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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第19話 愛の巣

毎日投稿じゅうよっかめ!

第19話をお届けします。

今回から新キャラ登場です。さあ、その正体は誰でしょう?


9/27 エダさんの凹み~立ち直りの描写を改稿しました。

 なんだろう。とても、とても眠い。

 何か今、とても大事なことをやろうとしていたはずなのに。


(だいじょうぶ)


 やらなきゃ、いけないはずなのに……。


(だいじょうぶ。今のあなたはゆっくり休んでいいの)


 大切な人を救うために……。


(それは、他の誰かが救ってくれるわ)


 大切な人と笑い合える未来を迎えるために……。


(その大切な人はわたし)


 わたし? わたしって誰だ?


(わたしはあなたのたいせつなひと)


 たいせつなひと?


(そう。あなたのたいせつなひとは、……わたし)


 そっか、おれのたいせつなひとは。……おまえなんだ――――。



 目を覚ますと、俺の視界の全てが。女神様の顔で埋め尽くされていた。


「おはよう。気分はいかがかしら? 私の大切な人」


 にっこりと俺に向かって笑いかける女神様は、この世界に来てから出会った女性の中でも一番の美しさを誇っている。俺だってこの世界に来てからというもの、綺麗どころと呼ばれる美女、美少女は見てきた。

 だが目の前に居る俺の大切な人は、そんな次元の話ではなかった。というか、この大切な人は本当にこの世の人物なのだろうか。


「貴方は……あれっ? 名前が思い出せない」

「あらあら、自分の大切な人の名前も忘れちゃったの? しようのない人ね。私の名前は[ヘイズ]。もう、わすれちゃダメよ?」


 ああ、そっか。思い出した、ヘイズだ。

 バカだな俺は、なんでこんな大切な人の名前を忘れちゃったのだろうか。


 次第に視界がハッキリとしてきて、周囲の状況も把握できるようになってきた。

 暖かい木の家だ。広さはそこまででも無いにしろ、燃え盛る暖炉が、可愛らしい木製の家具が、もわもわした真っ赤な絨毯が。この空間を、色々な意味で温めてくれている。

 いや、この部屋の暖かさは家具のお陰だけじゃない。


 この人だ。


 ヘイズの心が、この部屋の暖かい空気を作ってくれている。自分で言っておいてなんだが、キザったらしい感想だなと苦笑してしまった。


「なぁに? 私の顔を見て笑ったりして。何か面白いモノでも付いていたの?」


 心配そうに自分の頬を触るこの人が、実に愛おしい。


「いや、ヘイズは美人さんだなって。改めて思っただけだよ」


 今度は俺から腕を伸ばして、彼女の頬を撫でた。それはそれは嬉しそうに、そして恥ずかしそうに微笑んでくれる。


「……もう、本当に今更なにを言っているのよ。さあ、目が覚めたなら顔を洗っていらっしゃい。暖かいシチューが待っているわよ?」


 少しだけ顔を赤くしながらヘイズは台所へと消えてしまった。さてさて、あそこまで言われたら起きざるをえない。彼女のシチューは毎日食べているはずだ。さっさと顔を洗ってくるかな。


 ん? 食べている、はずだ。って、なんだ?


 彼女のシチューを食べるのは日課のようなものじゃないか。やれやれ、どうやらまだ寝ぼけているみたいだな。

 さっさと顔を洗って頭をハッキリさせてこよう。俺は顔をピシャリと叩くと、洗面所へと向かうべく歩を進めていった。




「ふうぅー、サッパリしたぁー」


 洗面所の水で顔をスッキリさせてきた俺は、美味しそうな臭いに引き寄せられるように食卓の場についた。

 

「はい、どうぞぉー」

「おっ、今日のシチューも美味しそうだねえ」


 すでに朝食の準備は万端に整っている。

 俺が目の前のテーブルに置かれた暖かいシチューに対して率直な意見を述べると、ヘイズは嬉しそうに微笑んだ。二人の愛の巣だと言えば惚気すぎだろうか。だが彼女の笑顔を見るたび、幸せな気分になるのだから仕方がない。


 木のスプーンを手に取り、白いスープをすくい上げ、口に運ぶ。

 美味しい。毎日味わっている味のはずなのに、味わうたびに新鮮な感動があるのはなぜだろうか。


「うん。今日もとっても美味しい!」

「そう? よかった~」


 胸の前で両の手のひらを合わせて喜ぶヘイズ。この幸せが何時までも続けば良いと、本当に思っている俺がいた。


 この幸せが、いつまでも……。


 あれ? この幸せって、何時から始まったんだっけ?



