第13話 デート
毎日投稿ようかめ!
第13話です。
暗い話より、楽しい話を書いている方が楽しいですね。
まあ、それだけじゃ文字通りお話にならないんですけど……。
――キィン、キャン……キンッ!
「あっちゃぁ……」
「まだまだ、だね。腕力や素早さなんかの身体能力は大したもんだけど純粋に剣術がなってない」
もう何度目だろうか。
拾っては握り、拾っては握る。もう右手の握力が残っているかどうかも分からない。
俺は今。
宝珠竜の力に頼らない戦い方を身に着けるため、スクルドさんの前で剣を構えていた。何しろまだまだ俺の戦闘に関する引き出しは少ない。これまでの戦いを思い返せば、俺の戦闘スタイルはただ強大な力をぶつけるだけなケースが、圧倒的に多いのだ。
ここから先の戦いでは敵が強いからといって、後先のことも考えずに全開でぶっ放すことはもう出来ない。なぜなら、今回向かうのは氷河で造られた氷の洞窟なのだ。俺のミスで皆が生き埋めになってしまうなんて笑えないにもほどがある。
「もう一度、……お願いしますっ!」
「ああ、何度でもかかってきなっ。コウキ君の剣はみ~んな、このスクルド姉さんが受け止めてあげるさね!」
そういって短剣と長剣の間の長さの二刀を、くるくる回しながらスクルドさんが不敵な笑みで応じてくれる。俺のこれまでの鍛錬は相棒のエダとしかやってこなかった。スクルドさんの剣は早さと手数が最大の武器。一見、エダと似ているようだがリーチが短い分、その斬撃の速さと手数は段違いだ。
こうして色々な戦士との経験が俺の地力の向上につながる。本当にありがたい。
ありがたいのだけど……。
「……むぅ」
いちいち俺の相棒を挑発するのだけは、やめてもらいたいもんである。
「あいててて……」
ようやく鍛錬が終わって。
俺はしびれた手を冷水につけてアイシングをしている。なにせ、スクルドさんの鍛錬はエダと違って容赦がない。宝珠竜の身体じゃなければついていけなかっただろう。
「大丈夫ですか……?」
「ああ、ぜんぜん平気さ。これくらいの怪我なんてケガのうちに入んないよ。それに……」
俺が今、腕を浸しているのは皇都レイキャビークの火口湖の水だ。ヒンヤリと冷たくて、まるで俺の腕の痛みを取り去ってくれるような気持ちよさを感じる。本当に不思議な水だった。
「やはり、私が練習相手を務めたほうが良いのではないでしょうか?」
「始める前にも言ったろ? エダちゃんも確かに強いけど、それは騎士様の剣だ。これから先の相手はまともな人間とは限らない。もっと言えば、人間とも限らない。こういう時は邪道な剣への対応策も身に着けないとね?」
むう。
地面にへたり込んでいる俺とは違って、スクルドさんは汗もかいていないように見える。あのヴェルのお姉さんなんだからもっと直接的な力技かと思ったら、その技は実に巧妙でずる賢い。出発まであと4日、それまでにはせめて一本くらいはスクルドさんから取ってやらないとな。
「さぁ、どんなものでもやり過ぎは良くない。昼食を摂ったらこの街を散策するんだろ? どんなところでも案内してあげるよ! ……あ、でも先ずはあそこは行っとかないとね」
「あそこ……?」
スクルドさんが楽しそうに歩きながら俺のエスコートを申し出てくれる。しかしその前に行かなければならない場所があるみたいだ。どこだろう?
「西の職人街の長、ヴェストリさん。装飾品に魔石を通し、様々な効果を生み出す魔法具職人界の棟梁さんだね」
そんな首を傾けた俺達に、スクルドさんは楽しそうこちらを振り返りながら目的地を教えてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
南の武器職人街とは違って、西の魔法具職人街は武骨な雰囲気がまるで無い街並みが広がっている。いや武骨どころか、まるで一流ブランドが軒を連ねる芸術都市のようだ。
「こりゃぁ、ちょいと近寄りがたい雰囲気をかもし出してる職人街だこと……」
この大通りの入り口である門をくぐった俺は、この雰囲気に尻込みしながら一歩後ずさってしまった。
「本当に行くのか? 俺はちょっと遠慮したいんだけど……」
「なぜだい? 女の子にとっては憧れの聖地だよ?」
「本当に……、なんとも心躍らせられる街です!」
右側にいる相棒は、俺とは正反対の反応を見せている。左側にいるセッパ家の長女様も似たような反応だ。確かに自分を着飾って綺麗になりたい女の子にとっては最高の場所なのだろう。
だが俺にとっては未知の魔境といっても過言ではない。なぜなら生前の俺は、女性のじの文字も関わりを持ってこなかった男だ。もちろんこのような華やかな場所にも来たことなんて一度たりとも無い。この敵地で何をどのように振舞えば良いのかさっぱりだ。
「や、やっぱ俺はヴェルとスズルさんの様子を見てくるわ。ほら、二人だけじゃ手が足りないかもしれないし? 助手の一人も居た方が完成が早まるだろうし?」
適当な言い訳を並べて、戦略的撤退を決め込もうとした俺の両腕に真っ白な腕と褐色の腕が絡みついた。
「ふ、二人とも……離してくれないかな~?」
「ダメです」
「ダメだね」
いつの間にこの二人はこんなにも意気投合したのだろうか。どうやら俺に拒否権はないらしい。
「さってさて、初デートの最初の行き先はどこにしようかねぇ」
「ああ――! やっぱりそういう魂胆だったのですね!? 監視のために着いてきて正解でしたぁ!」
「別にアタイが何もしなくとも、エダちゃんは着いてくる気まんまんだったじゃないか。違うかい?」
「むむぅー……」
二人の美少女が、俺を挟みつつもキャイキャイと喚きながら前進を始める。彼女達は本来の目的を忘れてはいないだろうか?
