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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第20話 森の家

毎日投稿じゅうごにちめっ!

第20話をお送りします。

迷いの森にはお化け屋敷があるのが伝統なのです(マ○オ感

「え、え、え……炎竜っすぅ――――――っ!!!」


 薄暗い森の中で、ヴェルが叫び声が響き渡った。それと同時に、背後の景色が真っ赤に染まってゆく。間違いなく、炎竜のブレスであろうことはその場の誰もが理解していた。


「こりゃマズイねっ。みんな、イヤリングの光が指す方向へ走れっ!」


 アタイの号令の元、皆が一斉に走り出す。

 先ほどまでの桃色の霧による意識の酩酊状態は消え去っていた。あれが森の魔女の力なのかどうかは分からないが、少なくとも魔女の意思が含まれているのは間違いないだろう。熊人族の村で村長から聞いた話で、若い女性のみが神隠しに合うというのはコレのことか。まったく、自分の国だっていうのになんてザマだいっ!


 だが、現状の対処すべき点は消え去ってしまった霧でも彼でもない。

 アタイ達は自分の国の現状を把握できていなかった現実に舌打ちを漏らしながらも、逃げの一手を打っていた。エダちゃんの戦歴は知らないが、炎竜との戦闘経験がある可能性は低いだろう。それぐらい、この世界での竜という存在は希少なんだ。

 アタイ達の背にブレスによって暖められた高温の風が吹きつける。直接ブレスを喰らっているわけじゃないが、熱いものは熱いのだ。森の中も、これまでの寒さはどこに行ったんだと思うくらい気温が上昇している。


「まったく、熱いったらないねぇ!」


 だがアタイはどんな窮地でも軽口を忘れない。それは例えどんな窮地でも感情を冷静に保つための、アタイなりの知恵だった。



「――っ! 光っす! 森を抜けるっすよ!!」


 集団の先頭を突き進むパンちゃんに騎乗したヴェルが、希望の光を見つけたと叫んでいる。

 熊人族の村長の話では、この先の広場に男達の休憩小屋があるはずだ。


 ヴェルの言葉に反応して、反射的に後方を確認する。

 森中が真っ赤に燃え盛っているのが視界に映るが、そこに炎竜の姿は認められない。つまり獣道に沿って追って来てはいるが、炎竜はアタイ達の姿を視認していない可能性が高いということだ。


 ならば、危険な賭けではあるが成算が無いわけではない。


 ヴェルの叫び声を聞いた瞬間、アタイは賭けにでる決断を固めた。


「今は、まだ見ぬ脅威より後ろの脅威だ。はしれ、走れっ!」


 アタイの指示の元、みんなは日の光の中へ飛び込んだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 薄暗い森の中とは打って変わって、森の中のオアシスはさんさんと日の光が降り注いでいる。暗闇からいきなり明るい場所へ飛び込んだせいで、眼を慣らすのに数秒を要した。

 だが、その数秒の価値は十分にある光景がアタイ達の前に広がっている。

 その広場は、まるで森の植物からの侵略を受け付けないかのように守られていた。この広場だけが、草原の芝のような高さで切り揃えられている。普通は森の中に存在する広場といっても、シダ植物やツタ植物の侵略を受けているものだ。それがこの広場は、明らかに人の手が加えられていた。


「……気に喰わないね。いかにも休憩して行ってくださいよって、言わんばかりじゃないかい」


 おもわず、悪態をついてしまう。

 ついさきほど魔の森の洗礼を受けたばかりのアタイは、この広場が現実の物なのか疑っていた。

 こんな滅多に人の出入りがない場所を、ご丁寧に管理している者が居るとは到底思えない。熊人族の男達だって、冬場に食料が枯渇した際の最後の手段としてやってくるのだ。


 ならばこの場所を管理しているのは一体だれなのか、もしくはアタイらは幻を見せられているのか?