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 桃色の霧が、一人の人間を溶かすように消してしまった。それと同時に、これまで森全体を包み込むように広がっていた霧が嘘のように晴れている。


 しばらくの静寂の後、この異常事態にいち早く反応したのはエダちゃんだった。


「……コウキ? どこですか、コウキ!」


 無表情だった彼女の顔は次の瞬間、アタイ達が驚くくらいに狼狽した顔へと変化した。こんな彼女の顔は、知り合ってから今日まで見たこともない。

 最初は驚愕、そして不安。更にはこの世の終わりが到来したかのように顔を恐怖の一色に染め、全身が小刻みに震えだしている。


「あああ……、コウキ。私を置いていかないで……こうき、コウキ」

「ちょっと、……落ち着きなさい。エダ!」


 アタイの声なんて、この少女の耳に。絶望に染まった彼女の意識に。まったく届いていないのは見るからに理解できる。


「もう、イヤ。これ以上、失うのはイヤ……」


 紫色に変色した彼女の唇からは、絶望の言葉しか出てこない。

 もはや身体に入れる力さえも失ってしまったようで、ガクリと崩れ落ちるように地面に膝をついた。そんな彼女を、慌てて支える。普段の彼女ならどんな事態でも冷静に対処してもおかしくないのだが、相棒のことになるとこれ程までにおかしくなってしまうのか。

 瞳からも理性の光が失われている、明らかに心身喪失の状態だ。


 確かに相棒が突然消えてしまったのは異常な事態なのだが、彼女のコレは尋常(じんじょう)じゃない。


(これは……、前に何かあったんだろうね……)


 知り合ってからまだ日の浅いアタイには、彼女の過去に何があったかなんて知るはずもない。それにこんな危険地帯で悠長に彼女の回復を待つ時間さえも、ない。

 アタイは緊急手段に打って出ることを決意した。

 しょうがない、ここは多少手荒な手段を用いても立ち直らせるしかないのだ。


「――っ! エダぁ!!」


 膝が震えて立てない彼女(エダ)(えり)を掴み、無理矢理立ち上がらせる。


「……えっ? ――っ!!」


 パチーンッ!


 静寂に包まれた魔の森の中に、平手打ちの甲高い音が鳴り響いた。

 

「ちょ、スクルドねえ。そこまでしなくても……」

「黙りな。……もうこれ以上の戦力低下は許容できないんだよ。このままじゃ、アタイらは全滅だ」


 突然のアタイの行動にヴェルとパンちゃんが一歩、後ろに足と下げた。一瞬の油断がこのような窮地を呼び込んでしまう。これ以上の戦力の低下は即、死を意味するのだから。

 これでまだ呆けているようなら、もう一発いかなければならないか。だが幸いというか、何と言うか。彼女とてこれまで幾多の修羅場を潜ってきたのだろう、それまで死んだの魚の眼のようになっていた彼女に、ゆっくりとではあるが光が戻っていった。


「落ち着いたかい?」


 わざと強い口調で問い詰める。


「……はい」

「アタイらが冷静にならなきゃ消えちまったコウキ君も、ウルズもトキハって子も、誰一人として助けられない。理解できるね?」

「……はいっ!」

「ならこんな所で膝を着いているんじゃないよっ! 自分が大切な人ぐらい、自分の力で助け出してみせなっ!!」

「――――っ!! ……はいっ!!!」


 アタイの怒号に、彼女は涙を流しながら必死に答える。

 彼女は真面目だ。アタイのような適当な生き方など、到底出来るわけがない。そんな人格をすでに作り上げてしまっている。だが、それゆえに心の逃げ道を作ることが出来なかったのだ。

