砦への襲撃
あれから1日ほど作戦を考えていた俺は、大まかな方針を立て終えて、作戦を実行するための準備作業に追われていた。
まず手始めに、マップの機能で新たに発見したポイントマーカーをつけられる機能を使い、警戒しながら砦に向かい、砦の中や周辺にあるかがり火の位置をマップに表示させていく。
かがり火の位置は警備の関係上だいたいの位置が固定されていたため、それを目安に襲撃を計画立てようと考えたからだ。
そして、新たにトレードでスモークグレネードを5個追加した。これはひとつ20ポイントで、スタングレネードや通常のグレネードと同等の値段だ。
残りの50ポイントは保険として残しておくことにした。
そして、今回の作戦の要となるだろう暗視装置やガスマスクに不備がないか確認し始める。
この暗視装置は単眼式で、可視光増幅方式とパッシブ遠赤外線方式を併用した優れもので、今回は熱源を感知することができる遠赤外線方式をメインに使っていくことにした。
拠点の近くで、あらかじめグレネード等の正確な投擲のために練習を重ね、大体自分の思ったところに投げ入れることができるようになったところで、だんだんと日が暮れ始めた。
それを確認した俺は、ゴブリンの砦に向かい移動を始めた。
砦についたのは、日が暮れてから2時間ほどしたころで、ゴブリンたちはまだそれなりに起きている数が多いようで、砦の近くからはゴブリンたちの声がよく聞こえた。
俺は、かがり火の位置に漏れや変更がないか確認したのち、襲撃ポイントを見定めるべく、砦の周囲を探索し始めた。
探索を終えた俺は、最初の襲撃ポイントを砦の門があっただろう位置に定めて、もう一度今夜の作戦について思い返し始めた。
今回の作戦の手順は非常にシンプルで、まず初めにゴブリンが密集している複数の場所にグレネードを投げて混乱させたのち、砦内の各所にスモークグレネードを投擲し、うまく連携ができなくなるようにする。その混乱の最中に壁内に忍び込み、手持ちの武器でできるだけ数を減らすという作戦だ。
正直作戦と呼べるかどうかも怪しいものだが、これが現状自分が打てる最善の手だと信じて、襲撃のタイミングをじっと身を潜ませて待った。
月が辺りを照らす深夜に俺は作戦を実行し始めた。
かがり火の近くで眠気と戦っているゴブリンたちめがけてグレネードを投擲した。かがり火は門の近くに複数設置されていたが、その中でも最もゴブリンの密集していたものの近くにグレネードは投げ入れられた。
グレネードが巻き起こす爆風や飛び散った破片により、かがり火近くの10体前後のゴブリンが倒れ伏しているのを視界に収めながら、俺は続けて砦の門周辺にスモークグレネードを投げ入れた。
ゴブリン達は突然起きた破裂音に驚いているようで、うろたえており、その隙に俺が投げ入れたスモークグレネードが着弾し、門の周囲一帯が煙に包まれた。
それを確認して、ガスマスクを装着し暗視スコープを赤外線探知モードにした俺は、砦に向かって全速力で走り始めた。
運よくゴブリンたちに察知される前に煙の中に飛び込んだ俺は、砦内のかがり火やゴブリンの様子をスコープ越しに確認して、すぐにグレネードを複数投擲した。
それにより、またかなりの数が負傷したゴブリンたちは、ギャアギャアと喚きながら敵の姿を確認しようと躍起になっているようだった。
俺はそうはさせまいと、新たにスモークグレネードを2個投擲し、砦の3分の1近くが煙に包まれた。
屋外での運用なので、効果時間はそこまで長くないと判断して、俺は手早く手持ちの手榴弾をありったけ砦内の各所に投げ入れた。そのうちのいくつかは、建物の開口部に向けて投擲したことにより入り口のひとつを潰すことができた。
それをしたのち、近くにいる敵をリボルバーで屠りつつ、煙内を縦横無尽に駆け回った。
その最中に城壁に沿うように階段が設置されて、壁の上にのぼれるようになっているのを見つけた俺は、すぐに壁の上に移動した。
階段近くにいた壁上のゴブリンを壁からけり落して周囲の安全を確保して、トレード画面からスモークグレネードを手持ちに追加し、残り3つとなったそれを自分の周囲を囲むように投げた。
そして、インベントリ内からスナイパーライフルとその弾を取り出した俺は、壁上の一点にとどまり、ゴブリンを狙撃し始めた。
ボルトアクション式のリロードの手間をもどかしく感じながらも、俺は着実にゴブリンたちを屠っていく。
そうしてそれなりの数を倒したことを感じ取った俺は、煙が晴れる前に撤退し始めた。
壁から降り、壁の崩れ落ちている部分から壁内を脱出し、煙のない壁外で姿を確認されないよう、近くにゴブリンの姿がないことを確認してから、砦に入った時と同様に全速力で森に向けて走った。
森に退避した俺は、拠点に戻る前に一度、砦の様子を見ようと背の高い木に登った。
スコープ越しに確認できたのは、グレネードによって引き起こされた火災や、もとからあったかがり火などによって赤く照らされた煙の中で、前後不覚な様子で動き回るゴブリンたちの姿だった。
それを見て作戦が成功したことを感じた俺は安堵しつつ、再度気を引き締めなおして、拠点に戻るべく闇夜の中を移動し始めた。
拠点に戻ってきた俺は、今回の戦果を確認すべくトレード画面を開いた。ポイント欄に710ポイントも溜まっているのを確認して、俺は今回の作戦が成功したことを確信した。
ゴブリン換算で140体ほどゴブリンを倒していることになるが、上位種が通常のゴブリンよりもポイントが高いと仮定すると、正確には100体前後のゴブリンを倒しているのだろうと考えた。
次に、今回の作戦で消費した物資の数を把握した。グレネード10個、スモークグレネード7個、スナイパーライフルの弾50発ほど、リボルバーの弾は30発ほど消費していた。
スナイパーライフルの弾が一発2ポイント、リボルバーの弾が一発1ポイントであることから、今回の作戦で消費したものをポイントで換算すると、約450ポイントぐらいで、250ポイントほどの黒字ではあったが、思ったよりも戦果が渋かったことを感じた。
だが、当初の予定通り、サプレッサーを購入して今後の探索活動を展開していこうと、俺はそのままトレード画面でサプレッサーを交換した。
そして戦果を確認し終えた俺は、疲れを癒すために寝床に入った。