第17話 魔の森の魔女
毎日投稿じゅうににちめっ!
第17話です。
今更なんですが第一部にくらべて、第二部の文章量が圧倒的に増えています。テンポが悪くなったと言い換えてもいいです。
キャラが増えたせいかなあ……。
「頼むよ、スレイ。無事にこの手紙を親父殿に届けておくれっ!」
翌朝。
極夜の日。ミーミルの泉にて世界樹の苗木が開花するまで、残り四日にまで迫っている。
炎竜のおかげで廃墟となった熊人族の村。その離れの草原で横になっていた俺は、一人の女性の声で目を覚ました。
「……スクルドさん?」
「おはようさん、起こしちゃったかね?」
「いえ、もうすぐ朝日が昇りますし。何時もどおりの起床時間ですよ」
そう答えながら身体を起こす。
当然だが、目覚まし時計などという便利なものはこの世界にはない。自然と夕日が沈めば眠りにつき、朝日が昇れば目を覚ますという規則正しい生活習慣が身についていた。元の世界では夜更かしの誘惑が俺の生活リズムを崩していたが、幸か不幸か娯楽の少ないこの世界では崩しようもない。
目が覚めてから気付いたのだが、俺の身体は芯まで冷え切っている。
むう。厚手の旅服とはいえ、夜露の冷気まで守ってくれるわけではないようだ。ビショビショとまではいかないが、下着まで湿った冷気を蓄えてしまっている。竜の変温動物的な身体なら、しばらくは動けなかっただろう。
馬車の中を覗いてみれば、エダ・パン・ヴェルの三人が今だ静かな寝息をたてている。比較的大きめな馬車ではあったが、屋根付きの二台で横になれる人数なんてたかがしれている。なので、俺はエダやセッパ姉妹に快適な環境をゆずっていた。
まあ、つまらん男の意地というヤツだ。
「今飛ばしたのは……カラスですか?」
「ん? そうだよ? カラスのスレイ君。レイキャヴィークに居る親父殿に、事件の顛末を知らせようと思ってね」
「鳩じゃないんですね……」
「ああ、昔は帰巣本能のある鳩を使っていた地域もあったらしいけど、カラスは賢いからね。仕事ができればエサがもらえるってのを理解しやすいのさ」
なるほど、伝書バトならぬ伝書ガラスってところか。
そういえば北欧神話に登場する神様の親玉、オーディンもカラスを連れていたっけ。その辺りの影響なのかどうなのかは分からないけど、カラスがこの世界で身近な存在なんだろうな。
俺は自分の心の中で、そう結論づけた。
「それに……。この村の復興を手伝ってあげたいのは山々だけど、アタイ等にだって残された時間は多くないんだ。本来の目的を忘れるわけにはいかない」
スクルドさんが先ほどまでとは打って変わって、厳しい表情で地平線の向こうを眺めている。
そう、俺達はウルズちゃんとトキハを助けるために、ミーミルの泉へと向かっている最中なのだ。その最重要目標をないがしろにはできない。
世界樹の苗木が花を咲かせるのは、極夜となる4日後のその日のみ。余分な時間など俺達にはない。
ふと廃墟となった村に視線が向いた。この残骸の下には炎竜によって焼かれた村人達がまだまだ多数、取り残されている。
――明日はわが身。
そう思うと身体に振るえが走った。
だが俺達は前に進まなければならない。進むしかないのだ。
俺は念仏のように自分の心に言い聞かせながら、この光景を目に焼き付けていた……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「スクルド様、皆さん。お急ぎのなか、我等をお救いくださり感謝の言葉もございません……」
「こちらこそ悪いね。手紙が届き次第、救援隊が発足されるはずだ。それまではヴィリンガホルトへ身を寄せておくれよ。なんにせよ、この場に長時間留まるのはお勧めしない。アタイらの向かう方向とは真逆だから、同行はできないけどね」
「なんですと? 姫様方は一体、どちらへ……」
この村はすでに炎竜に知られている。あの脅威がいつまた飛来するかもしれない状況だ。俺達が夜営のために広げた道具を再び馬車に詰め込む間に、村人達は退避を決意したようだった。
「フェン……」
村人の集団の中から、パンの叔母さんかもしれない女性が進み出る。そのまま俺とエダの間に座るパンの頭を優しく撫でてくれた。
「クゥン?」
「新しいお母さん達の言う事を良く聞くんだよ……。もう身体に悪そうなお肉も食べないように……、ね」
当の撫でられている本人は、この女性が自分にとってどんな存在なのか知る由もない。だが、自分に優しく接してくる人の感情は理解できるのだろう。
「クゥン!」
と、元気よく返事を返していた。
パンの正体については一応の真実を見た。
だが、依然としてお母さんの情報はないし、熊人族の山里の情報も少ない。なにせドワーフ族から離反した集団の里なので、村長さんにさえ詳しい場所を教えていないのだそうだ。袂を分かった少数の家族だけがほそぼそと連絡を取り合うのみらしい。
