異世界転移
作者はこの作品が初投稿となるので、至らぬ点が多々あるとは思いますが、温かく見守っていただけるとありがたいです。
俺の名前は、日向聖吾。
大学を卒業して、企業に勤めるしがないサラリーマンだ。
最近は仕事が忙しく、自宅と仕事先の行き来を繰り返す退屈な日常を送っている。
そんな俺の些細な楽しみは、最近出たFPSゲームだ。
『War Online』
フルダイブ式のゲームが開発されて久しい昨今、今や現実と見分けがつかないほどリアルな仮想現実の世界で、人々はゲームを楽しむことができるようになった。
しかし、FPSはそのゲーム性から開発が反対され、なかなか日の目を見ることができなかったが、今回ようやくフルダイブ式のFPSゲームとして開発されたのがこのゲームだ。
ゲームの概要はありきたりで、プレイヤーは二つの陣容に分かれ、自らのアバターを操作して、敵をゲーム上に用意された様々な銃を使い、殺し合ってスコアを競い合う戦争ゲームだ。
シンプルなゲームながらも、フルダイブ特有の没入感を生かした緊張感のあるゲーム展開がこのゲームの魅力だ。
最近俺はこのゲームにはまっており、自らが作った傭兵風のアバターでゲームをプレイしている。
ホーム画面から対戦モードを選択し、スナイパーライフルを中心とした遠距離狙撃を得意とする武装を取り付け、セッションを開始する。すると視界が一度暗転し、フィールドとなる森林地帯が視界に現れる。
さっそく狙撃ポイントに移動を開始しようとしたが、そこで自分が置かれた周囲の景色が、見慣れた森林フィールドにない場所であることに気付く。
違和感を感じて俺は、マップを表示したが、出てきたマップには自分を表す青点以外に何も表示されていなかった。
バグか何かかと考え、セッションを強制終了しようと設定画面を表示しようとしたが、何も表示されない。
「いったい何が起こっているんだ」
明らかにおかしい状況に気付いた俺はひどく動揺し、挙動不審な様子で周囲を見渡し、呆然としていた。
周囲は鬱蒼とした木々に囲まれ、動物や虫の声が嫌でも耳に入ってきて、木々の合間に吹く風が自然の匂いをむせるほど運んでくる。
どれほどそうしていただろうか。ようやく少し落ち着いた俺は、自分の現在位置を把握しようと、高所を探し始める。
すると突然、近くにあった藪の中から異形の化け物が飛び出してきた。
そいつは、人の形をしており、背丈は1メートル20センチほどで、表皮は緑色で局部にぼろ衣をまとい、醜悪な顔で口からは牙がはみ出ていた。その容貌は、ファンタジーでよく出てくるゴブリンそのものだった。
突然の事態に唖然として、俺はそのゴブリンが振るってきた棍棒を直接腕で受けてしまった。
腕に走った鈍い痛みで正気を取り戻した俺は、条件反射的に腰に携帯していたリボルバーでゴブリンの胴体を撃った。
するとゴブリンは胴体から血を流し、顔を痛みにゆがませながらもその場から逃げようとしたが、俺の放った銃弾が急所にあたったのか逃げることはかなわず、その場に倒れ伏した。
ゴブリンの目から生気が失われていく様を呆然と見つめながら、俺は自分が置かれた状況を理解し始めていた。
というのも、『War Online』では、直接的な血の描写はなく、けがを負った部分は赤く光った傷として表現される。なので、今のように血が飛び散ったりはしないのだ。
また、痛覚も制限されており棍棒で殴られたときに受けた痛みは、明らかにゲームの時に受けるそれと違った。
そして何より、『War Online』ではモブとして動物は存在したが、ゴブリンのような生き物は存在しなかった。
ここでようやく俺は、自分がゲームの突発イベントなどではなく、明らかに現実の異世界と思しき場所に飛ばされたのだと理解するに至った。
「とにかくここがどんな場所か把握しないと」
俺は、当初の目的を達しようと、半ば現実逃避をしながら移動していると、水音がしているのを感じた。
そこで、自分がひどくのどが渇いていることに気付き、一度落ち着こうと水音のほうに向かって歩を進める。
そして見つけた川は、川幅が数メートルほどの小さなものだったが、水がとても澄んでいて、あまりにものどの渇きがひどかったため、突沸などもせずにそのまま手で水をすくい、のどを潤していく。
しばらく水を飲んで落ち着いてきた俺は、水面に映る自分の顔が、ゲームで使っていたアバターのものであることに気付いた。
「武装や身体はゲームの時に使用していたアバターのままか」
独り言をつぶやきながら、状況を整理する精神的余裕が少しずつ出てきた俺は、自分が今すべき行動を整理した。
「まずは高い木にでも登って周りに状況を確認しよう。そのあと、人里があるようならそこへ向かい、無いようであれば自身の安全を確保できる場所を見つけなければ」
自分に言い聞かせるように言葉を吐き出し、登りやすそうな木を探す。
そして、川のそばに生えていた広葉樹と思しき木を持っていたナイフを使いながら、上に登っていく。
その木の上から周りの様子を見て俺は今日何度目かわからない困惑のため息を漏らした。
「見渡す限り木ばっかりで、これじゃ人がいるかどうかも怪しいじゃないか」
そうつぶやいた俺の言葉はむなしくも川音にかき消されていった。