第14話 新たな脅威
遅くなってすみません。
毎日投稿ここのかめ!
第14話です。
「しゅっぱつ、しんこぉ――!!」
「クゥ――ン!!」
馬車の天井から、元気の良い一人と一匹の叫びが響き渡る。
あの辛くも楽しいデートから四日後。
ようやく全ての準備を整え終えた俺達は一路、ミーミルの泉に向けて馬車を走らせ始めた。天井で暴れているせいか、馬車の骨組みがギシギシと悲鳴を上げている。
「お前ら、やっぱり降りて来い! これじゃ到着する前に馬車の屋根が倒壊するぞ!!」
「だいしょうぶっすよー。ドベルグル製の馬車はそんなにやわじゃないっす!」
だが実際に新品の馬車でさえ悲鳴を上げている。俺の隣にいる相棒も心配そうだ。
「大丈夫だよ。この馬車に使われている木材はドベルグル特有の材木でね。その最大の特徴はしなりの良さ。こうしてたわむことで、衝撃を受け流しているのさ」
御者をかって出てくれたスクルドさんが、笑いながら品質を保証してくれる。
お姉さんの太鼓判をもらって、天井の騒ぎは更に激しくなってしまった。
なるほど、京都にある五重塔みたいなもんか。と、感心して綺麗に塗装された馬車の骨組みに触ってみる。
硬い材料は一度衝撃に負けるとボキリと折れるだけだが、柔軟な材料はたわむことで衝撃を逃がす。おそらくこの馬車は一本の鉄釘も使わずに組まれているのだろう。まったく、この時代では考えられないくらいの発達した大工技術だ。いや、むしろ鉄が貴重なこの時代ならではだな。
「けっこう乗り心地いいだろ? この木材の特徴は丈夫なだけじゃない、地面から伝わる衝撃も吸収してくれるのさ。最近では植林も始めているんだよ?」
更になるほど。さすがのドベルグル皇国でもゴムの発明はさすがに無いかと思っていたのだが、この木材さえあれば必要ないのか。
まあ、さすがに裕福なお宅でなければこれほどの馬車を保有することは出来ないだろうし、現代のゴムタイヤに比べれば乗り心地は悪い。
それでもこの時代で考えれば凄まじい産業の進歩だ。俺はありがたく束の間の楽しい馬車旅を謳歌させてもらった。
標高が下がるにつれ、皇都付近で活動していた火山郡の影響が薄れてきたのを実感する。標高の高い地域の方が気温が低くなるのが本来の自然のあるべき姿なのだが、この大陸では標高が低いほど地熱が弱まり肌に寒さがこたえる。
あれだけ登るのが大変だった皇都レイキャヴィークへの道のりが、下りともなると速いなんてものじゃなかった。なにせ四日かかった道をわずか一日で降りてきたのだ。
西の空が赤く染まる時間帯になった時には下山を終え、俺達の馬車は港町ヴィリンガホルトへと続く道からお別れを告げて西の平野へと進路をとっていた。
「コウキ、エダ。そろそろ上着を着ておきな。旅の途中で風邪でもひいたら大変だからね」
「はい」
「了解、この小麦平野がなんとも懐かしい気がするよ。お、ここらは牧羊もしているのか」
スクルドさんの言葉に素直に頷いた俺達は、聖気を用いて防寒用として買った上着を取り出した。
エダは前々から戦乙女の鎧を顕現するのに使っていた権能だが、俺は覚えたてホヤホヤだ。実はこの[収納の奇跡]はそこまで難しい権能ではなかったらしい。もちろん聖気を扱えることが大前提だが、相棒の血をちょいと拝借して練習してみたらアッサリと使えるようになった。
それでも俺はゲームで例えるなら[収納の奇跡Lv.1]の状態らしい。今のところ、身の回りの物程度しか収納できる容量しかないのだ。更に言えばどれだけ鍛えてLvアップしたとしても大量の物資を入れ込むことは出来ないらしい。
「確かに……。この権能が無尽蔵なら馬車なんて要らないもんな」
「はい。そんなことができるなら商人達はこぞって、神官達を商売の道へ連れ込むでしょうから」
まったくもってその通りである。
「お、村が見えてきたっすよぉ――!」
相変わらず天井でのんびりしているヴェルが、俺達に今夜の宿泊場所を知らせてきた。
「りょ~かい。っていうかお前もさっさと上着を着ろ!」
「むぷっ、わかったっす。でも動きづらくてイヤなんすよね~、着込むの」
俺はそう言いながら、ヴェル用の上着を投げてやる。ぐちぐち言いながらもドワーフの少女は袖を通しているようだ。
そんな時だった。
これまで快調に進んでいた馬車が、突如とまったのだ。
「まった。な~んか、様子がおかしいね……」
御者の席から、スクルドさんの不穏な言葉が車内に飛び込んでくる。
「様子がおかしい、とは?」
いち早くその言葉に反応したエダが馬車から顔をのぞかせる。
「もう日が暮れるっていうのに、村から灯りが見えてこない。……それに夕飯の支度をするにしては煙の量が多すぎる。こりゃあ、なんかあったね」
スクルドさんの言葉が俺達の間に緊張を走らせた。
「ヴェル、何か見えるかい?」
「う~ん、なんにも見えないっすけど……。あれ? なにか、赤い雲があるっす」
赤い雲だって? 夕焼けのことかと思ったが、それならヴェルがわざわざ言うまでもない景色だ。どうにも違和感がぬぐえない。
「あれは、……雲じゃないね。まさか……赤い煙を見に纏った、炎竜かいっ!!」
信じられない物を見たかのように、スクルドさんが叫んだ。おいおい、この大陸には普通に竜がいるのかっ!?