人型になれるかもしれないと知っても、俺達の子同然のパンに人の肉なんて食べてもらいたくないからな。現状は熊人族の知識を得られたというだけで、満足するしかないだろう。
視線を元に戻すと、スクルドさんと村長さんの会話も続いている。こちらは何やらお互いが難しい顔で話し込んでいるようだ。
「スクルド様、[魔の森]へ女性が行くなど無謀です! どうかお考え直しをっ!!」
よくよく観察してみれば、難しい顔どころの話じゃない。なにやら村長さんが尋常ではない声色で、スクルドさんへ詰め寄っている。でも怒っているというより、心配しているかのようだ。
「……どうかしたんですか?」
そのあまりの剣幕が気になった俺は、その会話の中へと入ってみた。
「コウキ殿。どうか、スクルド様をお止め下さい! 貴方がたがこれから向かう魔の森は[女食いの魔女]が居る大変危険な場所なのです!!」
スクルドさんでは止めようも無いと感じたのか、村長さんは俺にズズイッと迫ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってください。[魔の森]?[森の魔女]? そんな話は初耳だぞ!?」
俺は慌ててスクルドさんに説明を求めた。騒ぎを聞きつけたのか、エダやヴェルも此方の話に参加してくる。
「あちゃー、もうばれちゃったか。これからアタイらが行く先にはね、魔の森って魔女の領域があるんだよ。そこを突破しなきゃ、ミーミルの泉にはたどり着けないのだけどね?」
「でもスクルドさんは一度、行ったことがあると……」
まるで隠し事が親にバレた子供のように舌を出すスクルドさん。
そういえば目的地の状況などの詳しい情報を、俺達はまだ何もしらない。エダも不安そうに経験者に尋ねた。
だがその問いに対する回答は、なんとも不安なものだったのだ。
「ああ、その魔の森の中には入ったよ。なにやら気持ち悪い霧が立ち込めている森でねえ、こりゃマズイってんで途中で逃げ帰ってきたのさ」
ええ……、それって行ったって言えるのか?
「以前にも、森の恵みをもらいに村の女達が入ったことがありましたが……。若い娘達だけが帰ってきませんでした。不思議なことに、男共が狩りに行く分には何も問題がないのです」
とは熊人族の村長さんの弁。
ええ……、ここに居る俺達ってみんな若い女性なんですけど……。
なぜ教えてくれなかったのか? という俺達の視線がスクルドさんに襲い掛かる。だが、当の本人はケロっとしたものだった。
「初めに言っておいたはずだよ? とてつもなく危険だって。それを承知の上で行くと決めたんだろ?」
「確かにそれはそうだけど……。これから予定される危険については知っておきたいよ」
俺の反論に、スクルドさんは当然だとばかりにうなずく。
「そりゃそうだ。でもアタイがこれまで話さなかったのはね、魔の森の話を聞いて士気が低下しないかと危惧したからさ」
引き返すことも出来ない頃に話す算段だったんだよ。と、スクルドさんは素直に告白した。更にスクルドさんの独白は続く。
「魔の森に潜む魔女はね。文献をさかのぼれば、最古の記述はドベルグル建国の頃にまで残っている。どんな人物か、もしかすると魔物なのか、はたまた神なのか。その正体は誰も知らない。ただ、[グルヴェイグ]という単語が知られるのみだ」
「グルヴェイグ……。それは魔女の名前なのでしょうか?」
むむぅ、俺の現代の知識にも[グルヴェイグ]という名前は無い。俺の知識なんてせいぜいゲームか、アニメから得たものでしかないからだ。
「おそらくそうなんだろうね。ただ一つ、現地での情報はさきほど村長さんが言ったとおり。[男性以外、立入禁止]な森ってことだけだね。まったく、どんな男好きの魔女がいるのやら」
そこまで話を聞いて、俺はなにやらイヤな予言を抱いてしまった。
「……スクルドさん」
「んっ?」
「それって多分、逆じゃないのか? 男は無事に帰ってきたんだろ? だが、女性は帰ってこなかった。それって無類の女好きってことじゃないのか?」
その場にいる全員の顔が、俺の発言によって酷く歪んでしまった。でもだって、そういうことだろ!?
「どっちにしろ行かなきゃいけないんすから。当たって砕けろっす!」
「クゥン!」
セッパ家の次女ヴェルとパンダのパンは、何時もの調子で猪突猛進な言葉を叫んでいる。いや、砕けちゃダメだろ。なんか最近、パンがヴェル化してきているような気がする。あんまり悪影響を与えないでもらいたいもんだ。
どちらにしろ、スクルドさんの考えは的中しているのかもしれない。
俺達がこれから突破しなければならない森には狂気の男好きか、狂気の同姓愛者が待ち構えているのだ。
最後までお読み頂き有難うございました!
先日、フォロワーさんから感想を頂きました。過分な評価をいただき、創作意欲が劇的に増した自分は単純な人間です(笑
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