「おいおい、ヴェストリさんだっけ? その魔法具職人さんの所に行かなくていいのか?」
「いやあ、実はさっき連絡を取ったんだけどねぇ。希少な鉱石が採掘されたとかで最近は炭鉱に籠りっきりなんだってさ。まぁ、大丈夫。アタイ等の目的のブツはそんなに珍しいものじゃないから。他の店でも買えるよん」
「……何を買う予定なのですか?」
俺達の会話にエダが割って入る。そういえば何を買いに来たのかまだ聞いてなかったな。
「んー? ミーミルの泉は大地から噴き出す毒が蔓延しているって話らしいからね。浄化装置は必須なんだよねー」
「大地から噴き出す毒って……硫黄のことか? 固まると黄色になるヤツ」
「そうそう、ソレソレ。まあ、珍しいもんじゃないし炭鉱に潜る時の必須品でもあるからね。専門店ならドコにでもある」
「ならさっさと……んっ」
買って帰ろうと言いかけた俺の口をスクルドさんの指がふさいだ。
「だ、か、ら。これからの目的はソレじゃなくて。デートだって話だよー。さぁ、日が暮れるまで楽しもうか。ここには綺麗な服も沢山置いてるから、コウキ君にも似合いそうなの見繕ってあげるわ」
「ちょっ!?」
それってこれから半日、着せ替え人形にされるってことじゃないか! 俺は助けを求めるようにエダへと顔を向けた。だがスクルド姉さんに先手を取られたのだ。
「もちろん、アタイ等もコウキちゃんと一緒に可愛い服を探そう。楽しそうだと思わないかい?」
「……そういうことなら致し方ありません。私も同行することにしましょう。いいですね? コウキ」
もはや俺に退路はない。二人の美少女にがっちり拘束された俺は、この道の楽園へと踏み出すしか他なかったのであった。
「こんな高そうな宝石のついたネックレス、買っちゃって良かったのか? しかも三つも」
「お姉さんに任せなさいっ! 皇都に来た記念だと思えばいいさ。ふふ、コウキ君とおそろい~」
「むぅ、やっぱり私も同じ銀のネックレスにするべきだったでしょうか……」
「エダちゃんはやっぱり金がお似合いだよ。銀にしちまったら、その綺麗なプラチナブロンドな髪には到底、敵わないからねぇ。まったく、旅をしている人とは思えないほどの光沢だよ。是非とも維持の仕方をご教授願いたいねぇ」
時刻はもう夕方。
二人の買い物に付き合わされた俺はへとへとになりながらも、セッパ家の屋敷へ戻るために最後の力を振り絞って歩いていた。
前世で母や姉の買い物に付き合わされた記憶を思い出すような時間だった。
だが、今回はそれよりも大変だったと言わざるをえない。女の買い物はとにかく時間がかかる。前世ではどこかで時間を潰していればよかったのだが、今回は女の身体をもった俺も同行せざるをえなかったのだ。何の因果か女性の身体を得てしまった俺は、楽しそうに大量の服を持ってくる二人を前に抵抗する術を持たなかった。
(まあ、二人が楽しそうだし、良いか……)
この世界に来てからというもの、楽しい時間もあるがそれ以上に苦難の道筋が俺達を待ち構えている。
いや、もしかすると平和な日本という国から来た俺だからこそ、なおさら感じているのかもしれない。何度、心を壊されそうな危機に遭遇しても笑顔を取り戻す相棒には尊敬の念すら覚えてしまう。
どの世界にも永遠の平穏などありはしないのだ。
本日の戦果は俺とエダの普段着と旅用の丈夫な服、浄化の魔石があしらわれたイヤリング。それとスクルドさんが記念にと俺達に贈ってくれたネックレスだ。
ネックレスに関してはエダの目が見開くくらい高額だったようで、本当にこのような品を頂いて良いのかと彼女は何度も確認していた。
そのネックレスに関しては、店員さんがお勧めするまでもなくスクルドさんが即決で購入してしまった。曰く、絶対俺達に似合うということらしい。ちゃっかり俺とお揃いを購入してペアルックにしてしまう手腕も流石の一言である。
「こんな生活ばっかりだったら、幸せなんだろうけどなあ……」
今日の思い出を楽しそうに語る二人の後ろで、両手に荷物を抱えながら俺はボソリと呟いた。だが本当の幸せはミーミルの泉に行かなければ手に入らない。重病のウルズちゃんと昏睡状態のトキハを放っておけるわけもない。
ならば俺達は、前進するほか道はないのだ。
「コウキ~! 置いていっちゃいますよ~!」
「なんだい? もしかして荷物が重くてバテたとか言うんじゃないだろうね?」
二人の元気な声が、俺の耳に届く。
この先の試練を乗り越えられたら、この二人の笑顔はもっと素晴らしいものになるだろう。
「今行くよ。っていうか歩くペースが速いぞ!」
俺は笑顔のまま悪態をつくと、二人に追いつくために歩を早めた。
この先に、素晴らしい未来があることを信じて――――。
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