第11話 魔の鍛冶屋スズリ(後編)
毎日投稿6日目!
第11話です。
新キャラが出始めてきたので、時間のある時にキャラ紹介に追記しようと思います。
「こっちの金髪の姉ちゃん」
「はっ、はい!」
随分と長い時間が,スズリさんの屋敷の地下にある鍛冶場で経過していた。その間、ずっと右手をつかまれたままの俺達はヴェルの入れてくれたお茶を左手でもらいつつ、この体勢を維持している。じっと同じ体勢を維持しつづけるというのも疲れるものだ。
「お前さんも人間じゃねえな。なんだ? 天女さまの相棒は、女神さまか? まったく、酷い客が来たもんだ……」
そう言いながら、やっとスズリさんは俺達の手を離してくれた。
「そっちの天女の嬢ちゃんは問題ねえ、今この鍛冶場にある最高の魔鉱石で最高の細剣を作ってやる。だがなぁ……」
頭をボリボリかきながら、スズリさんの眼光が俺にうつる。
「……」
「なっ、何か?」
「女神の嬢ちゃん。お前さん、これまで使っていた剣をどうしちまったんだ?」
「え、えっとぉ……」
スズリさんの一言に心臓がドキッと跳ねた。さすがに武器職人さんの前で食べちゃいましたとは言いづらい。
「……お前さん、神剣を使ってたな?」
俺の心臓が更に跳ね上がった。まさか、手の平を見ただけで以前まで使っていた剣がどんなものか解ったのだろうか。
「そっちの天女の嬢ちゃんの剣は問題ねえ。問題ねえと言っても規格外だがな。聖剣なんて呼ばれるものなんだろうが、それでも下界で鍛えられた剣だ。ワシが意地でも魂を籠めて同等の剣を作ってやる。だが……」
スズリさんが一度はエダへと目をやり、そして再び俺に眼光を向けた。
「女神の嬢ちゃん。お前さんは本当の規格外だ、くやしいがな。真の神々が鍛えた神剣、ワシも一度拝んでみたかったぜ」
その時見せたスズリさんの表情は、本当にくやしそうだ。
「私の剣と同等の剣なら、コウキにも作ってもらえるのでしょうか?」
エダがそう食い下がるもスズリさんの答えは変わらない。
「まっぴらゴメンだ。俺は鍛冶師だ、常に持ち手の最上の相棒を作り出すのがワシの仕事であり、ワシの使命だ。もし、お前さんがただの魔剣を持ったとしても剣がついてこねぇ。当たり前だな、前の相棒に己が劣っているという事実に魔剣自身が絶望するだろうよ」
まるで剣を生き物であるかのように語るスズリさんに、俺とエダは沈黙せざるをえなかった。
その時だ。
ふと閃いたイタズラを、俺は実行した。この人は最高の鍛冶職人だ。なら自分のプライドにかけても首を横には振れないはず。
「そうですか、残念です。貴方の弟子は俺の剣にピッタリな相棒を用意してくれたんですがねぇ」
「……なんだと?」
スズリさんの表情が怒気に染まる。俺はそれを承知の上でエダに向かって声をかけた。
「エダ、あの鎧を出して」
コウキの意図に気付いたのだろう、エダはゆっくり頷くとヴェル作の戦乙女の鎧を顕現した。信じられないという表情で空に浮く白銀の鎧を凝視するスズリさん。
「これを、本当にウチのサル姫が作ったのか?」
「あら? 師匠であるスズリさんが、弟子であるヴェルちゃんの作品を見分けられないわけがないでしょう?」
エダの身体へとゆっくりと落ちてゆく戦乙女の鎧、そして一瞬、フッと消えたかと思えば、次の瞬間、エダの身体に戦乙女の鎧が纏われていた。その姿はこの皇都の住人であるスズリさんには衝撃の光景だろう。なぜなら、自分の信仰の対象であるスルーズ様と同様の神意がそこにあるからだ。
「もういい! わかったわかったっ!!」
俺達の企みを十分に理解したのだろう。 もう参ったとばかりにスズリさんが両手を上げた。
「納得していただけましたか?」
ニッコリと最高の笑顔を浮かべるエダ。
