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パンツな短編集

僕は穿きましぇん! 貴女(パンツ)が好きだから!

作者: 友城にい

 突然で申しわけないけど、私の名前は、乙女おとめと言います。


 至って普通の女子高生で、なんの変哲のない日常を過ごすイマドキの女子である私なんだけど、なんの因果か、一番見たくなかった悪夢にうなされてしまった。

 私には、ある事件パンツをきっかけに話すようになってしまった男子がいる。名前は遼平りょうへいくんって言うんだけど、こいつがまたちょこまか私の周りを走っている男で、ことあるごとに突っかかってくる。


 正直、迷惑極まりない。


 そんな遼平くんに現実リアルで会うだけでも億劫なのに、まさか……まさか、こっちでも出てくるとは……。


 最後に一言添えよう。


 これは悪魔な夢である、と。



 内容は覚醒した時点で忘れていて欲しかったけど、神のいたずらなのか鮮明に覚えていた。

 場所は慣れ親しんだ自室のデスクで自習をしている最中だった。

 私は少しでもランクの高い大学に入りたくて、学校から出される課題と宿題を終わらせてから復習を済ませて予習を始めた。……ってより、家を出て都会で一人暮らしをするのが大人っぽくてちょっぴり憧れの部分も大きいけどね。

 正直、現状の成績と家の事情(金銭)では難しい、と進路の先生とお父さんに言われたのが猛勉強のきっかけだった。


 正攻法で受験できないなら、推薦をもらうか奨学金を、と思っていたけど夢の中でぐらい遊べよ、私! まじめか!

 ガリガリ視線を落として、シャーペンを走らせる私の元に訪問者の知らせが。要はノックである。


「なに、お父さん」


 ドアに目を向ける。家にお父さんしかいないのでそう返事するが、なぜか無言だった。気味が悪いので、もう一度呼ぶ。


「なにかご用ですか」


 気だるくなる態度に目でなく身体ごとイスを反転させて、待機する。そして、ようやくドアが開いたとなって入ってきたのは。


「約束どおりパンツもらいにきました」

「してねぇよ、帰れ土に」


 入ってきたのはおとなりに住む同級生の遼平くんだった。


 父よ。異性を簡単に娘の部屋に招くなや、くそったれが! トランクスに染めるぞ。


「そう言うな、言うな。勉強教えてもらいにきただけだ」

「いまここでくたばるやつに勉強は必要ないんじゃない?」


 戦闘態勢の私を前にハート型のカーペットにあぐらをかきだす。こいつの心臓ボーボーだろ、絶対。


「おいおい、歓迎してくれよ。大丈夫だって。だって俺、お前しか見てねぇからよ」

「私を見てる暇があるなら自分の顔を五十年ぐらい見ろ。セリフはそのあと吐け」

「相変わらず釣れない女だぜ、乙女は。お父さんは公認してくれてんのによ。ま、そこがいいのか」


 持参していたトートバッグから筆記用具と授業に使っているルーズリーフ、教科書を取りだした。


 ちょ、まて。


 簡単に上がらせた理由それか……。あとでじっくり言い聞かせないと。


「乙女はどこの大学受けんの?」

「遼平くんには関係ない話でしょ」

「ふーん。都会の大学受けるんだ、乙女らしいな」

「な!」


 私が一瞬、目を離した隙に棚に挟んでいたパンフを広げていた。


「俺も同じとこ受けようかな」

「ぜってー受けんな」

「怖いな。般若の顔になってたぞ」


 もういいや、まともに相手するからよくないんだ。無視しよ、無視。再びデスクに身体を向けて勉強を始めた。


「おーい、どしたー。おーい」


 急に塩対応を始めた私を不審に思ってか、何度も呼んでくる。


「ここ教えてくれないか? 乙女せんせー」


 なぜか、おだててきだした。そんな安易な手に乗るほど愚かじゃない。無視だ。無視無視。


 集中だ。勉強に夢中になれ。


 遼平くんに冷めた対応をするのには、私なりに理由があったりする。

 べつに遼平くんを意識してるわけでない。ほんとのほんっっっとうになんとも思ってないんだけど、はじめて男の子を部屋に入れた(勝手にだけど)違和感が胸の中をずっとざわつかれて、勉強どころでなくなっていた。

 今もこうして同じ時間と空間を共有し、勉学に励んでいることになる。


「……」


 あれ?