「スクルドさん、馬車を林の中へっ! 今、この馬車を失うわけにはいきませんっ!!」
「あいよっと!」
まだまだ旅は序盤だ。この馬車にはこの旅で必要な食料や備品が山積みになっている。こんなところで燃やしてしまうわけにはいかなかった。
「村が燃やされていた? ……っ。コウキと私で先行します! スクルドさん達は援護をっ!!」
そう叫んだエダは馬車から飛び降りると俺へと視線を向ける。相棒が何を言いたいかは重々理解していた。続けて俺も馬車から飛び降りる。近くに駆け寄った俺の口に、相棒はためらい無く自身の口を近づけた。
一瞬の白光。
その瞬間に、俺の姿は白銀の宝珠竜に変貌した。
すかさず俺の鋼の鱗に包まれた背中に、柔らかい感触が伝わってくる。
「行きますよ、コウキ!」
「おうよ!」
王都シグムント以来の戦闘だ。俺は自分自身に気合を入れなおしてから翼をはためかせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
てっきり戦闘開始かと思った俺達は、今夜の宿を借りるつもりだった小村の上空にたどり着いてあっけにとられた。
肝心の炎竜は、急速で近づく白銀の光をまとった俺達に警戒したらしい。やるべき事は終わったとばかりに地平線の彼方へと消えていった。
拍子抜けな結果だったが、無駄な戦闘をすることもない。それよりも俺達にはすべき事があった。
地平線へと向けていた視線を、地上の炭と化した小村へと移す。その光景はこの世の地獄と呼ぶに相応しい光景だった。
「……生存者を探します。降りましょう、コウキ」
「わかった。……っ」
悔しそうな声で低く呟いた相棒の声に短く答える。俺は一瞬、反論しそうになった口を閉じた後、ゆっくりと降りてゆく。
今、彼女の前で。
この惨状で、生存者なんて居るわけが無い。なんて、……言えなかった。
俺達が今夜の宿を借りようとした小村は、二十件ほどの小屋のような家が立ち並ぶ小村だった。一件につき親子三人が住んでいたと仮定しても、六十人ほどの村民達が生活していたのか。周囲には小麦畑と一緒に、羊を放牧していたであろう草原もあった。だがそれのどれもが今では黒く染まってしまっている。
地上に降りると共に、焼け焦げた肉の臭いが鼻についた。それが生きながらにして焼かれた人の肉だと思うと吐きそうになる。それでも俺達は、生者として当然の義務を果たさなければならない。竜神教の巫女という神職に着いているエダなら尚更だ。
不幸にもこのような惨劇に巻き込まれた人達を、せめてゆっくり眠らせてあげなくては、ならない。重い、重い沈黙がこの場を支配していた。
早急に人間の姿に戻った俺は、相棒と一緒に遺体探しを開始した。だが、最初は奇跡を信じていた俺達も、無数の焼け焦げた遺体をいくつも発見するにつれ、絶望の闇に包まれてゆくまでに時間はかからなかった。
それでも手を止めるわけにはいかない。
もう十人分の遺体を弔った頃だったろうか。
空が夕闇に染まりきる前に今、出来るだけの人達を地に返してあげる。けど、これで全員ではないだろう。申し訳ないけど、夜間の救助活動は俺達にも危険が及ぶ。
俺とエダは今だ、何処とも知れぬ場所に居るであろう人達にお祈りすると、今日の作業を終了させた。
「一度、村の入口に戻ろう。もう、この村に宿泊の許可を取ることはできない……」
「……はい」
なんとも足取りが重い。
自分達ではどうしようも出来なかったとはいえ、もう少し早く到着していればと思わずにはいられない。
もう少しでスクルドさん達も到着するはずだ。
俺とエダは憔悴しきった心を誤魔化しながらも夜営の準備にとりかかった。
「……じゃあ俺は薪を拾ってくるよ」
「はい。……お願いします」
この村で火を使うのは心情的に抵抗があったが、背に腹は変えられない。エダも炎竜が焼いた家屋の木材を使おうとは言わなかった。
今はまず自分達の安全を確保するのが最優先だ。村の惨状がどうであろうと、俺達は自分の大切な人達のために進まなければならないのだから。
そう思って地面から腰を上げると、俺の鼻が違和感を感じ取った。
「エダ。……待った」
「コウキ?」
「今まで炭の臭いで分からなかったけれど、これは……。生き物の臭いだ! しかもそれなりの人数!」
俺の言葉に、相棒が救われたような顔を見せてくれる。だけど……、これは。
「っ、コウキ?」
慌てて立ち上がったエダの顔前を、俺は自身の腕でさえぎった。これ以上前に行くなという意思表示だ。
「……鋼の臭いもする。間違いなく、武装してる。警戒しろ」
とりあえず敵意はないようだが、この惨劇の後だ。どんな誤解を受けるか分からないし、相手も興奮しているかもしれない。
正体不明の軍勢は、もう村のすぐそばにまで接近していることを俺の鼻が告げている。だが、その動きは相当に緩慢なものに思えた。
「どなた様、かね。旅のお方かい? 申し訳ないが、水と食料を……」
謎の男はそれだけを言うと、力尽きたかのように膝をついた――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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