚めたばかりで、少し頭が混乱していたようです。ところで、俺はどれぐらい寝込んでいましたか?」


「昨日ここに運んできたから、少なくとも一日以上は寝たきりだったよ。まあ、起きたのならよかった。お腹を空かしているだろうし、ご飯を持ってくるよ。その間に、この水で体を清めておきな。顔とか腕は拭いたけど他はまだだったしね」


「何から何までありがとうございます」


返事を聞いた彼女は、手に持っていた水桶と手ぬぐいを俺の近くにおろすと、入ってきたドアに向かって踵を返した。


その様子を眺めていた俺だったが、彼女がドアから出ていったのを確認した後、自らの体を清めるべく、服を脱ぎだした。


川などでできるだけ体は清潔に保っているつもりだったが、やはり汚れていたようで、少し冷ための水の感触を心地よく思いながら、俺は体をぬぐう作業に没頭し始めた。










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