 静かだ。

 諦めたか。

 私のペンを走らせる音だけの時間が長く続いている。

 妙に静かすぎる。

 勉強してるなら、同じようにペンとページをめくる音ぐらいしてもいいはず。

 おかしい

 様子がおかしい。

 帰った?

 いや、ドアは閉まってる。開閉音はいくらなんでもわかる。

 声をかけるか?

 せっかく沈黙の時間に突入させておいて、それはなにか負けた気がする。


「……」


 やっぱ気になる。さっきとは違う意味で勉強に身が入らないし、ここはもう私が折れるほかない。

 私は思い切って振りかえった。


「遼平くんいったいなにを……して……」


 ……。

 遼平くんの姿を捉えた刹那、私は絶句した。


「……あ」


 私は見てしまった。


「ご、誤解しないでくれよ? これには列記とした理由があってだな」


 遼平くんの手には疑いようのない証拠パンツが握られていた。


「ふーん。それは一体全体どんな正当な理由があるのか。聞かせていただこうかしら」


 言い訳がましい遼平くんを前にした私の目は殺意に満ちていた。さっきまでの純情に似た感情を返してほしい。なんならこの部屋に上がらなかったことにしてほしい。

 物音を立てず、さも知っていたかのように下着パンツを収納している引き出しだけ開けて物色していた。ブラは分けて仕舞っている。


「ダチに明日中に本物の女子高生のパン……ツを……お、乙女さん、ちょっとその拳を解こうか。な? な? なぁ?」


 この後に及んで、私をなだめようとしてくる。


「遺言はそれだけか」


 怒りに身を委ねた私を止められる輩は存在しない。


「遺言ってなにいっ――ぼぶぶぶっっってててっいいいいいいいやあああぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」

「オンナノイカズチィィィィィッッッ!!!!!」


 受け身するように前屈体勢ブロックの遼平くんにまず肩パンを食らわせ、体勢を崩した隙に渾身のキックを脇腹に叩きこんだ。足の長さが自慢の私です。


 ――というわけで。


「今後一切このような行為を致しません。本当です。許してください。お願いします」


 私は何度も言うように遼平くんを本気で突き飛ばすには、骨がいると思っている。家もとなりで学校でも席がとなり同士。どう考えても接触の機会が多すぎる。なにより前回のこいつの前科(パンツ盗難)で無視していた期間で大変、私の性に合わなかった。声をかけられて無視するのは街の勧誘やナンパ以外、胸にくる。


 遼平くんを疎遠に持ちこむのは、このタイミングではない。こいつはただの変態。そう思っておけばいいし、しっかり上下関係を築いていけば問題は少なくなるはずだ。


「そもそもパンツなんて盗んでどうするのよ。穿くの?」

「嗅ぐ」

「は?」

「被る」

「は? は? は? は?」

「あてる」

「どこによ!」

「動かす」

「……」


 もうこいつがなに言ってるのか、私にはわからない。わかりたくない……。


「そして、食べる」

「どんなにパンツ好きなの? ただの布なのに……」

「違う! パンツ本体は重要じゃない。重要なのは、誰が穿いてたか、だと先人が言っていた。俺はそれを鵜呑みにした!」

「すんな!」


 キモッ! キモキモキモキモキッッッッッッッモッ!!!

 心の底からドン引きした。これほど引いたことがない。三十センチ以上引くことはこの先ないと思っていたのに。

 それはそうと熱弁していた遼平くんはついに自制が利かなくなったらしく、立ち上がって襲いかかってきた。


「く、くるな……!」


 とっさにドアのほうに逃げこむ。しかし、息を荒くした遼平くんの目には私しか捉えていなかった。


「そうだ……。洗濯した乙女パンツより、いま穿いてるのを」

「私の名前で遊ぶな! あとそれ以上危ない発言禁止!」


 もう一発、今度は頭に入れたほうがよさそうだ。

 こうなれば実行あるのみ。

 と。

 タイミングをうかがっているあいだ、ひたすら逃げまどっていた私だったが気づけば、ドアに追い込まれていた。どこで間違えた?


「遼平くんが私のパンツを欲しがる理由、やっぱり理解できない。男ってみんなそうなの?」

「好きな女の子の匂いがついたものを欲しがるのに、理由なんてあんの?」


 純粋な気持ちを歌ったJ‐POP風に言うな。ただのストーカー思考だろ。

 あと私のデリケート部分の匂いに無断で踏みこんでくんな!

 つか、さっきの動機丸っきりウソ! 私利私欲まみれじゃん!


