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合流

あけましておめでとうございます。

足を踏み入れた石造りの建物内の空気はひんやりとして、少し肌寒いくらいだった。

ところどころに存在する建物の割れ目から太陽の光が細い筋となって内部をぼんやりと照らしていた。



俺が入り込んだ通路は、建物内中央に直通しているもので、通路の左右にいくつの扉があり個別の部屋に通じているようだった。

俺は足元に気を付けながらゆっくりと建物の中央部へと足を進めた。



通路に面する扉をひとつずつ開けていくと、大きさの違ういくつかの部屋があった。

何に使っていたのか分からない部屋もあったが、寝台の残骸がいくつか置いてある医務室らしきものもあった。



いくつかの部屋を検分した後に、俺は縦長い構造をしている部屋に入った。

そこには壁沿いに階段が設置され、2階に通じていた。俺はいったん1階の捜索は中断して2階を見てみることにした。



足元が崩れないように慎重に歩を進め、2階に到達すると、木でできた古ぼけた扉が階段の終わったすぐ後に存在していた。俺は扉をゆっくり開けると、そこは2階のバルコニーのような場所で、周囲に目を向けると砦の全体の様子をよく見ることが出来た。



バルコニーに囲まれるように存在する2階の建物部分に目を向けると、そこには扉がなくなり、野ざらしになった建物内が外からでも確認できた。



2階の建物の部分は外から見る限り、そこまで大きくなく、1階部分の4分の1ほどの大きさしかなかった。

そこへ足を進めた俺は、開口部から中を覗いてみた。



中は風などに晒されていたせいか1階部分よりも損壊が激しく、またゴブリンたちがそれなりに利用していたのか据えたような臭いが漂っていた。目を奥に向けると、そこには扉が1つ存在していた。



いったん奥の部屋を見る前に一度バルコニー側から構造を確認しようとぐるりと回ってみた結果、2階の建物部分はどうも十字のようになっているらしく、4つの出っ張りの部分にひとつずつ開口部が存在した。

一つ一つ確認していったところ、最初に入ったところと同じく奥に扉があり、そこから十字の中央の部分に入れるようだった。



俺は2階部分に捜索の漏れがないか確認したのち、ゆっくりと奥の扉へと進むことにした。

仮にアネモネさんがこの砦にいるとしたら、砦内で一番勝手がよいこの部屋である可能性が高かった。

ただ、アネモネさんではない何かがいた場合に備えて、俺は一度装備を確認した。



その後扉の前にたたずんだ俺は、ゆっくりと扉に耳を当て中から音がしないか確認してみた。

しばらくそうしていたが、中からは何も聞こえなかったので、俺は意を決して扉をゆっくりと開け始めた。



俺は銃を手に構えながら、キィーという音を立てながら慣性に従ってゆっくりと開く扉に合わせて中を素早く確認した。



するとそこには、俺と同じく顔に警戒の色を浮かべ、弓を番えて射線をこちらに向けていたアネモネさんがいた。

アネモネさんは、入ってきたのが俺だと分かると、顔に驚愕を滲めせてしばらく呆けていたが、少しすると気を取り直したのか安堵した表情で話しかけてきた。



「まさか探しに来てくれたのかい?」



俺は彼女が無事だったことに安心したのち、彼女に外傷がないか確認しながら言葉を返した。



「はい、夜になっても帰ってこられなかったので心配になって様子を見に行こうと森に入ったんです。正直広い森の中で合流できるとは思ってなかったですけど、ともかくご無事で何よりです。怪我とかはないですか?」



「ああ、怪我はしてないよ。ところで、ここに来るまでに何か見なかったかい?」



「ええと、ゴブリンたちがいつもより森の浅い所にいるのは見ましたが、砦の傍には不気味なほど何もいませんでしたよ」



彼女の質問の意図が読めず困惑気味に答えた俺に対して、彼女は険しい表情で続けた。



「実はあたしはそのゴブリンの集団に狩りの途中に出くわしてしまったんだ。数が多いもんだから、村側に逃げようとしたんだが、うまく回り込まれてしまってね。仕方なく森の深層に向けて逃走したんだ。ここに砦があるのは知っていたから、ゴブリンたちがいなければここに逃げ込んでもいいかなと思って移動していたんだけど……」



相槌を打ちながら神妙に話を聞いていた俺に彼女はさらに言葉をつづけた。



「砦の傍にクロウベアがいてね。運悪く見つかってしまってやむなく交戦したんだよ。正直かなり焦ったけど何とかうまく撃退できたんだ。そこまでは良かったんだけど、あたしのことを完全に標的に定めたみたいでずっと砦の周りをうろうろして威嚇していたんだ」



「クロウベア……。ああ、爪の長いあのクマの魔物ですか。あいつはこの辺りまで下りてこなかったはずなんですけど、何かあったんですかね?」



「そうなんだよね。それに何か昂奮しているみたいで、かなり気性が荒くなってる気がするよ。実際、最初の撃退の後も執拗に何度も攻撃を仕掛けてきたからね」



「よく撃退できましたね。結構体の表皮は堅そうだと思っていたんですけど、そうでもないんですかね?」



「いや、魔物だけあってかなり頑丈な体をしてるよ。あたしが撃退できたのは単に運がよかったからだね。実際、矢の消費を考えずにひたすらやつの目辺りを集中的に狙って攻撃しただけだから、ほとんど傷は与えられてないよ」



「そうだったんですね。ともかく、俺が来たときは砦周りにはいなかったので、逃げるなら今しかないかもしれません。立てこもるにしても、あのクマの図体を考えるとこの砦は正直心もとないですからね」



「そうだね。もう矢の残りもほとんどないから来てくれて助かったよ。じゃあ先頭は任せてもいいかい?」



「了解です。じゃあ先導するのでついてきてください」



そうして俺は、足早に彼女と部屋を出た。

バルコニーの部分で一度周囲を確認した俺たちは、少なくとも目視ではクロウベアを確認できなかったので、そのまま1階に下り建物から出た。



日に照らされた彼女の顔には、不眠で動き続けたいたせいか少しくまが出ていて疲れている顔だったが、今はとにかくここから離れる方がいいと考え、少し急ぎますね、と彼女に声をかけた。



彼女は俺の心配を察したのか、大丈夫だよ、と言い俺の後ろにぴったりとついてきた。



そして俺たちは、ようやく村側の門の部分にたどり着いた。俺はすぐに周囲を見渡し異常がないことを確認した後、砦の外に脱出した。



そうしてひとまず砦から何事もなく移動できたことに安心したとき、突如後ろから、森に響き渡るおぞましい咆哮が聞こえた。

それに続いて、木をなぎ倒す音や壁を破壊する音が、咆哮のこだまする森の中に新しく響いたのだった。




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