困難に直面する
ゴブリン狩りを初めて5日ほどが経ち、計40体ほどのゴブリンとの戦闘をこなし、ソウルポイントが200台に差し掛かった俺は、少し困難に直面していた。
というのも、ゴブリンの生息域は、拠点のある場所から川の下流に2時間ほど進んだところからあるようなのだが、そのあたりに住んでいたはぐれのゴブリンたちをあらかた狩ってしまったようで、なかなか見つけることができないのだ。
ならばと、さらに川の下流に移動していったところ、遭遇するのは5体以上で一緒に行動しているゴブリンばかりで、さらには、その中に上位種が入っていることも少なくなかった。
また、遭遇頻度もかなり高く、どうもこの辺りのどこかにゴブリンの集落らしきものがあるようだった。
極めつけは、ゴブリンたちはこの辺りの土地を狼の魔物と縄張り争いをしているようで、何度もゴブリンと狼が戦闘している様子を見かけたのだ。
この辺りの土地に入ること自体がかなりリスクが高く、俺は一度、狼に匂いを嗅ぎつけられて5体ほどの群れに襲われたこともあった。
その時は、咄嗟に持っていたスタングレネードで狼を撒いて、匂いの後をつけられないよう川をさかのぼって拠点まで戻ったこともあった。
此処が比較的温暖な気候でなければ、体調を崩していたかもしれず、それ以来、川の下流を偵察することを控えていた。
川の下流が駄目ならと、今度は上流に向かって移動を続けたのだが、上流側は魔物の数自体は少なかったが、その魔物自体が問題だった。
そいつは、体長が5メートル近くもある巨大なクマの見た目をしており、唯一見た目がクマと異なるのは、その両手に備わっている異常な長さの爪だった。
俺がそいつを見つけたときは、木の上からあたりを偵察していた時だったのだが、これまた体長が3メートルほどある猪型の魔物と戦闘中で、クマの魔物は、その鋭い爪で猪をあろうことか一刀両断していた。
通常では考えられないほどの鋭さを発揮した爪には、異世界特有の魔法か何かかの力が働いているのかと考えたが、それ以上偵察するのに身の危険を感じて、すぐに拠点に戻ったのだった。
そんな訳で、上流にも行けず下流にもなかなか足を踏み入れられず、ジリ貧に陥っていた俺は、どのみち現状を打開するには下流側の攻略しかないと考え、ゴブリンや便宜上以後ウルフと呼称することにした狼の魔物の生態をより深く理解するため、再度下流に向けて偵察を行うことに決めた。
俺はそのための準備として、蔦と葉を絡ませてギリースーツのようなものを作り始めた。太めの蔦を網目状に組んで、十字になっているところを細い蔦などで結び作った簡易的な網に草や葉を少しずつ絡ませてゆく。
そうして出来上がったのは、いびつな形のギリースーツもどきだったが、ほとんど使い捨てなので気にしないことにした。
次に、遠出するために必要な飲料を用意すべく、探索の中で見つけた異常に堅いヤシの実のようなものに水を汲み、火であぶって簡易的な突沸処理を行う。そして、ヤシの実の開口部を、大きな葉と蔦でふさいだ。
そしてそれを、水をこぼさないように、水平を保ってバックパックに入れ、インベントリにしまった。
また、ポイントを消費するのは痛かったが、残り1つとなってしまった一個25ポイントもするレーションを新たに2個用意しておいた。
このレーションは、匂いも少なく、かつ半分ほど食べるだけで、半日は十全に活動できるほどの優れものだったため、潜入中も素早く効率的に食事することができると考えたのだ。
あらかたの準備を終えた俺は、まだ日が高い時間帯だったが、翌日以降の過酷になるだろう偵察のために、寝床に入った。
翌日、まだ薄暗い時間に目を覚ました俺は、昨日焼いた肉で軽く朝食を済ませ、さっそく川の下流に向かって移動し始めた。
移動を開始してから数時間経ち、俺はゴブリンの生息域に足を踏み入れた。まずはゴブリンの習性から調べようと、川沿いを移動しながらゴブリンの姿を探し始めた。
程なくして、5体のゴブリンが移動しているのを見つけた俺は、ゴブリンたちとの距離を30メートルほどに保ちながら、彼らを尾行することにした。
通常のゴブリン4体と上位種1体で構成された彼らの一団は、上位種を中心としてひし形の陣形を組みながら移動していた。
どうやら獲物を探しているようで、川沿い近くを移動しながら、きょろきょろと辺りを見渡していた。
それぞれの装備は、棍棒を持っているのが2体と、忙しなくあたりの石を拾って今にも破れそうなぼろぼろの革袋に詰めているのが2体、そして上位種は、比較的刃こぼれが少ない小剣を持っていた。
ひどく野性的な棍棒と違って、上位種の持っている小剣は、多少の刃こぼれはあれど、装飾が少しほどこしてあり人工的な印象を受けた。
それを見た俺は、ゴブリンの活動域に、もしかしたら人間が入り込むことがあるのかもしれないと考え、そこにサバイバル生活からの脱却の糸口を見出して、少し気分が軽くなった。
そんなことを考えながら尾行を続けていると、ゴブリンたちがどうやら獲物を見つけたようで、全員が一点を見て動きを止めた。
その視線の先にはウサギがおり、そのそばにはウサギの塒と思しき穴が地面に空いていた。
ウサギは食事中のようで、地面に生えている草を食べていた。時折その周囲を警戒するかのように、頭をあげ、後ろ足で立ちあたりの様子をうかがっていた。
ゴブリンたちは、足音を立てないよう一度その場から離れ、川沿いに移動すると、顔をつきあわせ何かを話しはじめた。
しばらくそうしていたゴブリンたちは、話が終わると、二手に分かれ移動を開始した。
片方は石を持っているゴブリン2体で構成されており、川沿いからゆっくりウサギに近づき始めた。
残りの3体のゴブリンは大きく迂回して森の中からウサギに近づくようだった。
俺は、その3体の後をつけて、彼らがどう狩りをするのか考えていた。
定位置についたらしい彼らの位置を気配を探りながら確認した俺は、どうやら挟み撃ちで仕留めようと考えていることを理解した。
川沿いのゴブリンから順に、ゴブリン、ウサギ、塒、再度ゴブリンという並びになっており、ゴブリン達は、仕掛けるタイミングを見計らっているようだった。
そして、ウサギが塒から10メートルほど離れた段階で、彼らは攻撃を始めた。
まず初めに、石を持ったゴブリンたちがウサギに向かってそれらを放り投げ、その音を察知したウサギは、本能的にか、塒のほうに向かって走り始めた。
すると今度は塒側に潜伏していたゴブリンたちが、ウサギが塒に逃げ込むのを防ぐべく、塒に向かって走り始めた。
ところが、予想以上にウサギの足が速く、ゴブリン達よりも先に塒に到達しようとしていた。それを見たゴブリンの上位種は、咄嗟に手に持っていた小剣を振りかぶって、ウサギに向かって投擲した。
投擲された小剣は、ほんのわずかな差でウサギが塒に到達するのよりも早く、その刀身をウサギの身に突き立てていた。
あとは一方的で、わずかに息があるウサギを棍棒を持ったゴブリンがとどめを刺して狩りは終了した。