 そんな嫌疑の念を抱かせる広場の中央に、簡素な小屋が建てられていた。なんともお粗末な木造の平屋建てだ。


「なるほど、確かに一夜の宿とするならこれで十分ですね」

「ああ。だけど、周囲がここまで小奇麗にされているのは逆に気に喰わないね」


 アタイの言葉に、隣のエダちゃんがコクリと頷いた。


 それと同時に彼女の姿が一変する。

 彼女の身体中から白銀の燐光が舞い上がる。一度、空へ浮かび上がった燐光が地の力によって落ちてくると彼女の全身に纏わりついた。それは綿のような、もしくは雲のような。そんな燐光が彼女の身体を覆い隠す。

 そんな時間が数秒もあっただろうか。

 燐光がおさまった視界の先には、所々に魔光石が散りばめられた純白の巫女服につつまれた彼女の姿があった。両肩から二枚の布が伸びて胸元で交差し、下半身へと伸びてゆく。微細な細工が施された銀のコルセットが布と一緒に腰を締め上げ、元々細い彼女の腰を更に際立たせている。

 なるほど。スズリのおっさん、鎧型ではなく衣服型の造型(ぞうけい)にしたのか。確かに、この少女はミズガルズの巫女さんだ。これ以上、彼女に似合う服もないだろう。


 自らの戦装束に着替えたエダちゃんは、若干顔を赤くしながらも目の前の小屋を見つめ続けている。その愛らしい姿をいじらずにはいられない。


「巫女天使さまの、お見立てはどうだい?」

「……からかわないでください。私だって、ちょっと恥ずかしいんですからっ。設計図を見せてもらえばよかったです!」

「そりゃあ、無茶だ。ドワーフの鍛冶師どもの設計図なんて、ココにしかないんだからね?」


 顔を赤くして憤慨する彼女の言葉に対して、アタイは自分の頭を指差した。つまり、設計図なんて鍛冶師の頭の中にしかないのだ。

 まあ、いつまでもこんな会話をしている暇は無い。それはエダちゃんだって百も承知だ。


「……少なくとも、この小屋は幻ではありません。何かの罠が設置されている危険性はありますが」


 そう、彼女は断言した。

 まだまだ知り合って間もない間柄だが、それでも彼女の言は信頼できる。


「じゃあ、……っ」

「「кзШжЯмкзШжЯм――――!!!」


 入ろうか。そう言おうとしたアタイの声は、森の奥から轟く咆哮にかき消された。

 ヤバイねっ。さすがにのんびりし過ぎたか。

 音量からすると、もうかなり追いついてきているようだ。もう迷う時間なんてありはしない。


「小屋の中に隠れるよ。……急げっ」


 なるべく小さい声でアタイは号令を発した。

 もしかすると、行きがけの駄賃とばかりに炎竜はこの小屋を焼き払うかもしれない。だが、少なくともアタイ達の姿は隠すことができる。

 それに、賭けた。


 炎竜は耳も良いと聞いたことがある。

 古びた小屋の扉は、開けると酷い悲鳴を出すこともあるので慎重に。そして、なるべく素早く。

 小屋の中は、男共が使うに相応しい乱雑さだ。

 使い古された煤だらけの暖炉が鎮座する休憩場所と、地面の土がむき出しになった道具置き場。それが半々の面積で構成されている部屋だった。


「マズいっすよ! 隠れる所が何処にもないし、小屋ごと燃やされたらアタシ達バーベキューになっちゃうっす!」


 我が妹、ヴェルが慌てて他に何かないか探し回っている。

 こりゃあ、またまた失敗したかねえ? やれやれ、人生の最後に炎竜のお腹に入ることになるたぁね。

 そんな人生の終わりを覚悟したアタイ達を、巫女天使エダちゃんが払拭してくれた。


「いえ、この部屋。僅かですが地面の下から空気が吹き出しています。おそらく、地下倉庫……? そこに逃げ込めば……」

「どこっすか……?」


 さすがの妹も、状況をわきまえて囁き声で問いかける。


「そこ、暖炉の脇から。……地下へっ」


 おお、さすが巫女天使エダちゃん! でもちょい待っとくれ。それって、地下室っていうよりかは……灰捨て穴じゃないのかい!?

 そんな所に入り込んだら、さぞ灰色な人型魔物が出来上がるだろう。


 だが、選り好みできる状況じゃあない。

 アタイらは、覚悟を決めると灰捨て穴の扉を開き……迷いなく飛び込んだ。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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