「はぁ……匂いって。気持ちわる……」

「……」


 ボソッと逸らし気味に言うと遼平くんの吐息が止まる。


「わかった」


 どういうわけか、なおのこと部屋のドアに遼平くんが近づいてきた。

 なんの決意固めた!


「ま、まさか私に、か、壁ドン……するつもりじゃ……」

「してほしいの?」

「し、したらころす……」


 初めての壁ドンがこいつとかマジで勘弁してほしい。私はもっと紳士的な。


「くるなくるなくるな!」


 くるならキモい顔でこいよ! そんなガチに落としてやるみたいな顔でくんな!

 脈ねぇから! おまえの脈、ねぇから!


 さっきまでとは打って変わって、犯罪的な雰囲気を取っ払った遼平くん。


 まずい、非常にまずい

 思わず目を奪われそうになるが、どう変わろうが遼平くんは、あの遼平くんだ。気をしっかり持たないと。

 ひとまず逃げないとこのままだと呑まれる。いくら遼平くんといえど男の子だし、本気でこられたら抗えない。


 背中に手を回しドアのレバーを握り、落としてから気づいた。


「あ……」


 このドア内開きだった。

 私はレバーから手を離して、せめて虚勢を張りたくて睨みを利かせる、


「こ、これ以上近づいたら、どうなるかわかってんでしょうね……」


 指をデコに目がけて突きつけ、進行を妨げる。


「近づいたら、どうなんの?」


 いったん止まりつつも突きだした手首を掴んで、遼平くんの空いた手が私の耳の外で「ドンッ」と響いた。

 無駄のない動作で初壁ドンを捧げてしまった。


「俺に教えてよ、乙女」


 対して身長差のない私の真ん前に遼平くんの顔が映った。

 互いの呼吸する息が交差し、前髪にかかる。

 真剣なまなざしから視線を逸らせない。まるで壁にはりつけにされた気分だ。

 普段はふざけてばかりでパンツのことしか頭になさそうなくせに、その表情はずるいよ。


「ほ、本気で殴る……」


 震えた声で粋って見せる。


「それだけ?」


 遼平くんが喋るたび、胸がドキッと跳ねる。な、なにこの気持ち……。

 本当に一発殴れば済む状況かもなのに、身体がうまく反応しない。まるでこのシチュエーションを望んでいたかのように硬直している。


「それだけって……」

「あとで殴られるだけで済むなら俺はこの先を選択する。嫌ならとっくに拒絶してるはずだろ、乙女?」

「あんた正気なの……。何回も殴るよ。何回も何回も。何回も殴るから! あんたのブッサイクな顔がさらにブサイクになるまで殴るから!」


 声を荒らげながらも唾をかけながら、忠告じみたことを口走る。

 拍車が狂っている。こうなっては、なにもしなくても殴ってやる。らしくないこと言ってくる遼平くんをこれでもか、と殴ってやると向こうが私を口説くのを決めたように、私も遼平くんの顔がぶっ壊れるまで殴ると決めた。


「いいよ」

「……」


 即答だった。悩む素振りも見せず、即答で私と面向かって言った。


 無抵抗をいいことに壁に添えていた手で私のあごをクイッと持ち上げた。な、なにこれ。え、え、え?

 必然的にもっと距離が縮まる遼平くんの一心なまなざし


「乙女の心が手に入るなら、顔なんていらない」

「ちょ、ま、まって! 心の準備が!」


 決めゼリフっぽいことを漏らすと近づけてくるくちびる。

 心の準備ってなによ、私! そういうのは、せめて恋人になってからであって、こ、これじゃあ、私が淫乱みたいじゃん!


 止まらない青春。


 くぅ……。

 私の、ばかっ……!


 私はドギマギする心音に耐えかね、瞳を閉じた。


 く、くる……!



     ∀



「…………」


 そして、戻ってくる清々しい朝。


「はぁ、なんていうのかな」


 鮮明に刻まれた夢を思い返してみてのまとめは。


『乙女の心が手に入るなら、顔なんていらない』


「うぶううぅぅぅ、おえぇ……」


 うん。やっぱダメだ。



 おしまい。


書いている途中「なんだこれー」となりましたが、ここまでお読みいただき感謝致します。


今後とも色んな作品を送り出せたらな、と思っております。

ぜひ率直な感想やブクマ、評価をしてもらえますと大変、跳ねて喜びます。よろしくお願いします!


友城にい

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