 硬い材木が、自身の堅さゆえにアッサリと折れてしまうかのように。今のこの子に必要なのは、心の柔軟性だ。この森に来るまで乗っていた馬車に使われている、衝撃を吸収してくれる木材のように。


 それまで子猫のように震えていたエダちゃんの足に、ゆっくりとではあるが力が戻ってくる、アタイがフルスイングしてしまったおかげで(ほお)が赤くなっているが、それ以外はすっかりいつもの彼女だ。少なくとも表面上は。


「お恥ずかしいところをお見せしました。もう、……大丈夫です」

「……意地を張るんじゃないよ。エダちゃんは、もっと他人(ひと)に甘えることを覚えなきゃねえ。ま、アタイみたいな遊び人になれとは言わないけどね?」

「……ふふ。そうですね、スクルドさんを見習わなきゃ、です」


 アタイがおどけてみせた台詞に、ようやく彼女の口から笑みがこぼれた。


 とりあえずは、これで大丈夫かね?

 

「でもでも、突然消えてしまったコウキねえをどうやって探し出すんすか?」


 アタイ達のやり取りを見ていたヴェルが、安心したといった表情を再び(かげ)らせて、不安そうに呟いた。そう。エダちゃんが立ち直ったからといって、状況は依然変わることはない。アタイ達が助けるべき人間、それが一人増えただけだってことだ。


 その事実は、この場にいる誰もが痛感していた。


 だが、まがりなりにも一度この森に来たことのあるアタイだ。これぐらいの危機はすでに想定済みである。


「それはこの、スクルド姉さんにお任せだねっ。みんな、イヤリングの青い方の魔石に触れてみ?」

「イヤリングって、これは浄化の魔法をこめたものでは……。――あっ」

「なんか青い線が出てきたっす!」


 そう。このイヤリングはただ、毒気を防ぐためだけの魔道具ではない。この魔の森が威容な雰囲気を持っていることは、以前来た時にもう解っていた。ならば、基本的な対策はしておこうと思って当然の話だ。

 まぁ、まさかいきなり人一人を消し去れるとは思っていなかったが。それでもこの森での集団行動が崩壊するのは危惧(きぐ)するべき点の一つだった。それに浄化の魔法に比べるなら、こちらの追跡魔法はそれほど魔力の消耗も激しくはない。スクルドお姉さんの対策は完璧なのだっ! もうすでに一人(さら)われているじゃないか……、なんて妙なツッコミは要らないからね!?


 それは兎も角。

 さてさて、これでコウキ君を探す手筈は整った。

 彼を誘拐したのは、話にあった[森の魔女]なのだろうか? 十中八九そうなのだろうけど、あらゆる事態を想定するのがどうやらこのPTでのアタイの役目らしい。


 せいぜい恰好良く助けてあげて、好感度というポイントを頂いてやろうじゃないか。


「さて、これ以上の戦力低下は許容できない。さっさとコウキ君を助け出して、ミーミルの泉に向かうよ!」

「はいっ!」

「おー、っす!」

「クゥーン!」

「кзШжЯм――――!!!」


 よしよし皆、気合を入れ直したみたいだね。

 ん? 最後の意味不明な雄たけびの主はだれだい?


 その疑問は、どの場の誰もが感じたようだ。恐る恐る、声のした方向へ振り替える。ちょっとまて、この状況でアンタが来るのは反則だろっ!


「え、え、え……炎竜っすぅ――――――っ!!!」


 ヴェルが叫び声をあげると同時に、森の奥から炎竜の吐く炎の光が見えてきた。


「こりゃマズイねっ。みんな、イヤリングの光が指す方向へ走れっ!」


 その場にいる誰もがアタイの声に反応して、泥のついた重い靴を跳ね上げた。まったく森に入って早々にこれじゃあ、先が思いやられるねぇ。


 どんな状況でもイマイチ真剣になりきれないアタイだけど、これだけ連続でトラブルが舞い込むのは勘弁してほしかった。

最後までお読みいただき有難うございました。

先の戦いで養父を失ったエダさんは、そのトラウマを克服できていません。

コウキ君やパンちゃんに依存してしまっていると言ってもいいですね。

それでも先へ、進まなくてはならないのです!

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