「理解はした。……だが、附に落ちねえ点もある。ヴェル、おめぇ、この鎧に白銀鋼を使ったな?」
ギロリと言う視線が、今度はヴェルに襲い掛かる。
「白銀鋼って……?」
鍛冶に関しては門外漢である俺に、スズリさんが説明してくれる。
「白銀鋼ってのはな。本来、俺らが使わねえ銀と鋼の合金だ。そのまま使ったんじゃただのナマクラしか出来やしねえ、銀は固くねえからな」
俺達が話を聞く横で、ヴェルはダラダラと汗をかいている。
「だがその分、見た目の良さは一級品だ。その鎧に使われている白銀鋼はな、奉納用なんだ。鎧の形が朽ちるまで祭壇に奉納し、神々に纏ってもらうための実用性がまるでない鎧なんだよ」
「おいっ、ヴェル!」
俺は事の真意を隣のヴェルに問いつめる。しかし当の本人は良い訳に四苦八苦していた。
「いやぁ。初めてコウキ姉の姿を見た時は、この人こそ女神さまの生まれ変わりだと思ったんすよねぇ……。それでコウキ姉に似合う鎧を作ろうと思ったら、どんどん……」
どんどん実用性から離れていったわけだ。
「でもでも。一応、鎧には魔石による防御効果を付与したんすよ? まったく使えないってわけでもなかったでしょ?」
「……私とコウキが権能に目覚めて本当に良かったです。鎧としては期待できないものだったのですね」
俺達の中で微妙な空気が流れる。それも当然だろう。自分の命を守ってくれると期待していた鎧が、まさか何の防御力もなかったなんて。
「もし魔石のおよばない鎧部分で聖気を貫かれていたら、大変なことになってたぞ!?」
「いや、それがそうともかぎらねぇ」
盛大な苦情をドワーフの少女にまくしたててしまった俺を止めたのは、意外にもスズリさんだった。
「偶然の産物なんだろうが、今見てわかった。この鎧は強い」
「ホントっすか!?」
俺にもみくしゃにされていたヴェルの口から、うれしそうな声が上がる。
「勘違いすんじゃねえぞ? これは偶然の産物だと言っただろうが。作ったのはサル姫だが、鍛えたのはお前さんらだ」
「俺達が……?」
スズリさんの言葉に俺とエダはお互いの顔を見やった。
「お前さんらの放つ、聖気、だったか? が、この鎧を鍛えたんだ。……白銀鋼の鎧を奉納する伝統は間違ってなかったって証明だな、こりゃ。まさか、教えてなかったのか?」
ヴェルはもう逃げる準備は始めている。あの時点で俺が宝珠竜だったことはヴェルには話していなかった。なら、ヴェルが俺に奉納用の実用性皆無な鎧を渡したことに違いはないからだ。
「だが、これでワシの方向性は決まったんだがな」
「「「えっ?」」」
「二番煎じなのが気にくわんがな。このサル姫でここまでの鎧が出来上がるなら、ワシが作る武具なら最強の大傑作がつくれる……ふふふ、腕がなってきたわっ!」
グググッとスズリさんの腕の筋肉が盛り上がり、血管までもが浮き出ている。そんな光景を俺達は黙って見守るしかなかった。
「これで解決したって、ことで、……いいのか?」
「いい、……みたいですね」
「にゃはは。さすがししょー、ノリいいっすね~」
「サル姫、お前も手伝え! 鍛冶職人スズリ、一世一代の大仕事だぁ!!」
「りょうかいっすー」
「軽く答えるんじゃねぇ! とりあえず皇国にある白銀鋼、全部かき集めてこい! 剣といわずに装備一式、お前等のために作ってくれるわ!!!」
こうして俺達は武器と防具を新調した。事情を説明して時間がないことを告げると、超特急でやってくれるらしい。
とりあえず、ミーミルの泉に行くための準備の一つをこなした俺達だった。
最後までお読み頂きありがとうございました。
ちなみに白銀鋼なんて合金は存在しません。作中でも言ってますが柔らかくなるだけですし。
実際、やろうと思えば出来るのかなぁ……。
銀がもったいないですね(笑




